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業務命令を拒否することはできるか




業務命令の名の下に、会社から様々な形で不合理な指示を受ける場合があります。
業務命令はいったいどこまで認められるのか、業務命令が違法となる場合はないのかなどについて見てみたいと思います。

業務命令とは何か

そもそも、会社と労働者との間には雇用契約があります。
そして、雇用契約に基づき、会社は労働者に対して、労働義務の遂行について指揮命令を行う権利(労務指揮権)をもっています。

さらに、会社は、労務の指揮そのものだけではなくて、業務遂行全般について労働者に対して必要な指示命令を行う権利があります。

この業務遂行全般について行う指示または命令が業務命令であり、これを行う権利が会社の業務命令権です。業務命令権はこのように、会社と労働者の間に存在する雇用契約が根拠となって認められるものです。

業務命令に求められる合理性

しかし、当然のことながら、どんな業務命令も許されるということではありません。

業務命令の根拠が労働契約にあるというからすると、労働者が労働契約によって処分を許した範囲内の事項であってはじめて業務命令は適法なものになるのです。

いくら雇用契約を締結し労働力の処分を委ねたといっても、不合理な業務命令にまで従うことを認めたわけではないことからすると、業務命令が適法なものとして認められるためには合理性のある命令であることが必要です。

また、労働者の人格権を侵害するような業務命令も許されません(労働者は人格権侵害まで認めたわけではありませんし、仮に認めたとしても無効です)

このような業務命令は、業務命令権の範囲を逸脱するものとして、あるいは業務命令権を濫用するものとして違法となります。

一方、適法な業務命令なのであれば、労働者がこれを無視したり拒否することは許されず(義務違反となります)、業務命令違反を理由とする懲戒処分も行いうることになります。

適法な業務命令と認められた判例

例えば、適法な業務命令と認められた判例(最高裁昭和61年3月13日判決)を見てみます。

この事案は、日本電信電話公社で働き、頸肩腕症候群に罹患した労働者が、公社の指定する病院で総合精密検診を受診するよう命じられたところ、これに従わなかったことから、「健康管理従事者の指示に基づいて健康回復に努めなければならない」等と規定された就業規則に違反したとして懲戒処分を受けたケースです。

懲戒処分の効力の前提として、このような業務命令が有効なのかという点が問題になりました。

この点について、裁判所は,一般論として

就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる

と述べた上で、本件就業規則の内容はいずれも合理的なものと認められるとしました。

また、就業規則において、健康回復のために従うべきとされている指示の具体的な内容については規定されていないものの、「健康の早期回復という目的に照らして合理性ないし相当性があれば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができる」として、結論的に本件検診命令を有効と認めました。

業務命令が違法と認められた判例

他方、業務命令が違法とみとめられた具体例(平成8年2月23日最高裁判決)も見てみたいと思います。

この事案は、JR東日本の保線(線路の保守業務を行う業務)区長が、国鉄労働組合の組合員に対して、作業中に組合の記章が貼られたベルトを着用したことが就業規則に違反するとして、就業規則の全文書き写しを命じたケースです。

この労働者は、実際に始業時から夕方まで、さらに翌日の午前中も就業規則の書き写しを行いました。

このような業務命令が果たして許されるのかが争点となりましたが、最高裁は、「就業規則の全文書き写しを命じる業務命令は、見せしめを兼ねた懲罰的目的からされたものと推認せざるを得ず人格権侵害の不法行為が成立する」とした原審の判断を支持して、会社からの上告を退けました。

当たり前のことではありますが、業務命令や教育指導に名を借りた人格侵害は許されない、ということが改めて認識される必要があります。

(他の具体例としてこちら≫自主退職に追い込む目的の業務命令であるとして違法無効とされた例

髪の色、髪型等に関する指示指導の限界

最後に、少し変わった例として、頭髪に関する指示指導に労働者が従わなかったとして最終的に諭旨解雇にまで至ったケースで、解雇の効力が否定された例(平成9年12月25日福岡地方裁判所小倉支部決定)をとりあげます。

この事案は、酒類の製造販売、一般貨物運送、ガソリンスタンド経営等を営む商事会社でトラック運転手として働く労働者が、会社から、茶色に染めた頭髪を元の色に戻すように再三の指示指導を受け、さらにけん責処分として始末書の提出を命じられ、これに応じなかったところ、最終的に諭旨解雇にまで至ったというケースです。

裁判所は、一般論として

企業は、企業内秩序を維持・確保するため労働者に必要な規制、指示、命令等を行うことが許される

としながら、

これは労働者が企業の一般的支配に服することを意味するものではなく、企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に伴う限界がある

と指摘しました。

そして、特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄についての制限は無制限に許されるものではなく、

「企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるべきであり、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請される」

と述べました。

そして、本件では

①労働者の髪の色が会社の営業に具体的な影響を及ぼしたことは伺われないこと
②労働者が一応対外的に目立つ風貌を自制する態度に出ていたこと

などを指摘した上で、解雇は無効と結論付けました。

会社が行うことのできる指示指導の範囲を考える上で参考になる裁判例です。

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