解雇と自己都合退職(自主退職)の境界~口頭で解雇されたら

解雇か自己都合退職かをめぐって

従業員としては会社から解雇されたと思っているのに、会社の側から、解雇なんてしていない、自分で辞めただけでしょと反論される場合というのは結構あります。

解雇の場合には、解雇に正当な理由があるのかという点が問題になるのに対し(詳しくはこちら≫解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか)、自ら退職した場合には、こうした点は問題にならなくなってしまうのです。

特に退職勧奨の末に辞めることになった場合などに、こうした事態が起こりがちです。

退職勧奨、つまり会社が労働者に対して自分から退職することをお願いすること自体は違法な行為ではないのですが、退職勧奨される側としては、どうしても退職を迫られてると感じてしまいます。

その結果、退職勧奨に応じて自ら退職した場合でも「無理矢理退職させられた→解雇された」となって、解雇なのか自己都合退職なのかの論争に発展していったりするのです。

こうした事態を防ぐためには、まずは、退職勧奨と何か、退職勧奨がどのような場合に違法となるのかについて正確な知識を身につけることです。この点については、次の記事を参考にしてください。
退職勧奨(退職勧告)が違法となるとき

そして、退職が問題となる場面では、自分から退職する意思がないのであればそのことを明確に告げること、そして、会社からなされた働きかけを勝手に「これは解雇だ」と決めつけて行動しないこと、不用意に自ら退職したと受け取られるような言動をしないことが大切になってきます。

そして、口頭で解雇されているのであれば、解雇通知書を出してもらうように求めましょう。

ここでは、実際に解雇なのか自己都合退職なのかが争われた具体例を見ながら、どのような場合にこうした争いになるのかのイメージを持って頂くとともに、行動する上で注意すべき点を考えてみたいと思います。

なお、解雇なのか自己都合なのか、という点は、退職金の金額を巡ってもよく争いになりますが、この点については次の記事を参考にしてください。
退職金をめぐって~自己都合か会社都合か

また、契約社員の雇止めにあたっても、雇止めなのか、自分から更新を辞退したのかが争いにになる場合があります。この点については、以下の記事をご覧下さい。
雇止め時に退職届の提出を求められたら知っておきたいこと

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「残業代は払えない、それが嫌なら辞めてくれ」

まずは、労働者が解雇されたことを前提に解雇予告手当を請求したところ、会社の側が「解雇などしておらず原告が任意に退職しただけである」と反論して解雇予告手当の支払いを拒んだというケース(大阪地裁平成10年10月30日判決)を採りあげます。

裁判所が認定した事実によると、退職に至る経緯としては、会社代表者から原告に対して「来月から残業代は払えない、残業をつけないか、それが嫌なら辞めてくれ」と言ったのに対して、原告が、即時に「それでは辞めさせてもらえます」と答えたとされています。

解雇であれば、予告無しなので解雇予告手当の支払いが必要となるのに対し(解雇予告手当について詳しくはこちら≫解雇予告手当が必要な場合とは?)、自ら辞めただけであれば解雇予告手当は不要となることから、解雇なのか自ら辞めたのかが問題となったのです。

実質的には解雇

この点について、裁判所は、原告は、残業代の支払いを受けられないのではやっていけないと考えて、「自ら退職の意思表示をしたものと一応は言える」としながらも、次のように述べて、解雇であるとの判断を示しました。

  1. 会社代表者は、残業手当の請求権を将来にわたって放棄するか退職するかの二者択一を迫ったものである
  2. このような状況で原告が退職を選んでも、これはもはや自発的意思によるものとは言えない
  3. したがって、会社代表者の発言は、実質的には解雇の意思表示に該当する
  4. こう考えないと、使用者は従業員に対して、労基法違反の労働条件を強要して退職を余儀なくさせることによって解雇予告手当の支払いを免れることが出来ることになってしまい相当ではない

労基法違反の労働条件を持ち出して「いやなら辞めろ」と迫るという乱暴なケースは、残念なことによくある話だと思いますので、実際にこうした争いになってしまった場合の考え方としては大変参考になります。

ただし、注意しなければならないのは、このケースでは、「残業代をつけないか、それが嫌なら辞めてくれ」という会社代表者からの発言があったことがきちんと認定されたからこそ、こうした結論に結びついたという点です。

つまり、先ほど「裁判所の認定のよれば」と書きましたが、退職に至る事実経緯については双方の主張に大きな隔たりがあったのです。

特に口頭でのやりとりについては、実際にあった事実でもあとで会社から全面的に否定されるということは珍しくありませんので、裁判や労働審判になったときに証拠によって証明することが出来るのかという点もよく考えておかないと、足下をすくわれることになります。

裁判における証拠の意味については次の記事も参考にしてください。
不当解雇を争うための証拠とは

また、口頭だけのやりとりで後々うやむやにされることがないようにするためには、解雇及び解雇理由を書面で早期に明らかにさせることが大切です。この点については、以下の記事をご覧ください。
解雇通知書を渡されたときにまずすべきこと

くれぐれも会社からの働きかけを解雇だと即断して不用意な行動(上の例でいうと、「それでは、辞めさせてもらいます」と答えるなど)はとらないように注意する必要があります。

「解雇なんてしていない!?」

もう一つ、労働者が「不当な解雇をされた」と主張するのに対して、会社が「解雇なんてしていない。あなたが自分から辞めただけだ」と主張された例(大阪地裁平成24年11月29日判決)を見てみます。

この事案で、原告となった労働者は、

『役員のセクハラ行為を代表者に報告したところ、代表者にそれは嘘だと決めつけられ、「お前は会社を辞めることを決めていたんだから外の人間、荷物はあとで送るからもう帰れ」などと言われて不当に解雇された』

と主張しました。

ところが、会社からは、「原告は自ら退職を申し出たのであって、解雇ではない」との反論がされたのです。

会社は、解雇ではなく自主退職であったことを裏付ける事実として、原告が当日社長室を退室した後、何らの異議を述べずに退社し、翌日以降も退職に関して会社に連絡をすることもなかったことを挙げています。

裁判所の判断

これに対して、裁判所は、

  1. 会社代表者が原告に対して従前からパワハラ行為を行っていたことや、解雇の経緯に照らせば、原告が理不尽な解雇に対して異議等を述べられなかったとしても不合理ではないこと
  2. 仮に原告が自ら退職を申し出たのであれば、退職届けを提出させてしかるべきところ、会社は、当日、退職届けを提出させていないこと
  3. 原告は私物の整理もしないまますぐに退社していること
  4. 2週間あまり経過した後になって 被告会社は初めて原告に退職届けを送付して、その提出をもとめたが、原告がそれを提出していないこと
  5. 会社が事業主の都合による離職を理由として離職票を作成していること

を指摘して、原告は自ら退職をしたのではなく解雇されたと認定しました。

不用意な言動を避け、書面で明確にさせる

この事案では、会社が事業主の都合による離職を理由として離職票を作成している事実(⑤)もありますので、自主退職ではなく解雇と認定されるのは当然であろうと思いますが、いずれにしても、上司や社長の言動から「解雇された」と思っても、後々になって会社から「解雇なんてしない。自分で辞めただけ」と言われることのないように、不用意な行動を避ける必要があることがお分かりいただけるかと思います。

特に、このケースでは退職届けを出していないという点が重要です。

退職届けを出していると、どうしても客観的には自ら辞めたということになってしまいますので、これを解雇だと主張することは難しくなります。不用意に退職届を出すことのないように十分に気をつけて頂ければと思います。

退職届けを既に出してしまった場合にどうなるのかついては以下の記事をご覧ください。
退職届の撤回・取り消しはできるか

解雇なら/退職するなら・・・

間違いなくこれは解雇だということになると、解雇に正当な理由があるのか、という点や解雇予告手当が問題になってきます。以下の記事を参考にして下さい。

解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~
懲戒解雇理由~どんなときに懲戒解雇が許されるか
解雇予告手当が必要な場合とは?
即時解雇(即日解雇)が許される場合とは

自ら退職するという場合は、次のような点も問題になってきます。
退職時に有給休暇を使うために知っておきたいこと
労働基準法等から退職方法を考える~会社を辞められない!?

退職勧奨については、こんな例もあります。
うつ病による休職・復職後の退職勧奨が違法とされた裁判例

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