懲戒解雇は、もっとも重い処分で、労働者に与える不利益も大きいことから、その効力については厳しく判断されます。
この点に関して、業務命令違反、無断欠勤が認められながらも、これを理由とする懲戒解雇の効力が認められなかった例(東京地方裁判所平成20年2月29日判決)を見てみたいと思います。
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事案の概要
この事案では、健康食品の製造販売を行う会社で、販売員として勤務していた労働者に対して行われた懲戒解雇の効力が争われました。
解雇理由として会社から主張されたのは、業務命令違反及び無断欠勤です。
「東京都内の店舗で勤務していた労働者に対して、愛知県内の店舗での就業を命じた(就業指示1)のに、歯の治療等を理由に勤務しなかったこと」「その後、本部での研修や、愛知県への中期出張を命じた(就業指示2)のに、これに従わなかったこと」などが懲戒事由として主張されました。
これに対して、労働者からは、就業指示1及び就業指示2に従わなかったのは、首都圏に限定された勤務地の一方的変更であること、高齢者(63歳)として住み慣れた自宅を離れ長期間単身赴任することが精神的肉体的に苦痛であること及び歯科の治療の必要性という健康面の理由である旨の主張がされています。
本件でやや特徴的なのは、会社が労働者に対して就業指示2を書面で通知した際に、「正当かつ合理的な理由なく本就業指示書に従わなかった場合は、何らの通知等をすることなく、同通知書到達後30日経過した日をもって懲戒解雇する」と記載し、実際に、その後、新たに通知をすることなく懲戒解雇としたという点です。
そのため、労働者からは、懲戒解雇の際に示された理由は、就業指示2に対する違反だけであるから、就業指示1に対する違反を懲戒解雇の理由として主張することは許されないという主張もなされました。
裁判所の判断
懲戒解雇理由の範囲について
まず、裁判所は、
「懲戒解雇においては,懲戒解雇の当時使用者が示さなかった事実を訴訟において主張することは許されない」
という原則を確認しつつ、
「示されたか否かの判断に際しては、文言の解釈として表示されていると解釈できる場合や、前後の経緯に照らして表示されていると解釈できる場合もこれに含まれると解すべき場合があることを念頭において、総合的に行うべき」
という判断基準を示しました。
その上で、裁判所は、
- 就業指示2の通知には、懲戒解雇の理由として本件就業指示1に違反したことを挙げていないばかりか、就業指示1について懲戒処分を科する旨の予告と、本部研修及び中期出張の指示に従わなかった場合に懲戒解雇にする旨が分けて記載されており、就業指示1に対する違反と就業指示2に対する違反とを明確に区別していること
- 就業指示1について撤回ないし凍結されたと認められ、就業指示2が、就業指示1に対する違反が続く中で発せられたものとも言えないこと
という点を指摘し、懲戒解雇は、あくまでも就業指示2に対する違反について行われたものであって、会社が裁判で懲戒理由として就業指示1違反を主張することは許されないとしました。
出張命令の適否と解雇の効力
裁判所は、会社が労働者に対して行った出張命令については、権限に基づく有効なものであり、これに従わなかったことは業務命令違反となるとしながらも、解雇の効力については、次のような点を指摘しています。
- 会社は、就業指示1が撤回されたと認められる日以後、何らの指示もせず放置していたばかりか、就労の指示を求める旨の労働者の申し入れにも応答せず、その間に申し立てられた労働局のあっせん期日にも出席せず、就業指示2の発出に際しては、もしこれに違反したら懲戒解雇するなどいきなりこれを命じていること
- 愛知県における研修の必要性について十分説明したとは言いがたく、愛知県での勤務終了後の勤務地がどこであるかについての説明もなかったこと
- 就業指示2は、労働局へのあっせん申立後にされたものであり、かつ就業指示2の後の団体交渉の申入を無視して解雇に至ったこと
- 就業指示2の通知においては、「本就業指示書に従わなかった場合は、何らの通知等することなく、同通知書到達後30日経過した日をもって懲戒解雇する」旨の文言により、仮に指示違反があったとしてもそれについて何ら弁明の機会を与える余地のない形式で懲戒解雇に至っていること
そして、「原告の業務命令違反が、正当な事由のない欠勤という労働契約上の義務の根幹に関わるものであることを考慮してもなお、本件解雇を有効とするには相当の躊躇を覚えざるを得ない」として、本件懲戒解雇は無効と結論づけました。
最後の裁判所の指摘にもあるように、会社は、労働者から労働局のあっせんの申し立てなどもされるなか、懲戒解雇ありきで突き進んだような印象で、こうした過程については厳しい評価がなされています。
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