小さな会社で正社員として働きはじめて2週間もしないうちに、「明日からもう来なくて良い」と社長に言われ解雇されました。
解雇するのであれば解雇予告手当を支払ってもらえるはずと思って社長に聞いたのですが、「試用期間中だから解雇予告手当の支払いは法律上必要ない」と言われてしまいました。本当にそうなのでしょうか。試用期間なんて話は聞いていないのですが・・・・。
また、正直、この会社で今後も働きたい気持ちがあるわけではないのですが、解雇された理由もよく分からず納得いきません。私に何かできるのでしょうか。
1 解雇予告手当と試用期間
働き始めてすぐに解雇トラブルとなってしまったとのこと、大変でしたね。
小さな会社では、特に、会社の側も法律のことをよく知らずに無茶な扱いをしているケースをよく見ます。ご質問の状況も、そうしたケースかもしれません。
まず、ご質問のうち解雇予告手当のことからお答えすると、試用期間かどうかによって話は変わってきます。
試用期間中で、かつ勤務開始から14日未満であれば、解雇予告手当の支払いは確かに不要です。
あなたのケースですと、働き始めてから2週間もたっていないということですので、試用期間中であれば、解雇予告手当の支払いは不要ということになります。
2 試用期間かどうか
そうすると、問題は、試用期間かどうかです。
「試用期間なんて聞いていない」ということですが、働き始めた時に雇用契約書、あるいは労働条件通知書はもらっていないでしょうか。そこに試用期間について書かれているのであれば、「聞いていない」と主張するのは残念ながら難しくなります。
また会社の就業規則に試用期間について書かれているかも確認してください。
就業規則に試用期間について何も書かれておらず、入社時に特別の説明も受けていないということであれば、会社が勝手に「試用期間」と言っているだけで法律的には試用期間であるとは認められません。
また、就業規則に試用期間について書かれている場合も、その就業規則が果たして有効なのかが大事なポイントです。
就業規則は、労働者に対して周知手続きがとられていて初めて「有効」となります。
例えば、労働者が見ようと思えば見られる場所に置いておらず、社長だけが置き場所を知っているという場合には、そもそも就業規則自体に効力が認められません。
したがって、このような場合は、就業規則に試用期間の定めがあったとしても、試用期間とは認められないことになります。
そして、試用期間ではないということになれば、原則に戻って解雇予告手当は必要となるのです。
3 解雇がそもそも有効か
さて、ご質問の内容が解雇予告手当についてでしたので、その点から、まずお答えしましたが、実は、もっと重要なのは、「そもそも解雇自体が有効か」という点です。
解雇予告手当の請求は、解雇が有効であることを前提にしています。逆に言えば、解雇が無効であるならば、解雇予告手当を請求する根拠もないことになります。
そのため、解雇自体が無効で、そのことを主張していく可能性がある場合には、これと矛盾する解雇予告手当の請求はすべきではないということになるのです。
解雇の無効を主張する場合には、解雇予告手当の請求ではなく、働けない期間の「給与の請求」をしていくことになります。
要するに、「私は働く意思があります。なのに、会社が働くことを拒むから、働けないのです。そうであれば、働いていない分も給料は支払ってください」と主張していくことになるのです。
解雇予告手当は「平均賃金の30日分」、つまり約1ヶ月分に過ぎませんが、解雇が無効ということになれば、会社は、あなたが働いていない期間の給料をずっと払い続けなければならなくなります。
ですので、「もうこの会社で働く気はなくなったので、金銭的な解決だけ求めたい」という場合でも、解雇が有効であることを前提として解雇予告手当を請求するのではなく、解雇の無効を主張した上で交渉をすることを考えることになります。
4 解雇は簡単には許されない
そもそも、解雇は、社長の気まぐれで行うことが許されるわけではありません。
解雇が有効となるためには、「客観的合理的理由」があり、「社会通念上相当であること」が必要となります。
これは、試用期間中である場合にも当てはまります。
時々、試用期間だから、ということだけで、当然のように解雇が許されるように考えている会社もありますが、そうではないのです。
確かに、試用期間の場合は、通常の場合と比べると解雇のハードルが比較的下がると言われています。
しかし、それでも会社や社長の勝手な考えで解雇出来るわけではなく、試用期間を設けた趣旨に照らして客観的合理的理由があることや、社会通念上相当といえることが必要となるのです。
また、例えば試用期間が2ヶ月となっているのに、その途中で解雇を行うという場合には、試用期間満了時に解雇する場合よりも解雇のハードルが上がるとする裁判例もあります。
あなたの場合は、「働きはじめて2週間もたっていない」ということですので、試用期間だという場合には、どれくらいの期間が予定されていたのかも一つのポイントになります。
5 まずは解雇理由証明書の請求を
さて、ご質問の中身からすると「解雇された理由もよく分からない」ということですので、まずは、なぜ解雇になったのか、その理由をはっきりさせる必要があります。
会社に対して「解雇理由証明書を下さい」と請求してみましょう。会社は労働者から請求されると、解雇の理由を解雇理由証明書という文書で出すことが法律上義務付けられています。
伝え方は、口頭でもメールでも文書でも構いませんが、請求したことを証拠に残すという意味では文書やメールの方がいいでしょう。
よく「就業規則の××条に該当するため」という書き方で、抽象的に理由を説明するだけで済まそうとする会社があります。
しかし、これでは、具体的に何が問題とされているのか分かりません。
解雇理由証明書には、具体的にどういう事実が就業規則の何条に該当するのかも記載してもらいましょう。
また、就業規則が手元にないのであれば、就業規則自体の写しももらいましょう。
6 弁護士への相談
解雇理由証明書をもらえたら、弁護士に相談し、有効な解雇といえるのかを端的に聞きましょう。
なお、解雇理由証明書の請求が難しい場合や、請求したのにもらえなかった場合も、速やかに弁護士に相談することです。弁護士に依頼をすれば、弁護士から会社に対して解雇理由証明書の交付を請求してもらえます。
「正直、この会社で今後も働きたい気持ちがあるわけではない」とのことですが、解雇の効力を争えるケースであれば、弁護士を代理人として立てて解雇の無効を主張しつつ、交渉を通じて金銭的な解決を目指すことも選択肢として出てきます。
実際に行動を起こすかどうかは、弁護士費用の負担や解決見通しとの兼ね合いも考慮して決めることになるとは思いますが、納得がいかない気持ちが少しでもあるのであれば、その気持ちを引きずったまま後で後悔をすることがないように、一度は、弁護士に解雇の効力を争う余地の有無について相談してみることをお勧めします。
7 最後に
私のところに相談に来られる方の中には、「どういう理由で解雇されたのかも分からない」という方も少なくありません。
解雇に至った経緯を聞いていくと想像がつく部分ももちろんありますが、会社が正式に何を理由に解雇の判断をしているのかが分かった方が、今後の見通しを判断するのが容易になるのは言うまでもありません
「解雇理由証明書」という形式張ったものでなくても良いのです。とにかく、早めに「なぜ解雇なのか、説明してもらえますか」と率直に会社に尋ねてみましょう。
上で説明したように、弁護士から解雇理由証明書の請求をすることももちろんできます。
ただ、弁護士からの請求になると、会社は「構えて」文書を作成します。
例えば、その段階で慌てて社会保険労務士や弁護士に相談するなりして、後付けでも理由を作るのが実情です。
そういった後付けの作業をさせないためにも、早めの段階で、つまり会社がまだ油断しているときに、率直に会社に説明をしてもらった方が、会社が解雇を選択した本当の理由が分かります。
ポイントは、早めに、率直に尋ねることです。