秘密保持誓約書への署名を求められた時に知っておきたいこと

よく見ていなかったではすまない秘密保持誓約書

在職中や退職時に、秘密保持の誓約書の提出を会社から求められる場合がよくあります。

内容は読んでもよく分からないけれど「提出してください」と言われるので、何となく署名して提出する、という方も多いと思います。

しかし、後々になって、この秘密保持の誓約書が、退職後の行為を巡って損害賠償等の問題に発展した際には、大きな意味を持つことになります。

そのときに「知らなかった」「よく見ていなかった」という主張は基本的に通らないと思っておく必要があります。

例えば、具体的な裁判例で見てみると、ある水処理設備の設計等を行う会社が、退職後に競業会社を立ち上げた元従業員らに対して秘密保持義務違反を理由とする損害賠償や差止等を求めた事案(平成10年9月10日大阪地裁判決)では、在職中及び退職時に元従業員らが署名して提出した秘密保持に関する誓約書が請求根拠の一つとされました。

これに対して、元従業員らは「内容をよく確認しないまま署名したものだ」として秘密保持契約の成立を争いましたが、裁判所は、「格別の事由も認められない本件においては、会社と元従業員らとの間で書面どおりの内容の合意、すなわち会社主張の秘密保持契約が成立したものといわざるをえない」として、このような主張を排斥しています。

事案の結論としては、「元従業員らが使用した情報は秘密保持契約で使用が禁じられている情報に該当しない」等の理由で会社の請求は否定されているのですが、いずれにしても「よく分かっていなかった」「よく見ていなかった」という主張は裁判ではなかなか通らないことを、まず押さえておく必要があります。(なお、競業避止義務の例ではありますが、こうした誓約書による合意の成立について慎重に判断した裁判例もあります。詳しくはこちら≫再就職禁止の合意と誓約書の意味

秘密保持誓約書の意味合い

このように後々に重要な影響がありうる秘密保持誓約書ですが、そもそもこれを提出することにどのような意味合いがあるのでしょうか。

会社が存続発展していくためには、守るべき一定の営業上あるいは技術上の情報が存在しますが、このような営業秘密の不当な開示や使用等を規制する法律として「不正競争防止法」という法律があります。

この法律では、例えば、不正な手段で取得した営業秘密を使用する行為や、事業者から示された営業秘密を不正の利益を得る目的で使用する行為等の一定の「不正競争行為」について、損害賠償や差止請求が認められています。

したがって、このような不正競争行為については、たとえ秘密保持の誓約書がない場合でも、損害賠償や差止請求の問題が生じてきます。

もっとも、不正競争防止法に基づく請求が認められるためには、法律上定められた一定の厳格な要件を満たすことが必要になってきますし、これだけ秘密保持の効果が十分にあるとは言えません。

そこで、秘密保持を徹底させるべく、会社は従業員から秘密保持の誓約書を取り付けようとするのです。

ここで重要なのは、秘密保持の誓約書を提出することによって、当事者の合意によって成立する「秘密保持契約」が成立することになるという点です。

そのため、たとえ不正競争防止法に違反しない場合でも、秘密保持契約に違反する場合には、これによる損害賠償等の問題が生じるのです。

言い換えれば、秘密保持契約を締結していない場合には、不正競争防止法に違反していないかだけが問題だったのが、秘密保持契約があることによって、さらに秘密保持契約に違反していないかも問題になってくるのです。

秘密保持契約の効力

このように会社の立場からすれば、秘密保持の効果を万全にするための秘密保持契約ですが、従業員にとっては、退職後の職業選択の自由や、営業の自由に対する大きな制約になります。

そこで、秘密保持契約を結んでも、その効果は無限定に認められるわけではなく、職業選択の自由や営業の自由に対する不当な制約にならない限度でみ有効となります。(詳しくはこちら≫退職後にも秘密保持義務を負うか

つまり、秘密保持の誓約書に記載されている通りの効力が当然に認められるわけではないのです。

秘密保持の誓約書に記載されている内容があまりに無限定な場合は秘密保持契約そのものが無効となったり、あるいは、使用開示が禁じられる秘密情報の意味を限定的に解釈して、その限度でのみ有効とするなど(参考≫秘密保持誓約書と秘密の意味)、一定の制約が図られます。

秘密保持の誓約書への署名を拒否できないか

もっとも、そうはいっても、実際に争いになった場合に秘密保持契約書の違反になるかどうかの判断は簡単にはできませんし、違反にならないだろうと思える場合でも、退職後の行動への心理的な制約になる点は否定できません。

そこで秘密保持の誓約書への署名・提出を拒否できないか、という考えが出てきます。

ここで思い出して欲しいのは、秘密保持の誓約書の提出は、秘密保持契約という「契約」を締結する行為だ、という点です。

契約は、本来、当事者の自由な意思で行われるもので、そうであればこそ、効力が認められるものです。

したがって、秘密保持の誓約書への署名・提出についても、これを強制されるいわれはありません。内容に納得がいかないのであれば、署名提出を拒否しても何ら問題はありません。

とはいえ、退職時とはともかく、入社時や在職中に誓約書の提出を求められたときはこれを拒否するのは難しいのも実際のところだと思います。

しかし、少なくとも安易な気持ちで提出することのないように、内容をよく読んで理解すること、理解出来ない点は尋ねること、場合によっては弁護士に相談すること、写しを手元に残しておくこと等慎重な対応が必要です。

・競業避止義務の誓約書についてはこちら
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