退職勧奨が違法となる水準
会社が従業員に対して退職を促すこと(退職勧奨)自体は違法ではありませんが、相当な限度を超える場合には違法になります。(詳しくは次の記事をご覧ください≫退職勧奨(退職勧告)が違法となるとき)
問題は、どのような場合に「相当な限度を超えた違法な退職勧奨」となるのかという点です。
一般論だけですとなかなか分かりづらいところですので、具体的な事例(京都地裁平成26年2月27日判決)から裁判所が考える水準を見てみたいと思います。
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うつ病による休職・復職の後の退職勧奨
このケースは、宣伝広告の企画制作等の行う会社で働く従業員が退職強要によって精神的苦痛を被ったとして慰謝料の支払いを求めた事案です。
(他に、休職期間満了により退職扱いとなった点の効力等も問題となっていますが、ここでは退職勧奨の部分についてとりあげます)
この従業員は、鬱病で約半年間休職した後復職しましたが、うつ病の治療が継続中であったため、当初は就業条件を変更して勤務し、復職から1年3ヶ月後に休職前の条件に戻して勤務を開始しました。
ところが、再び体調が悪化したため業務量の軽減を会社に求めるなどしていましたが、会社行事に一部参加できない等の行動があった後、会社から「体調悪化が心配である」という理由で退職勧奨を受けるに至りました。
裁判所の認定によると、合計5回の面談が行われ、第2回面談は約1時間、第3回面談は約2時間、第5回面談は約1時間行われています。
違法と判断された要素
裁判所は、一般論として、退職勧奨はその態様が
「退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められる場合」
には違法となると述べています。
そして、このケースでは
- 第2回面談において、退職勧奨に応じなければ解雇する可能性を示唆するなどして退職を求めていること
- 第2回面談及び第3回面談で、従業員が、「自分からは辞めるとは言いたくない」と述べているにも関わらず、繰り返し退職勧奨が行われていること
- 従業員が業務量を調節してもらえれば働けると述べたのに、会社がそれに応じなかったこと
- 第2回面談は約1時間、第3回面談は約2時間と長時間に及んでいること
という点を指摘し、本件での退職勧奨は違法と結論づけています。
違法性を基礎づける事情の一つとして、「従業員が、自分からは辞めるとは言いたくないと述べているにも関わらず、繰り返し退職勧奨が行われていること」が挙げられていることからも分かるように、自ら退職する意思がないという時には、できる限り明確にそのことを会社に伝えることが大切です。
自ら退職する意思がないことをはっきり示すことによって、解雇だったのか、自主退職だったのかという争いが生じることを防ぐこともできます。この点について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
▼解雇と自己都合退職の境界~「辞める」と口にする前に知っておきたいこと
また、このケースではうつ病による休職があった後復職していますが、休職期間満了に際しては、果たして復職可能なのかどうかという点が大きな問題になります。この点については、以下の記事を参考にしてください。
▼休職期間満了時の解雇が許されるか
▼うつ病による休職後の復職可能性はどう判断されるか
退職勧奨を受けている時には、これを断ったら解雇されるのではないか、不当に配置転換されるのではないかという点が心配になるかと思います。この点については、以下の記事を参考にしてください。
▼解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~
▼退職勧奨後の配置転換命令が権限濫用で違法と判断された例
退職をするということになった場合には次のような点も気になります。
▼退職時に有給休暇を使うために知っておきたいこと
退職勧奨や解雇でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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