履歴書の中に「賞罰欄」がもうけられている場合がありますが、いったい何が「賞」や「罰」に当たるのか、悩まれる方も多いと思います。
「賞」については、対外的にアピールできるような公的な賞ということで、ある程度、感覚的に分かりますし、また、後々「実は賞があったのに書かなかった」として問題視されることもありませんので、そこまで神経質になることもないのですが、よりシビアなのは「罰」の方です。
とりわけ問題となるのが、前科前歴がある場合です。履歴書に賞罰欄がなくても、採用面接の中で犯罪歴の有無について申告を求められるようなケースもあるでしょう。
こうした場合に、前科前歴を履歴書に書いたり申告したりしないと、後で発覚した時に、経歴詐称で解雇されるのではないかといった心配も生じてきます。
ここではこうした前科前歴と賞罰の問題について解説していきたいと思います。
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「罰」とは何か
実は、履歴書の賞罰欄にいう「罰」の意味に関しては、きちんと裁判例もあります。
これによると、履歴書の賞罰欄にいう罰とは「確定した有罪判決をいう」とされています。(平成3年2月20日東京高裁判決、仙台地裁昭和60年9月19日判決)
したがって、たとえ刑事事件になっていても、まだ刑事公判が続いている場合や、逮捕されただけで起訴猶予となった場合(いわゆる前歴がある場合)は、「罰」には含まれない事になります。
また、交通違反でいわゆる青切符を切られたという場合は「罰」には該当しませんが、赤切符を切られた(略式起訴による罰金刑を受けた)という場合は該当することになります。
(ただし、罰金刑については刑の執行を終えてから5年が経過すると刑の言い渡しは効力を失いますので、その場合は、あとで説明する「消滅した前科を書くべきか」という問題になります)
さらにあくまでも「確定した有罪判決」ですので、懲戒解雇歴などは含まれないことになります。この点については、以下の記事で説明していますのでご覧ください。
▼懲戒解雇と再就職~懲戒解雇歴を履歴書に記載する必要があるか
刑の消滅した前科
先ほど説明したように、履歴書の賞罰欄にいう罰とは「確定した有罪判決」を意味します。
では、「確定した有罪判決」を一度でも受けたら、どれだけ期間が経過していても履歴書の賞罰欄に書かなければいけないのでしょうか。
先ほど紹介した仙台地裁昭和60年9月19日判決のケースでは、この点も問題とされました。
この事案は、前歴や前科を賞罰欄に記載しなかったことが解雇理由の一つとされたケースでしたが、前科については、刑の執行が終わってから10年以上が経過していたため、刑の言い渡しは法律上効力を失っていました。
また、罰金刑の場合は、刑の執行が終わってから、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過すると、同じく刑の言い渡しは効力を失います。(刑法34条の2、第1項)
この点について、裁判所は、刑の言い渡しが効力を失った前科については
- 使用者から格別の言及がない限り記載すべき義務はない
- 刑の消滅した前科についても「その存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼさざるを得ないといった特段の事情のない限りは、労働者は告知すべき信義則上の義務は負わない」
としました。
その理由としては、既に刑の消滅した前科について使用者があれこれ詮策し、これを理由に労働の場の提供を拒絶するような取扱いを認めるとすると、更生を目指す労働者にとって酷となり、わざわざ刑の消滅制度を定めた法律の趣旨が損なわれてしまうという点が指摘されています。
なお、この事案は、刑の執行が終わってから長期間経過したことによって刑が消滅した例ですが、執行猶予付き判決を受けた場合についても、刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過すれば刑は消滅することになりますので(刑法27条)、同様に「罰」として記載する必要がないことになります。
経歴詐称と解雇の問題については以下の記事を参照してください。
▼経歴詐称で解雇は許されるか
なお、在職中に逮捕された場合、そのことを理由に懲戒解雇することが出来るのか、という問題もあります。この点については、以下の記事をご覧下さい。
▼逮捕を理由とする懲戒解雇は許されるか
解雇一般については以下の記事をご覧下さい。
▼解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~
▼試用期間終了時の解雇は許されるか
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