懲戒解雇された場合、最も気になるのは再就職への影響です。履歴書に懲戒解雇歴を記載するべきか、退社理由をどのように説明すればよいのかといった疑問を抱える方も多いでしょう。
懲戒解雇された事実を隠すことのリスクについては、慎重に考えなければなりません。
この記事では、懲戒解雇歴を履歴書に記載すべきかどうかを裁判例をもとに解説し、再就職活動における懲戒解雇の影響と、履歴書記載の注意点について説明します。
履歴書の賞罰欄と懲戒解雇歴の記載方法
履歴書に記載する内容について、特に「賞罰」欄に懲戒解雇歴を記載するべきかどうかを悩んでいる方も多いでしょう。
まず、「賞罰」欄に関して、裁判例では「賞罰」とは「確定した有罪判決」を指すとされています。(→賞罰の意味~履歴書に前科前歴を書く必要はあるか)
そのため、これに照らすと懲戒解雇歴を「賞罰」として記載する必要はないということになります。
前職を履歴書に記載しない場合のリスク
懲戒解雇歴を賞罰欄に記載しないとしても、履歴書に前職を記載した場合、退職理由について質問されることが考えられます。そうなると、懲戒解雇されたことを話さざるを得なくなります。
そのため、前職自体を履歴書に記載しないということを考える方もいるかもしれません。このように、前職自体を申告しないという場合について争われたケース(昭和51年12月23日名古屋高裁判決)を紹介します。
告知義務について
この事案は、タクシー会社に勤務して懲戒解雇された労働者が、前職を履歴書に記載せず別のタクシー会社に再就職したところ、後にこの事実が発覚し懲戒解雇されたというものです。
裁判所は、一般論として、前職について告知する義務について以下のように述べました。
「使用者が、労働者を採用すべきか否かを決定するにあたり、その前歴について申告を求めることは違法ではないし、また労働者には労働力の評価基準となる事項について使用者に正当な認識を与えるために真実を告知する義務がある」
その上で、裁判所は、次の点を指摘した上で、当該労働者は,前歴であるタクシー会社に勤務していた事実を告知する義務があったとしました。
・会社が原則としてタクシー乗務員の経験のない者を採用するという方針をとっていたこと
・採用にあたり口頭でもタクシー乗務員の経験の有無を尋ね、労働者がその経験はないとの回答をしたこと
秘匿したことが懲戒解雇事由に該当するか
そして、このような経歴詐称が懲戒解雇事由に該当するかについて、裁判所は、以下の点を指摘して、本件において、タクシー会社に勤務していた事を秘匿し、同社を懲戒解雇された事実を秘匿したことは懲戒解雇事由に該当すると結論づけました。
- 採否の決定の判断に重大な影響を及ぼす経歴に関するものであり、かつ当該企業の種類、性格に照らして、当該経歴詐称が労使の信頼関係、企業秩序等に重大な影響を与えるものであれば、たとえ具体的な企業秩序違反の結果が発生しなくても懲戒解雇事由になり得ること
- 採否の決定の判断に重大な影響を及ぼすかどうかは、当該詐称にかかる経歴が企業の種類、性格に照らして、事前に発覚すれば、その者を雇用しなかったであろうと考えられる場合であり、かつ客観的にもそのように認めるのが相当であるかどうかによって決せられるべきこと
このような経歴詐称と懲戒解雇の問題については、こちらの記事もご覧ください。
▼経歴詐称で懲戒解雇は許されるか
入社後長期間経過後に発覚した場合
似たような事案として、バス会社に勤務し解雇された労働者が、当該バス会社に勤務していた事実を履歴書に記載しないで他のバス会社に就職したところ、後にこれが発覚してなされた譴責処分が有効とされたケース(平成元年3月17日東京地方裁判所八王子支部判決)もあります。
この事案では、譴責処分がなされたのは入社から12年後でしたので、これもなかなか厳しい判断です。
採用時における不利益な事実の申告義務
一方で、採用にあたって何も聞かれなかった場合に、自分から不利益な事実を積極的に申告しなければいけないのかという問題もあります。
この点については、懲戒解雇された事実の秘匿が問題になったケースではありませんが、次の点を指摘して、不利益な事実について積極的な申告義務を否定した裁判例もあります。(→経歴詐称で懲戒解雇は許されるか)
採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は,その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。
懲戒解雇後の再就職にあたってどう振る舞うべきかを考える上で、参考にして頂ければと思います。
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