解雇と自己都合退職(自主退職)の境界~口頭で解雇されたら

従業員としては会社から解雇されたと思っているのに、会社の側から、解雇なんてしていない、自分で辞めただけでしょと反論される場合というのは結構あります。

特に退職勧奨の末に辞めることになった場合などに、こうした事態が起こりがちです。

退職勧奨、つまり会社が労働者に対して自分から退職することをお願いすること自体は違法な行為ではないのですが、退職勧奨される側としては、どうしても退職を迫られてると感じてしまいます。

その結果、退職勧奨に応じて自ら退職した場合でも「無理矢理退職させられた→解雇された」となって、解雇なのか自己都合退職なのかの論争に発展していったりするのです。

ここでは、実際に解雇なのか自己都合退職なのかが争われた具体例を見ながら、どのような場合にこうした争いになるのかのイメージを持って頂くとともに、行動する上で注意すべき点を考えてみたいと思います。

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「残業代は払えない、それが嫌なら辞めてくれ」

まずは、労働者が解雇されたことを前提に解雇予告手当を請求したところ、会社の側が「解雇などしておらず原告が任意に退職しただけである」と反論して解雇予告手当の支払いを拒んだというケース(大阪地裁平成10年10月30日判決)を採りあげます。

裁判所が認定した事実によると、退職に至る経緯としては、会社代表者から原告に対して「来月から残業代は払えない、残業をつけないか、それが嫌なら辞めてくれ」と言ったのに対して、原告が、即時に「それでは辞めさせてもらえます」と答えたとされています。

解雇であれば、予告無しなので解雇予告手当の支払いが必要となるのに対し(解雇予告手当について詳しくはこちら≫解雇予告や解雇予告手当が必要な場合とは?)、自ら辞めただけであれば解雇予告手当は不要となることから、解雇なのか自ら辞めたのかが問題となったのです。

実質的には解雇

この点について、裁判所は、原告は、残業代の支払いを受けられないのではやっていけないと考えて、「自ら退職の意思表示をしたものと一応は言える」としながらも、次のように述べて、解雇であるとの判断を示しました。

  1. 会社代表者は、残業手当の請求権を将来にわたって放棄するか退職するかの二者択一を迫ったものである
  2. このような状況で原告が退職を選んでも、これはもはや自発的意思によるものとは言えない
  3. したがって、会社代表者の発言は、実質的には解雇の意思表示に該当する
  4. こう考えないと、使用者は従業員に対して、労基法違反の労働条件を強要して退職を余儀なくさせることによって解雇予告手当の支払いを免れることが出来ることになってしまい相当ではない

労基法違反の労働条件を持ち出して「いやなら辞めろ」と迫るという乱暴なケースは、残念なことによくある話だと思いますので、実際にこうした争いになってしまった場合の考え方としては大変参考になります。

ただし、注意しなければならないのは、このケースでは、「残業代をつけないか、それが嫌なら辞めてくれ」という会社代表者からの発言があったことがきちんと認定されたからこそ、こうした結論に結びついたという点です。

つまり、先ほど「裁判所の認定のよれば」と書きましたが、退職に至る事実経緯については双方の主張に大きな隔たりがあったのです。

特に口頭でのやりとりについては、実際にあった事実でもあとで会社から全面的に否定されるということは珍しくありませんので、裁判や労働審判になったときに証拠によって証明することが出来るのかという点もよく考えておかないと、足下をすくわれることになります。

くれぐれも会社からの働きかけを解雇だと即断して不用意な行動(上の例でいうと、「それでは、辞めさせてもらいます」と答えるなど)はとらないように注意する必要があります。

不当解雇を争うための証拠とは

「解雇なんてしていない!?」

もう一つ、労働者が「不当な解雇をされた」と主張するのに対して、会社が「解雇なんてしていない。あなたが自分から辞めただけだ」と主張された例(大阪地裁平成24年11月29日判決)を見てみます。

この事案で、原告となった労働者は、

『役員のセクハラ行為を代表者に報告したところ、代表者にそれは嘘だと決めつけられ、「お前は会社を辞めることを決めていたんだから外の人間、荷物はあとで送るからもう帰れ」などと言われて不当に解雇された』

と主張しました。

ところが、会社からは、「原告は自ら退職を申し出たのであって、解雇ではない」との反論がされたのです。

会社は、解雇ではなく自主退職であったことを裏付ける事実として、原告が当日社長室を退室した後、何らの異議を述べずに退社し、翌日以降も退職に関して会社に連絡をすることもなかったことを挙げています。

裁判所の判断

これに対して、裁判所は、

  1. 会社代表者が原告に対して従前からパワハラ行為を行っていたことや、解雇の経緯に照らせば、原告が理不尽な解雇に対して異議等を述べられなかったとしても不合理ではないこと
  2. 仮に原告が自ら退職を申し出たのであれば、退職届けを提出させてしかるべきところ、会社は、当日、退職届けを提出させていないこと
  3. 原告は私物の整理もしないまますぐに退社していること
  4. 2週間あまり経過した後になって 被告会社は初めて原告に退職届けを送付して、その提出をもとめたが、原告がそれを提出していないこと
  5. 会社が事業主の都合による離職を理由として離職票を作成していること

を指摘して、原告は自ら退職をしたのではなく解雇されたと認定しました。

不用意な言動を避け、書面で明確にさせる

この事案では、会社が事業主の都合による離職を理由として離職票を作成している事実(⑤)もありますので、自主退職ではなく解雇と認定されるのは当然であろうと思いますが、いずれにしても、上司や社長の言動から「解雇された」と思っても、後々になって会社から「解雇なんてしない。自分で辞めただけ」と言われることのないように、不用意な行動を避ける必要があることがお分かりいただけるかと思います。

特に、このケースでは退職届けを出していないという点が重要です。

退職届けを出していると、どうしても客観的には自ら辞めたということになってしまいますので、これを解雇だと主張することは難しくなります。不用意に退職届を出すことのないように十分に気をつけて頂ければと思います。

退職届けを既に出してしまった場合にどうなるのかついては以下の記事をご覧ください。
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