退職勧奨後の出向命令が権利濫用として無効となった事例

嫌がらせにしか思えない出向命令

退職勧奨を断り続けていたら、嫌がらせとしか思えない出向命令が出されたというケースについて見てみたいと思います。

以前に、退職勧奨を断った後に行われた配転命令のケースについて紹介しましたが(→退職勧奨を断ったら、配置転換を命じられた・・・)、出向命令でも同じような問題が生じます。

労働契約法14条は

「使用者が労働者に出向を命じることが出来る場合において、当該出向の命令がその必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合は、当該命令は無効とする」

と定めていますが、この「権利の濫用」に該当するかどうかが一つの大きな問題となります。

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退職勧奨拒否後の出向命令

紹介する裁判例(平成25年11月12日東京地裁判決)は、コピー機、印刷機等を製造販売する会社で働いていた労働者2名が退職勧奨を拒否したところ、子会社に出向を命じられたという事案です。

退職勧奨に先だって全社的に希望退職の募集が行われており、原告2名はこれに応ずるように3回及び4回にわたる退職勧奨を受けました。

また、当該労働者は、入社以来一貫して開発系あるいは技術系の業務に従事していましたが、出向先の子会社では、商品の梱包、検品等の業務や入庫業務に従事することが求められています。

人選の合理性がない

この事案で、裁判所は、固定費削減の具体的な方策の一つとして人件費の抑制を図ろうとしたことについては一定の合理性があり、出向命令に業務上の必要性はあったとしながらも、人選の合理性については、これを認めることが出来ないと結論づけました。

人選の合理性を認めることの出来ない理由として裁判所は、次のような点を指摘しています。

①余剰人員の選択にあたり目標値とされた割合(全社員の6パーセント)が、事業実績や将来の経営予測に基づくきめ細やかな検討によって算出されたものではなく、客観的合理的根拠を欠くこと

②余剰人員の人選が、その過程に照らすと、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたこと

③一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難く、原告らにとって、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であること

④退職勧奨にあたって生産又は物流の現場への異動の可能性がほのめかされていたことや、希望退職への応募を断った者は全員が出向対象とされ、同様に生産又は物流の現場への出向を命じられていることに照らすと、本件出向命令は、「退職勧奨を断った原告らが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行われたもの」と見るべきであること。

以上のような点を指摘した上で、裁判所は「本件出向命令は、人事権の濫用として無効」として、出向命令の効力を否定しました。

退職勧奨にあたり、出向命令を含めた異動をほのめかされ対応に悩んでいるという方に是非参考にしていただければと思います。

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