一般に「クビだ!」「解雇だ!」というときに、その解雇の種類について意識することはあまりないかもしれません。しかし、解雇は、その種類によって、認められる条件や社会的な意味合いは大きく異なってきます。
ここでは、解雇のうち、懲戒解雇について、その法律的な意味や、どのような場合に許されるのか、懲戒解雇された後にとるべき行動、再就職時の問題等について解説したいと思います。
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懲戒解雇とは何か~普通解雇との違い
解雇には、懲戒解雇、普通解雇、整理解雇という3つの種類があります。
このうち、懲戒解雇とは、労働者の特定の行為に対する制裁、つまり罰として行われる解雇です。懲戒には減給や停職など、様々な種類がありますが、その中で一番重いのが懲戒解雇です。
これに対して、普通解雇は、労働者に「制裁」を与えるためではなく、成績不良や適格性の欠如等を理由に雇用契約を終了させようとするものです。
雇用契約を終了させるという点では懲戒解雇と同じですが、罰を与えるわけではないという点が大きく異なります。
このように懲戒解雇と普通解雇は質的に大きく異なるものですので、まず、両者の違いをしっかり意識する必要があります。
なお、解雇の種類と、それぞれの解雇の有効性を判断する際のポイントについて、詳しくはこちらの記事も参考にしてください。▼解雇の種類について
また、退職願の提出を勧告し、退職願が所定の期間内に出されなければ懲戒解雇とする諭旨退職処分という処分もあります。▼諭旨退職処分とは何か
有効な懲戒解雇となるための要件
では、どのような場合に懲戒解雇を行うことが許されるのでしょうか。
普通解雇でも、客観的合理的な理由がなかったり、や社会通念上相当と認められなければ無効となります(労働契約法16条。詳しくはこちらをご覧ください≫解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~)が、懲戒解雇の場合、さらに「制裁」として行われることから、これが許されるためには厳しい条件があります。
労働契約法15条
懲戒解雇がどのような場合に許されるかを考える上で重要な法律が労働契約法15条です。
労働契約法15条は、会社が労働者に対して行う懲戒処分全般について
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする
としています。
つまり、懲戒が有効になされるためには、まず、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でなければいけません(その意味については後で説明します)。
また、その場合でも客観的合理的理由がない場合や社会通念上相当と認められない場合には、懲戒に効力が生じない(無効)とすることによって、労働者の保護が図られているのです。
その具体的な意味について、これから説明していきます。
1 就業規則による定めと周知
まず、会社が労働者に対して懲戒処分を下すためには
- どのような場合に(懲戒事由)
- どのような懲戒がされるのか(懲戒の種類・程度)
が、あらかじめ就業規則に定められていなければいけません。このような定めがあって初めて「使用者が労働者を懲戒することができる場合」といえるのです。
懲戒解雇であれば、どのような場合に懲戒解雇になるのかが具体的に明示されている必要があります。
また、その就業規則の内容は、「各作業場の見やすい場所での常時掲示もしくは備え付け、または書面の交付」等の方法によって、労働者に対して周知されていなければいけません(労働基準法106条)。
もし、就業規則に明示がないと、あるいは、明示されていても周知されていないと、どのような場合にどのような罰を受けるのかが分からず、労働者の行為は不当に制約されてしまいます。したがって、就業規則への明記及び周知があってはじめて、会社が「罰」を加えることが正当化されるのです。
就業規則に明示がない場合、または、明示されていても周知されていない場合には、そもそも会社に懲戒権がないものとして、懲戒解雇は無効になります。
就業規則の意味や周知について詳しくお知りになりたい方は以下の記事をご覧ください。
▼就業規則の変更と周知のルールについて
なお、上で説明した就業規則の定めは、懲戒の対象となる行為の時点で存在していなければいけません。つまり、行為の時点では就業規則に定めがなかったのに、あとで就業規則を作ってさかのぼって適用する、などということは許されないのです。
また、同じ事由について一度懲戒処分を下したのに、これについて、後日再度懲戒処分を下すということも、二重の処罰が行われることになりますので、許されません(懲戒解雇は無効となります)。
2 懲戒解雇事由の存在
次に、懲戒解雇が有効となるためには、就業規則に定められた懲戒解雇事由が存在し、客観的合理的理由があることが必要になります。
ここで注意が必要なのは、懲戒解雇事由に該当するかどうかの判断方法です。
就業規則上の懲戒解雇事由は、多くの場合、幅広い解釈が可能なように抽象的な文言で定めらています。しかし、このような抽象的な定めが文言自体の意味だけで判断されたり、安易に拡大解釈されたりすると、懲戒解雇の対象はどこまでも広がってしまい、労働者の身分は非常に不安定になってしまいます。
そのため、懲戒解雇事由の意味内容は、限定的に解釈される傾向にあります。
具体例として、ある裁判例(平成25年6月21日大坂地方裁判所判決)を見てみましょう。
この事案は、取引先の社名、担当者名、連絡先、交渉経過のメモ、受注数量、単価等の情報が入ったハードディスクを自宅に持ち帰った従業員が、「会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を外に漏らさないこと」という服務規定に違反するとして、懲戒解雇されたケースです。
会社は、ハードディスクを自宅に持ち帰る行為は、情報を外部に流出・頒布する危険性を著しく増大させる行為であるから、「外に漏らさないこと」に違反する行為であると主張していました。
これに対して、裁判所は、
- 懲戒解雇事由の解釈については厳格な運用がなされるべきであり,拡大解釈や類推解釈は許されない
- 情報が外部に流出する危険性を生じさせただけで「情報を外に漏らさないこと」という服務規律に違反したことと同視することはできない
と指摘して、ハードディスクに保存された情報が外部に流出したことは確認されていない以上、自宅に持ち帰った行為自体が「会社の業務上の機密・・・を外に漏らさないこと」に該当するとは言えないと判断したのです。
このように、懲戒解雇事由の安易な拡大・類推解釈は許されず、これに該当するかどうかは慎重に判断されることに注意が必要です(似たような例として次のような例ケースもあります。▼懲戒解雇事由に該当するか~「名誉または信用を害した」の意味)。
3 社会的相当性
最後に、これまで説明したように、懲戒解雇事由が就業規則に明示・周知されており、これに該当するとしても、懲戒解雇が有効となるためには、さらに、行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものであることが必要になります。
例えば、どのような行為に対してどのような処分が下されるか、処分のバランスがとれていることが必要です。同じことをしているのに、人によって処分が異なるということも許されません。このような処分の重さの問題について、詳しくは次の記事をご覧ください。
▼その懲戒処分は重すぎる?~始末書の不提出と出勤停止(停職)処分
また、処分を下す際には、本人に十分な弁明の機会が与えられなければなりません。弁明の機会を与えられないまま行われた懲戒解雇は社会通念上相当なものとはいえません。▼弁明の機会のない懲戒解雇は有効か
これらの原則に照らして、社会通念上相当と言えない場合には、懲戒解雇に効力は認められない(無効となる)ということになります。
懲戒解雇事由の具体例
懲戒解雇事由としてよくあるのは、経歴詐称や、職務懈怠、業務命令違反、業務妨害、職場規律違反などです。
経歴詐称
経歴詐称が懲戒解雇事由になりうること自体は、多くの裁判例が認めています。
ただし、どのような経歴詐称でも当然に懲戒解雇事由になるというわけではなく、使用者の労働者に対する信頼関係、企業秩序維持等に重大な影響を与えるような重要な経歴詐称であってはじめて懲戒解雇事由になります。
経歴詐称による懲戒処分の効力が争われた具体的な事例については、以下をご覧ください。
▼経歴詐称で懲戒解雇は許されるか
職務懈怠
職務懈怠は、例えば、無断欠勤や勤務成績不良などですが、懲戒解雇は、普通解雇と違って「制裁」として行うものである以上、単に労働者が労務提供義務を果たさなかったというだけではなく、企業秩序を乱すにまで至っていることが必要です。
業務命令違反
業務命令違反も、よくある懲戒解雇事由ですが、そもそもその業務命令自体が有効なものかどうかという問題もあります。
一般に、会社は、雇用契約に基づいて労働者に業務命令を行う権限をもっていますが、当然のことながら、どんな業務命令も許されるということではありません。労働者が雇用契約によって使用者に処分を許した範囲内の事項であってはじめて業務命令は適法なものとなります。
したがって、このような範囲を超える業務命令はこれを拒否することができ、業務命令違反を理由とする懲戒解雇も当然許されなくなります。この点について詳しくはこちらをご覧ください。▼業務命令を拒否することはできるか
また、業務命令自体が適法なものである場合にも、その違反の重大性や、反復継続性、これにより企業秩序に与える影響の程度等が問題なります。
規律違反
規律違反として、例えば、副業・兼業禁止規定違反が問われる場合がありますが、こうしたケースについては、こちらをご覧ください。
▼副業・兼業禁止規定違反となるのはどのような場合か
内部告発が規律違反として問題となる場合もありますが、この点については、こちらをご覧ください。
▼内部告発の保護~内部告発による解雇は許されるか
懲戒解雇と解雇予告
ここまでは、懲戒解雇がどのような場合に許されるのかについて、主に懲戒解雇の理由という観点から見てきましたが、もう一つ、懲戒解雇手続きの側面からは解雇予告の問題についても触れます。
一般に解雇は労働者に重大な不利益を与えることから、法律上、使用者が労働者を解雇する場合には、30日以上前に予告をするか(解雇予告)、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことを義務づけています(労働基準法20条1項)。
もっとも、例外が認められており、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」については、このような解雇予告あるいは解雇予告手当の支払いは不要とされています(労働基準法20条1項但し書き)。
ここで「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」とは、「当該労働者に予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為があること」を意味するとされ、必ずしも懲戒解雇される場合とイコールになるわけではありません。
(例えば、普通解雇の手続きがとられた場合であっても、予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為がある場合には、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に該当し、解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要になります)
なお、労働者の責に帰すべき事由があることについては、行政官庁(労働基準監督署)の認定を受けなければならないとされていますが(解雇予告除外認定、労働基準法20条3項、19条2項)、裁判例上は、「解雇予告除外認定は行政庁である労働基準監督署による事実の確認手続きに過ぎず、即時解雇の不可欠の要件ではない」とされており(大阪地裁平成11年4月23日判決)、この考え方によると「解雇予告除外認定を受けていないから、当然に解雇予告手当を支払うべき」と主張していくことはできない点に注意が必要です。
関連記事
▼解雇予告や解雇予告手当が必要な場合とは?
▼即時解雇(即日解雇)が許される場合とは
懲戒解雇されそう/された時にとるべき行動とは
懲戒解雇されそうなときは
懲戒解雇は、実際に懲戒解雇されるよりも「退職届を出さなければ懲戒解雇にする。それが嫌なら自分から辞めるように」といって退職を迫られるケースが多いと思います。
そんな場合には、まずは、上で説明したような「懲戒解雇が有効となるための条件」に照らして、本当に懲戒解雇が可能なのかを冷静にチェックしてみてください。
もちろん、判断が微妙なケースも多いと思いますので、そんなときは遠慮なく弁護士のところに相談に行って、懲戒解雇が可能なのか聞いてみましょう。
またこのように、会社が労働者に対して自分から辞めるように迫ることを退職勧奨と言いますが、退職勧奨について正確な知識を持っておきましょう。この点について詳しくはこちら。▼退職勧奨が違法となるとき~退職届けを出す前に知っておきたいこと
そして、自分から辞めるつもりがないのであれば、きっぱりとNoと言うことが大切です。
退職するかどうかを考えるにあたって、懲戒解雇されたら退職金はどうなるのか、再就職は出来るのか、失業保険はどうなるのか等といった心配が浮かんでくると思います。これらについては以下の記事をご参照ください。
▼解雇や懲戒解雇されるデメリットは何か
▼解雇や懲戒解雇時の退職金はどうなるか
▼懲戒解雇と再就職~懲戒解雇歴を履歴書に記載する必要があるか
▼懲戒解雇された場合に給料をもらえるか
▼解雇・懲戒解雇された場合に失業保険をもらえるか
懲戒解雇されたときは
懲戒解雇について、少しでも納得のいかない点があるのであれば、まずは会社に対して解雇理由証明書の交付を求めましょう。
解雇理由証明書は、労働基準法により、労働者が請求した場合には交付することが義務づけられている書面です(労働基準法22条)。
解雇理由証明書の具体的な請求方法や、もらえない場合の対処については次の記事を参考にしてください。▼解雇理由証明書とは何か~請求方法からもらえない場合の対応まで
そして、交付された解雇理由証明書を持って、弁護士のところに、懲戒解雇の効力を争う余地があるのかについて相談に行きましょう。相談先としては、労働基準監督署や労働組合もあります。不当解雇の相談先と相談する際に気をつけたいことについては次の記事でまとめていますので、ご覧ください。
▼不当解雇の相談先と相談する際に気をつけたいこと
懲戒解雇と退職金
懲戒解雇された場合には、退職金について不支給あるいは減額とする会社も多くあります。
しかし、退職金は賃金の後払いとしての性質も持っています。そのため、たとえ懲戒解雇が有効であっても、当然に退職金を全額不支給あるいは減額できるわけではなく、不支給あるいは減額するためには、労働者に永年の勤労の功労を抹消あるいは減殺してしまうほどの不信行為があることが必要となります。
したがって、懲戒解雇については争わない場合でも、退職金の不払いについては争うという道もあります。
詳しくはこちら▼解雇や懲戒解雇時の退職金はどうなるか
懲戒解雇と再就職
懲戒解雇について争わずに受け入れる場合、一番大きな心配となるのは再就職の問題です。
履歴書に賞罰欄が設けられている場合がありますが、裁判例上、ここでいう「罰」とは「確定した有罪判決」をいうとされていますので、懲戒解雇歴を記載する必要はありません。
とはいえ、面接で、前職の退社理由について尋ねられたらどうするかなど、不安はつきないと思います。これらの問題点について、詳しくはこちらをご覧ください。
▼懲戒解雇と再就職~懲戒解雇歴を履歴書に記載する必要があるか
懲戒解雇と損害賠償
また、懲戒の場面では、会社から損害賠償を求められる場合もあります。会社からの損害賠償について知りたいという方は次の記事をご覧ください。
▼仕事上のミスを理由に会社から損害賠償請求されたときに知っておきたいこと
懲戒処分に関してお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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