バスの運転士が遺留物のバスカードを領得したこと等を理由として行われた懲戒解雇が有効と認められた裁判例

懲戒解雇は、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、懲戒権の濫用として、無効となります(労働契約法15条)。

問題は、どのような場合に客観的合理的な理由が認められ、また、社会通念上相当であると認められるかです。懲戒解雇がなされる場合の一つの典型例である横領着服の事例(福岡高等裁判所平成20年3月12日判決)をとりあげて、具体的にみていきたいと思います。

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事案の概要

この事案では、路線バスの運転士が乗客の遺留したバスカードを領得したこと等を理由に行われた懲戒解雇の効力が問題となりました。

領得が問題とされたのは、乗客が取り忘れた券面額1万円(残額6300円)のバスカードと、乗客がカードリーダーに通さずに運賃箱の上に置いていった1000円のバスカードです。

実は、この会社では、運転士の運転操作や乗客への案内、運賃の取扱等が適切に行われているかをチェックする目的で、係員が一般の乗客と同様の方法でバスに乗車して確認する「模擬乗車」が行われていました。

ある日、模擬乗車の実施中に、運転士が、上記1000円のバスカードにつき、取扱手順に反してダッシュ盤(計器類が設置されている箇所)の隙間に入れたことが確認され、また、その後、ダッシュ盤隙間に、前日の乗客が取り忘れた券面額1万円のバスカードも発見されたことから、横領・着服を目的としてバスカードを領得したこと等を理由として、懲戒解雇がなされるに至ったのです。

これに対して、運転士は、バスカードを領得する意思はなかったし、取扱手順違反は軽微なものにとどまるとして、懲戒解雇の効力を争いました。

原審は、懲戒解雇は解雇権を濫用した違法なものと判断しましたが、その控訴審が本判決です。 

裁判所の判断

非違行為の有無

まず、裁判所は、運転士の行動は取扱手順に反するばかりでなく、客観的には領得の事実を推認するに足りるものである等として、1万円バスカードについては、運転士が「横領・着服を目的として領得した」と認め、また、1000円バスカードについても、横領・着服を目的として手取りをしたとまでは断定することはできないものの自己管理状態に置いたものであり、取扱手順に違反する非違行為であるとしました。

懲戒解雇の効力

その上で、裁判所は、

  1. 1万円バスカードの領得については、乗客の遺留物を領得するという悪質な事案であり、その後、バスカードは乗客に返却されたものの、それは非違行為の確認がされた結果に過ぎず、乗客からの届け出が遅れていた場合には会社の信頼喪失につながったとも言えるから、これを軽視することは出来ないこと
  2. 1000円バスカードの取扱手順違反についても、あえて手順に反する行為をしたものといえ、乗客や会社に実害が生じていないとしても、運転士としての適格性を疑わせる服務規律違反といえること
  3. 会社においては、運転士による運賃やバスカードの着服を撲滅するために、労使双方による適正化委員会を設置したり、指導教育を行ったり、着服事件発生時には運転士に文書で周知させるなどの対策を講じ、また着服事件を起こした運転士に対しては懲戒解雇という厳しい処分で臨んでいたこと
  4. 当該運転士も、会社が着服事件については被害額が少額であっても懲戒解雇とする方針であり、これを実行していたことを知っていたこと
  5. 労働協約において、懲戒解雇は労使協議会で決定すると定められているところ、同協議会において労働組合も懲戒解雇を承認していること

を指摘し、以上からすると、会社が運転士に対して懲戒解雇に及んだことには合理的理由があり、本件解雇は社会通念上相当として是認することが出来ると結論づけました。

着服横領については裁判所も比較的厳しい判断をする傾向がありますが、その判断において、会社の日頃の対策のあり方や方針についても考慮されている点が着目されます。

解雇予告手当除外認定との関係

なお、本件では、会社が労働基準監督署長に解雇予告手当除外認定申請をしたものの、不認定とされたという経緯がありました。

しかし、裁判所は、本件非違行為は重大な服務規律違反ないし背信行為ということができるから、本件解雇は労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇にあたり、即時、解雇の効力が生じたとしました。

そして、解雇予告手当除外認定は、行政監督上の見地から行政官庁が行う事実の確認手続きに過ぎないから、本件解雇について除外認定がなかったからといって、本件解雇が違法無効となるものではないと結論づけています。

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