自主退職に追い込む目的の業務命令であるとして違法無効とされた例

どのような場合に業務命令権の濫用になるのか

使用者には業務命令権が認められること、ただし、これを濫用することは許されず違法となることについては、業務命令を拒否することはできるかで説明しました。

問題はどのような場合に濫用となるのか、です。

この点については、具体例を見て頂くとイメージが湧きやすいと思いますので、業務命令が業務命令権の濫用として違法無効とされた例(平成28年5月26日神戸地裁判決)をみてみます。

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教材研究を命じる業務命令

この事案では、高校の教諭である原告を、授業の担当から外し、教材研究のみに従事させるという業務命令が許されるかが問題となりました。

原告は、長年社会の授業を担当してきたのですが、保護者向けの進路説明会で保護者席に座って居眠りをしたという出来事をきっかけに理事長から注意を受け、さらに、担当する授業はなくなると告げられ図書室勤務を命じられました。

以後、原告は大学入試の日本史Bの問題に関する教材研究を行って報告する業務を行いました。

原告は、このような業務命令に従う義務がないことの確認や損害賠償等を求める訴えを起こしたのです。

業務命令の根拠・限界

これに対して裁判所は、まず、業務命令が認められる根拠・限界について

使用者が業務命令をすることが出来る根拠は、労働者が処分を許諾した範囲に当該事項が含まれることに求められる

とした上で、業務命令が

  1. 業務上の必要性を欠いていたり
  2. 不当な動機・目的をもって行われたり
  3. 目的との関係で合理性ないし相当性を欠いていたりするなど

社会通念上著しく合理性を欠く場合には、権利の濫用として違法無効になるとしました。

その上で本件では

  1. 教材研究命令が発せられた際に、理事長から退職を促すような発言がされたこと
  2. 原告が行った大学入試問題の分析報告が活用されることはなく、理事長らから要望や指導がなされることもなかったこと
  3. 教材研究命令を発せられた約4ヶ月後に、このまま残るなら退職金額を減らす、給与を半額にする等と述べて退職を促す行為が行われたこと
  4. 教材研究命令の翌年には、必要もないのに、原告が自主退職するように仕向けるために7ヶ月以上に及ぶ自宅待機が行われたこと
  5. 学校は、自宅待機命令を取り消した後も、原告に特段の業務を与えず、自習教材の作成や大学入試問題の分析等を行わせていること

などを指摘した上で

教材研究命令はそもそも業務上の必要性が認められないうえ,原告を自主退職に追い込むという不当な動機・目的の下に行われたものであり,社会通念上著しく合理性を欠いている

として、違法無効であり原告はこれに従う義務はないと結論づけました。

この事案のように、労働者を退職に追い込むことを目的として、明らかに不合理な業務命令がなされることがありますが、こうした業務命令は決して許されるものではありません。

こうした業務命令は、退職勧奨の限界という観点(参考≫退職勧奨が違法となるとき~退職届を出す前に知っておきたいこと)という観点からも考えることができます。

上記判決でも、こうした教材研究命令や自宅待機命令は退職勧奨の手段として社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しているとして損害賠償(慰謝料100万円)も命じています。

あわせて知っておきたい

業務命令と配置転換や出向、自宅待機について知る

業務命令を拒否することはできるか

配置転換(配転命令)を拒否できるか

配置転換命令が権限濫用で違法と判断された裁判例

退職勧奨後の出向命令が権利濫用として無効となった事例

自宅待機命令~違法となる場合と給料の支払い義務について

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懲戒解雇理由~どんなときに懲戒解雇が許されるか

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給料の減額と労働者の同意~給与を下げられたときに知っておきたいこと

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退職勧奨が違法となるとき~退職届けを出す前に知っておきたいこと

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