退職するつもりはないけれど・・・
退職願いは、退職の意思を表示するという本来の用法とは違った形で用いられることがあります。例えば、「覚悟を示す」とか「反省を示す」ために提出するような場合です。
こうした退職願いの「受理」によって、労働者は退職することになるのか?という点が争われた平成4年2月6日東京地方裁判所決定を見てみたいと思います。
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謝罪の姿勢を示すために
このケースでは、短大に勤務する教授が勤務態度等を巡って学部長等から「査問」を受け、当初はこれを否定し争っていたものの、他の役職者からの忠告も受けたことから、不本意ながらも謝罪することにしました。
そこで、この教授は、まず学部長に対する詫び状を作成しました。
しかし、受け取りを拒否されたことから、「本気で謝罪している姿勢を見せるため反省の色が最も強く出る文書にしたほうが良い」と判断し、実際には退職する意思はなかったものの「退職願」を作成して学部長に提出しました。
提出の際、教授は「何としても汚名を挽回するために勤務の機会を与えてほしい。」と伝えました。
その後紆余曲折を経ますが、後に、この退職願いが「受理」されて学校側から退職の成立を主張されたのです。
退職願いに効力はない
この事案で、裁判所は、
①退職願は「勤務継続の意思があるならばそれなりの文書を用意せよ」との学長の指示に従って提出されたものであること
②退職願を提出した際に、勤務継続の意思があることを表明していること
を指摘し、学校側も教授に退職の意思がないこと知っていたと推認できるから、退職の意思表示は無効である、よって、その「受理」による退職の効果は生じない、と判断しました。
重要なのは、事実経緯に照らすと学校側も教授に退職の意思がないことは分かっていたと言える点です。
安易な気持ちで退職願いを書く方はそうそういないとは思いますが、退職の意思なく書いた退職願いがもとでこんな争いにもなるということは頭に入れておく必要があります。