会社に勤めていると、様々な理由で役職や職位を引き下げる降格が行われる場合があります。降格に伴って給与も引き下げられることになると、労働者にとって、そのダメージは一層大きいものとなります。
このような降格措置が違法となる場合はないのでしょうか。降格措置がどのような場合に不当となるのかについて見ていきます。
納得がいかない、でもどうすればいいか分からない・・・そんな時は、専門家に相談することで解決の光が見えてきます。労働トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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降格とは
まず、降格の意味について確認しましょう。
降格とは一般に役職や職位を引きげる措置をいいますが、降格の原因によっていくつかの種類に分けることができます。
第一に、懲戒処分として行われる降格です。
第二に、人事上の措置として行われる降格で、役職をなくしたり、格下げするような場合です。
第三に、職能給制度がとられている場合に、この資格や等級の引き下げを行う場合です。
どの種類の降格かによって、不当な降格かどうかの判断基準が異なってきますので、問題になっている降格が上記のいずれなのかをまず考える必要があります。
懲戒処分としての降格
では、まず懲戒処分として降格が行われる場合について見てきましょう。
懲戒処分には、懲戒解雇や停職、戒告など様々な種類がありますが、その一つとして降格が行われる場合です。
客観的合理的理由と社会的相当性があるか
懲戒制度は、企業の秩序維持の観点から制裁として行われるものですが、「制裁」という性質を持つことから厳格な規制を受けます。
具体的には、労働契約法15条が、会社が労働者を懲戒する場合について
当該懲戒が、懲戒にかかる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする
ことを定めています。
したがって、懲戒処分としての降格が有効となるためには、「客観的合理的理由」や「社会通念上の相当性」が必要となり、これらを欠く場合には懲戒権の濫用として効力が否定されるのです。
客観的合理的理由や社会相当性の有無を判断する上での原則として
・同じ行為について二重に処罰することは許されないという二重処罰の禁止の原則
・処分の重さは行為に対して相当でなければならないという原則
・処分を下す前に本人に十分に弁明の機会を与えなければならないという原則
など、いくつかの原則があります。これらについては、以下の記事で懲戒解雇を例にしながら詳しく解説していますのでご覧ください。
▼懲戒解雇とその理由~懲戒解雇されたときに知っておきたいこと
就業規則による定めと周知
また、懲戒処分としての降格は「制裁」であることから、これが有効に行われるためには、どのような行為に対して降格処分がされるのかが就業規則で明確になっている必要があります。なぜなら、このような定めがないと労働者が不測の不利益を受けることになってしまうからです。
そして、仮に就業規則に定めがあってもそれが労働者に対して知らされていなければ意味がありませんので、就業規則の内容は労働者に対して周知されていることが必要です。
≫就業規則の変更と周知のルールについて
就業規則の周知がされていない、という場合には、そもそも会社に懲戒権がないものとして、懲戒処分としての降格は無効になります。
人事上の措置としての役職、職位の引き下げ
次に、人事上の措置として役職や職位の引き下げが行われる場合についてです。
このような人事上の措置として行われる降格は、人事権の行使として行われるもので、原則として、会社が裁量で決定することができます。
もっとも、人事権の行使といっても、全くの無限定に行えるわけではありません。降格人事が、人事権の濫用と認められる場合は、違法な降格として法律的には効力が認められないことになります。
問題はどのような場合に人事権の濫用となるかですが、人事権の濫用になるかどうかは、
- 降格の必要性
- 労働者側の帰責性の有無
- 労働者が受ける不利益の程度・内容
などを総合的に検討して判断することになります。
降格を無効とした裁判例
これだけでは分かりづらいと思いますので、具体例として、降格処分を違法無効であると判断した事案(平成9年11月18日東京地裁判決)を見てみたいと思います。
この事案は、看護婦が、記録を紛失したこと等を理由に婦長から平看護婦に二段階降格させられたため、その降格処分が違法無効であるとして病院を訴えたケースです。(なお、婦長と平看護婦は待遇面では役付手当五万円がつくか否かという違いがありました。)
人事権の濫用となる場合はどのような場合か
裁判所は、まず、人事上の措置としての降格について
降格を含む人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にあたると認められない限り違法とはならない
と一般論を述べています。
裏を返せば、人事権の行使も「社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にあたると認められる場合」には、違法になることになります。
その上で、裁判所は、裁量権の逸脱かどうかについては
- 使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度
- 能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度
- 労働者の受ける不利益の性質及びその程度
- 当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情
を総合考慮すべきとしています。
そして、このケースでは
- 予定表の発見が遅れたことについて原告のみを責めることはできないこと
- 予定表の紛失は一過性のものであり、原告の管理職としての能力・適性を全く否定するものとは断じ難いこと
- 近時、被告において降格は全く行われていないこと
- 原告は婦長就任の含みで被告に採用された経緯が存すること
- 勤務表紛失によって被告に具体的な損害は全く発生していないこと
等の事情を総合考慮すると、原告を婦長から平看護婦に二段階降格しなければならないほどの業務上の必要性があるとはいえないとして、降格処分を違法無効なものとしました。
職能給制度における資格や等級の引き下げ
最後に、職能給制度における資格や等級の引き下げが行われる場合についてです。
このような職能等級制度における資格や等級の引き下げが有効に行われるためには、その根拠として就業規則の規定が必要です。単なる会社の裁量権を根拠にこれを行うことは許されません。
また、就業規則の根拠がある場合にも、人事上の措置として役職や職位の引き下げをする場合と同じように、濫用とならないことが必要です。
この場合も、引き下げの必要性や、労働者の帰責性、受ける不利益の程度等を総合的に検討することになります。
終わりに
降格がどのような場合に違法、不当となるのかについて見てきました。どのような種類の降格であれ、降格の多くは賃金の切り下げを伴い、労働者にとって大きな影響を与えます。決して無限定に行えるものではない、ということを改めてご確認頂ければと思います。
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