解雇予告や解雇予告手当の制度については、一般の方にも広く知られるようになりました。しかし、その正確な意味についてはまだまだ誤解があるようです。
そこで、今回は、解雇予告や解雇予告手当の意味と、どのような場合に解雇予告や解雇予告手当が必要となるのか、また、解雇予告手当の請求方法等について、ご説明したいと思います。
納得がいかない、でもどうすればいいか分からない・・・そんな時は、専門家に相談することで解決の光が見えてきます。労働トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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解雇予告とは?解雇予告手当とは?
本来、期間の定めのない雇用契約では、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができますが、この場合、契約は「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」とされています(民法627条1項)。
したがって、労働者の側から辞める場合は、契約を終了させたい日の2週間前に予告をすればよく、2週間が経過することによって契約は終了することになります。
しかし、使用者の側から契約を終了させたい場合、つまり使用者が労働者を解雇したい場合については、2週間前の予告では労働者の保護としては不十分です。
そこで、労働基準法は、民法の定めを修正して、使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、「少なくとも三十日前にその予告をするか、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない」としたのです(労働基準法20条1項)。
この前者を選択した場合に行われるのが解雇予告で、後者を選択した場合に支払われる「30日分以上の平均賃金」が解雇予告手当です。
予告日数、手当額の算定方法
予告日数については、「一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる」(労働基準法20条2項)とされています。
したがって、使用者は、例えば20日前に予告した上で、10日分の予告手当を支払う、という選択もできます。
解雇予告手当の具体的な計算方法についてはこちらをご覧ください。
▼解雇予告手当の計算方法
なお、注意しなければならないのは、使用者は解雇予告手当さえ支払えば解雇出来るわけではないという点です。
解雇には、客観的合理的理由と社会的相当性が要求され、これらが欠ける場合には、たとえ解雇予告手当を支払ったとしても、効力は認められないのです。
どのような場合に解雇が許されるのかについては以下の記事で詳しく説明しています。
▼解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~
▼試用期間終了時の解雇は許されるか
また、解雇の種類と、それぞれの解雇の有効性を判断する際のポイントについては、こちらの記事も参考にしてください。
▼解雇の種類について
解雇予告あるいは解雇予告手当の支払いが不要な場合
解雇の予告あるいは解雇予告手当の支払いが不要な場合として、以下の場合が定められています。
① 解雇天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
② 労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合
②については、労働者保護のために解雇予告制度が設けられた趣旨からすると、解雇予告が不要となるほど労働者の帰責性が大きいことが必要といえます。
具体的にどのような場合に「労働者の責に帰すべき事由」があるといえるのかについて詳しくはこちらをご覧ください。
▼即時解雇(即日解雇)が許される場合とは
また、以下の労働者にも適用がありません。
① 日々雇い入れられる者(ただし、1カ月を超えて引き続き働いている場合は適用されます)
② 二箇月以内の期間を定めて使用される者 (ただし、所定の期間を超えて引き続き働いている場合は適用されます)
③ 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者(ただし、所定の期間を超えて引き続き働いている場合は適用されます)
④ 試用期間中の者(ただし、14日を超えて働いてる場合は適用されます)
解雇予告はあったか
これまで説明したように、30日以上前に解雇予告をしている場合には、解雇予告手当を支払う必要はないのに対し、解雇予告を行っていない場合には、解雇の際に、原則として解雇予告手当を支払う必要が生じます。
そのため、解雇予告手当の支払い義務の有無をめぐって、「事前の解雇予告があったのかどうか」が争われる場合があります。
例えば、ある裁判例(平成16年5月28日東京地裁判決)では、従業員が即時解雇されたとして解雇予告手当の支払いを求めたのに対して、会社側が、その2カ月以上も前に「勤務態度が改善されない場合は辞めてもらう」旨の最後通告をし、解雇予告していたのだから、解雇予告手当の支払い義務はないと主張して争いました。
これに対して、裁判所は、次のように判断しています。
- 解雇予告制度は、使用者の解雇の意思を事前に労働者に明示させて労働者に退職後の準備をさせる趣旨から設けられたものである
- したがって、「予告」は、いつ解雇されるのかが明確に認識できるように解雇の日を特定して予告しなければならない
- 会社が主張している「予告」は、具体的な退職日を特定して通告したものではないから、労働基準法20条1項の解雇予告に該当しない
- よって、会社は解雇予告手当を支払わなければならない
つまり、単に解雇の可能性を通告していただけでは解雇予告にはなりえず、具体的な解雇の日を特定して予告しなければならないのです。
したがって、解雇予告手当の請求をしたのに対して「事前に予告していたでしょ?」と言われた場合には、具体的な日付が特定されていたのかという点もチェックしてみてください。
解雇予告なしの解雇
以上で説明したことを前提にして、ある日突然、「今日付けで解雇、明日から来なくていい」と言われた場合について考えてみましょう。
こうした場合、解雇予告という制度が一般に知られるようになったためか、「解雇予告手当の支払いもなく解雇された!」いう点に最も反応して相談に来られる方がいらっしゃいます。
しかし、繰り返しご説明しているように、解雇予告制度は、労働者を保護するために設けられた解雇に対する制約制度のうちの一つに過ぎません。
より根本的な制約として、解雇には客観的合理的理由と社会的相当性が要求され、これらが欠ける場合には無効となる(労働契約法16条)という制約があるのです。(詳しくはこちら≫解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~)
したがって、この場合も、解雇に、客観的合理的理由と社会的相当性があるのかという点の検討が出発点として大事になります。
解雇理由としてよくあるのが「成績不良、能力不足による解雇」ですが、この点については、こちらで詳しく説明しています。
▼能力不足や勤務態度・成績不良は解雇理由になるか
また、その他に、そもそも解雇になっているのかという問題もあります。解雇されたと思って行動していたところ、後から会社から「自分で辞めただけ」と言われる場合というのは少なからずあります。この点について詳しくは次の記事をご覧ください。
▼解雇と自己都合退職の境界~「辞める」と口にする前に知っておきたいこと~
解雇予告手当の支払いがないと解雇は無効?
本来、解雇予告手当を払わなければならないのに支払われていないことによって、直ちに解雇が無効になるかというと必ずしもそういうわけではありません。
最高裁判所判決は、解雇予告をしなければならないのに、予告をせず行った解雇について、
即時解雇としての効力は生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過するか、通知後に予告手当ての支払いをしたときは、そのいずれのときから解雇の効力が生ずる(昭和35年3月11日最高裁判決)
と判断しています。
「使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り」という文言が入っていることもあって分かりづらいですが(実際、その内容が不明確だとして批判されています)、その部分を除くと、要するに、予告をせず、また解雇予告手当を支払わなくても、客観的に必要であった予告期間が経過すれば有効な解雇となる、ということです。
この考え方によると、仮に労働者が解雇が有効であることは特段争わずに、ただ、予告手当だけを請求しようという場合には、通知後30日の期間を経過すれば、予告手当の支払い義務もなくなってしまうことから、実際上は予告手当の請求は不可能となってしまいます。
そこで「労働者は、①解雇の無効の主張と②解雇が有効であることを前提としての解雇予告手当の請求、のいずれかを選択できる」とする立場もあり、実際にこの立場に立った裁判例もあります。
したがって、もしあなたが、「解雇自体については争うつもりはないけれど、解雇予告手当の支払いはしてほしい」という場合には、請求を最初から諦めてしまう必要はありません。
解雇予告手当の請求方法
ステップ1 解雇通知書と解雇理由証明書の交付を請求する
口頭で解雇を告げられた場合には、後日会社から「解雇したつもりはない、勝手に辞めただけだ」などと主張されることがないようにするために、解雇通知書を書面で出すように求めましょう。
解雇通知書を出させることによって解雇の日付も明確になり、解雇予告期間を置いた上で解雇したのか、予告期間を置かずに解雇したのかということもはっきりします。
また、解雇について争うかどうかを判断するためにも、あわせて解雇理由証明書の交付を求めましょう。
解雇理由証明書とは解雇の理由を記載した書面で、労働者が請求した場合、使用者はこれを交付することが義務づけられています。(労働基準法22条1項2項)
解雇理由証明書について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
▼解雇理由証明書とは何か~請求方法からもらえない場合の対応まで
なお、解雇通知書も解雇理由証明書も出してもらえないという場合は、速やかに弁護士のところに相談に行くことをお勧めします。
ステップ2 解雇を争うのか受け入れるのかをよく考える
解雇理由証明書を見た上で、解雇自体について争うかどうかを最終的に決めましょう。
解雇が無効であれば、会社は解雇予告手当の支払い義務もないということになりますので、解雇の無効を主張しながら、会社解雇予告手当を請求するというのは矛盾する行動になってしまいます。
したがって、解雇の効力を争うつもりがあるのであれば、解雇予告手当の請求はしてはいけないのです。
いったん解雇が有効であることを前提とした行動をとると、後々、解雇を争う際に障害になる場合がありますので、慎重に考えて頂く必要があります。解雇の効力を争う余地があるかが分からないという場合は、速やかに弁護士に相談しましょう。
以下の記事も参考にしてください。
▼解雇や懲戒解雇されるデメリットは何か
▼解雇・懲戒解雇された場合に失業保険をもらえるか
慎重に検討したうえで、解雇自体については争うつもりはないというのであればステップ3へ進みます。
ステップ3 書面で請求する
ここで、いよいよ解雇予告手当を請求することになります。
請求書の内容としては、例えば以下のようなものになります。
通知書 ××株式会社 御中
私は、×年×月×日付けで解雇されましたが、解雇予告手当の支払いを受けていません。
解雇予告手当の支払いを請求致しますので、速やかに下記口座に振り込んでお支払いください。(振込先)
×年×月×日
(住所)
(氏名)
文案のポイントとしては、まず、解雇予告手当を請求する意思を明確に記載することです。
請求した日付が分かるように、作成日も記載しておきましょう。(後述する内容証明郵便で出すと、相手方にいつ到達したかという点も証明してもらえます)
請求金額については、正確に計算出来るのであれば記載しても良いのですが(参考:解雇予告手当の計算方法)、分からなければ記載しなくても構いません。
また、期限を区切りたければ、上記の例で「速やかに」となっている部分を「×月×日までに」とか「本書面到達後1週間以内に」などと記載することになります。
さらに出し方の大きなポイントは、解雇予告手当を請求したことが後で証拠として残る形で請求するという点です。
一番手堅いのは内容証明郵便を使って請求する方法です。
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に対して出したかを郵便局が証明してくれる郵送方法です。郵送する通知書とその写し2通、差出人及び受取人の住所氏名を記載した封筒を持って郵便局に行けば、どなたでも出すことができます。
ただし、字数・行数の制限があるなど、記載方法については細かな条件がありますので(詳しくはこちら)、これを守って記載する必要があります。
重要なのは客観的に後に残る形で行うということですので、内容証明まではどうしても面倒だという場合は、次善の策ではありますが、書面を手渡す、普通郵便で送る、あるいはメールで連絡するという方法も可能です。
書面を手渡す、普通郵便で送るという場合には、必ずコピーを手元に残しておいてください。
ステップ4 労働基準監督署に相談に行く
請求書を出しても払われないという場合には、速やかに労働基準監督署に相談に行きましょう。労働基準監督署から是正の指導をしてもらうのです。
その際には、解雇されたことが分かる資料(解雇通知書等)、解雇予告手当の請求をしたことが分かる資料(請求書写し)を必ず持参してください。
労働基準監督署に相談しても何ともならないという場合は、速やかに弁護士に相談してください。
不当解雇について慰謝料を請求したいという相談も多く寄せられますが、不当解雇に対して何を主張すべきかについては考慮しなければならない様々な問題点があります。この点についてはこちらをご覧ください。
▼不当解雇に対して慰謝料請求(損害賠償請求)をしたい
その他不当解雇されたときに知っておきたいことを以下の記事にまとめていますので、ご覧ください。
▼不当解雇されたときにまず知っておくべきこと
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