処分は重すぎないか
懲戒処分は、労働者の特定の行為に対する「制裁」として行われるものです。
そのため、その行為の性質や態様その他の事情に照らして、「客観的な合理的理由があること」「社会通念上相当であること」が求められ、これらを欠く場合には「無効」となります(労働契約法15条)。
この「客観的合理的理由」や「社会的相当性」の有無を判断するために考慮すべき原則の一つとして「処分の重さは、行為の内容、程度に照らして相当なものでなければならない」というものがあります。
要するに、仮に制裁が科されてもやむを得ない行為であったとしても、不当に重い処分であってはならない、ということです。
出勤停止処分の相当性
具体例として、始末書の不提出を理由としてなされた出勤停止処分の効力が争われた事案(東京地裁平成25年1月18日)を見てみたいと思います。
この事案では、路線バスや観光バスなどによる運送事業を営む会社で、車両の点検を行う整備工として働いていた労働者に対してなされた15日間の出勤停止処分の効力が問題となりました。
懲戒の理由とされたのが、有給休暇の取得には3日前までの届け出を要する旨の就業規則の規定に反して前日に届け出たことについて会社が始末書の提出を求めたにもかかわらず、当該労働者が始末書を提出しなかった、という点です。
なぜそんなことで懲戒処分にまで?と感じますが、上記有給休暇の取得に先だって、当該労働者が会社に対して割増賃金の請求をし、その後、会社が当該労働者を整備業務から外す等の一連の背景事情があった上で、上記出勤停止処分が行われたようです。
重きに失し、違法無効
この事案で裁判所は、就業規則の懲戒事由に該当する事実はある、としながらも、処分の相当性について次の点を指摘しています。
「当該労働者は前日には休暇届を出していること、休暇取得の以前から整備業務に従事しないように指示され、何らの業務に従事していなかったこと、また後任の整備士を配置転換することも決定されていたことことからすれば、休暇の取得によって会社には業務上何らの支障も生じていなかったというべきである」
その上で、裁判所は、当該労働者が始末書は提出しなかったものの届け出が前日になったことについて謝罪の意思は示していることや、他に懲戒処分歴がないこと、過去の会社における懲戒処分例等も考慮すると
「本件出勤停止処分は、重きに失し、懲戒権の行使として裁量の範囲を逸脱し、違法であると認められる」
としました。
そして、本件出勤停止処分を無効とし、出勤停止処分に伴って不支給とされた賃金の支払いを会社に命じました。
出勤停止(停職)はその間の賃金が支給されないという意味で、労働者の生活に対する影響も大きく大変重たい処分です。仮に懲戒事由があるとしても、処分の重さが当該労働者が行った行為に見合っているのかについては、別途きちんと判断されなければいけません。
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