懲戒処分の一つとして、出勤停止(停職)処分が行われる場合があります。
出勤停止処分は、雇用契約関係を強制的に終了させる懲戒解雇に次ぐ重い懲戒処分といえ、その間無給となることによって労働者が被る不利益も重大です。
ここでは、そんな出勤停止処分がどのような場合に許されるのかについて解説していきます。
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就業規則の定めと周知がなされているか
出勤停止処分は、会社の労働者に対する制裁として行われる懲戒処分の一種です。
そのため、会社が労働者に対して出勤停止処分を下すためには、大前提として、一定の事由に対して出勤停止処分を下すことがあらかじめ就業規則に定められていなければいけません。
多くの会社では、就業規則に懲戒の種類として出勤停止(停職)処分が記載され、また、出勤停止処分を下す事由についても列挙されていると思いますが、重要なのは、その就業規則が、労働者に対して周知されているかという点です。
労働者に対して、事業所での備え付けや書面の交付などにより周知されていないのであれば、そのような就業規則に基づいて出勤停止処分をすることは許されず、仮に出勤停止処分を下したとしても無効となります。
出勤停止事由が存在しているか
懲戒処分については、行為の性質や態様その他の事情に照らして、「客観的な合理的理由があること」「社会通念上相当であること」が求められ、これらを欠く場合には「無効」となるという厳しい制約があります(労働契約法15条)。
したがって、出勤停止処分が許されるためには、就業規則に定められた出勤停止事由が存在し、客観的合理的理由があることが必要です。
多くの場合、就業規則において懲戒事由の内容はある程度抽象的・包括的な記載がされていますが、その内容が安易に拡大解釈されたり類推解釈されると、労働者にとって不意打ちとなってしまうことから、懲戒事由の有無の判断にあたっては限定的な解釈がされることが必要です。
社会的に相当なものか
さらに、出勤停止処分が許されるためには、行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものであることが必要です。
そして「社会的相当性」の有無を判断するために考慮すべき原則の一つとして「処分の重さは、行為の内容、程度に照らして相当なものでなければならない」というものがあります。
要するに、仮に制裁が科されてもやむを得ない行為であったとしても、不当に重い処分であってはならない、ということです。
具体的な事例からみる「相当性」
具体例として、始末書の不提出を理由としてなされた出勤停止処分の効力が争われた事案(東京地裁平成25年1月18日)を見てみたいと思います。
この事案では、路線バスや観光バスなどによる運送事業を営む会社で、車両の点検を行う整備工として働いていた労働者に対してなされた15日間の出勤停止処分の効力が問題となりました。
懲戒の理由とされたのが、有給休暇の取得には3日前までの届け出を要する旨の就業規則の規定に反して前日に届け出たことについて会社が始末書の提出を求めたにもかかわらず、当該労働者が始末書を提出しなかった、という点です。
なぜそんなことで懲戒処分にまで?と感じますが、上記有給休暇の取得に先だって、当該労働者が会社に対して割増賃金の請求をし、その後、会社が当該労働者を整備業務から外す等の一連の背景事情があった上で、上記出勤停止処分が行われたようです。
重きに失し、違法無効
この事案で裁判所は、就業規則の懲戒事由に該当する事実はある、としながらも、処分の相当性について次の点を指摘しています。
「当該労働者は前日には休暇届を出していること、休暇取得の以前から整備業務に従事しないように指示され、何らの業務に従事していなかったこと、また後任の整備士を配置転換することも決定されていたことことからすれば、休暇の取得によって会社には業務上何らの支障も生じていなかったというべきである」
その上で、裁判所は、当該労働者が始末書は提出しなかったものの届け出が前日になったことについて謝罪の意思は示していることや、他に懲戒処分歴がないこと、過去の会社における懲戒処分例等も考慮すると
「本件出勤停止処分は、重きに失し、懲戒権の行使として裁量の範囲を逸脱し、違法であると認められる」
としました。
そして、本件出勤停止処分を無効とし、出勤停止処分に伴って不支給とされた賃金の支払いを会社に命じました。
仮に懲戒事由があるとしても、処分の重さが当該労働者が行った行為に見合っているのかについては、別途きちんと判断されなければいけないことがお分かりいただけると思います。
弁明の機会が与えられたか
出勤停止処分が社会的に相当なものかどうかに影響を与える要素の一つとして、弁明の機会を与えたかという問題もあります。この点について、詳しくは次の記事を参考にしてください。
▼弁明の機会のない懲戒解雇は有効か
▼懲戒解雇理由~どんなときに懲戒解雇が許されるか
▼懲戒解雇と再就職~懲戒解雇歴を履歴書に記載する必要があるか
▼降格人事が違法となるとき
▼仕事上のミスを理由に会社から損賠償請求されたときに知っておきたいこと
▼給料の減額と労働者の同意~給与を下げられたときに知っておきたいこと
▼業務命令を拒否することはできるか
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