「会社から給料を下げると言われたけど、それって本当に認められるの?」「断ったらクビになるのでは…?」
そんな不安を感じている方へ。
給料(賃金)の減額は、労働者の同意が必要なのが原則です。
この記事では、給料を減額されそう・されたときに確認すべきポイントと対応策について解説します。
給料の減額は原則「同意が必要」
労働契約の重要な要素である「賃金」は、会社が一方的に変更することはできません。原則として、労働者本人の同意がなければ減額は無効です。
この点について、労働契約法の第3条は次のように規定しています。
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、または変更すべきものとする。
この条文は、「労働契約の変更は合意による」という原則と、その合意は労働者と使用者が対等な立場で話し合うべきであるという基本的ルールを明示したものです。
つまり、会社が労働者に対して「嫌なら辞めろ」と一方的に給料の減額を押しつけるようなやり方は、これに反する行為といえます。
会社が提案してきた給料引き下げに納得がいかないという時にはきっぱりとNOということが大切です。
就業規則の変更によって給料が下げられるという場合については、次の記事を参考にしてください。
⇒就業規則の変更と周知のルールについて
給与減額の場面ごとに見る対応と注意点
給与が減額される場面としては、以下のようなケースがあります。状況ごとに注意点が異なります。
降格処分に伴う減給
人事上の措置としての降格や懲戒処分としての降格に伴って給料が引き下げられるという場合もあります。このようなケースについては以下の記事をご覧下さい。
⇒降格処分が無効となるとき
損害賠償の名目での給与天引き
使用者が一方的に賃金から差し引くことはできません。こうしたケースについては、次の記事を参考にしてください。
⇒仕事上のミスを理由に会社からその害賠償請求されたときに知っておきたいこと
配置転換に伴う給与変更
減額を伴うことも含めた配置転換の効力が問題となります。この点については、次の記事をご覧ください。
⇒配置転換を拒否できるか
同意があったかを巡る争い:裁判例から学ぶ
労働者が減額に納得していないにもかかわらず、会社から「同意したはず」と言われてトラブルになることもあります。
ここで、減額への同意を巡って争いになった実際の裁判例(平成24年10月19日札幌高裁判決)をご紹介します。
事案の概要
このケースでは、料理人として採用されたAさんに対し、入社からわずか2ヶ月後に「年額124万円の給与カット」を会社が提案しました。
Aさんは、その場で「分かりました」と曖昧に返答し、その後11ヶ月にわたり減額後の給与を受け取っていたのですが、後に未払い賃金として差額を請求する訴訟を提起するに至りました。
裁判所の判断:同意は認められない
会社は「同意していた」と主張しましたが、裁判所は次のような理由でAさんの同意があったことを否定しました:
- Aさんの応答は、入社後わずか2ヶ月後に年額124万円あまりの減額という重大な提案を受けた際のものであること
- Aさんの立場からすれば、入社早々で、しかも試用期間中の身でもあり、提案を拒否する態度を明確にして会社の不評を買いたくないという心理が働く一方で、これほどの賃金減額を直ちに受け入れる心境になれるはずのないことは当然であること
- 会社からの提示額の曖昧さと相まって、「ああ、分かりました」という抽象的な言い回しであったこと
裁判所は、前提として、賃金減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、「事柄の性質上、そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要がある」とも指摘しています。
また、Aさんが11ヶ月間抗議をしなかった点についても、「会社に抗議すれば不利益を受ける可能性を感じたとしても不自然ではない」として、沈黙=同意とは言えないとの判断が示されました。
学ぶべきポイント
働く人の心理状況等もよく理解した全くの正論だと思いますが、覚えておいて頂きたいのは不用意なやりとり一つでこんな争いが起こってしまうということです。
実際に、この事案でも、口頭でのやりとりについては上で説明したように同意があったとは認められませんでしたが、その1年後に、減額された賃金が記載された労働条件確認書にAさんが署名押印した時点では合意の成立が認められてしまっています。
口頭でのやりとりだけではなく書面に署名押印する際には、あとで「詳細を見ていなかった」「よく理解していなかった」「署名せざるを得なかった」などと主張してもそう簡単に通用するものではありませんので、一層注意が必要です。
減額を告げられたときに取るべき行動
給料の減額を提示されたときには、次のような対応を心がけましょう。
・その場で曖昧な返答をせず、少なくとも「検討させてください」と一旦保留にする。
・書面での提案内容を確認し、コピーなどを手元に残す
・サインを求められても、納得できるまで応じない
迷ったら、まずは相談を
給料の減額は、労働者の生活に直結する重大な問題です。「おかしいな」と思ったときには、まずは弁護士など専門家に相談することをおすすめします
関連記事
- 就業規則の変更と周知のルールについて
就業規則の変更に効力が認められるかどうかについて判断する際のポイントを解説。 - 降格人事が違法となるとき
降格の効力が認められるのがどのような場合かについて解説。 - 求人票と違う!給料や退職金は払ってもらえるか
採用時に提示された条件と実際の待遇が異なるとき、どう対応できるかを説明。