休職制度では、通常、休職期間満了時に復職できなければ自然退職あるいは解雇と定められています。
したがって、休職期間満了時には、果たして復職可能なのかどうかという点が非常に大きな問題になります。
とりわけ復職可能性の判断が難しいのが、うつ病などの精神的疾患の場合です。
そこで、うつ病による休職期間満了時の復職可能性について問題となった裁判例(平成28年9月28日東京地裁判決)を見てみたいと思います。
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リハビリ勤務後の退職通知/解雇
この事案は、建築事務所で建築設計技師として働いてた労働者が、うつ病に罹患して休職した後、いったんリハビリ勤務(試し出勤)を開始したものの休職期間満了を理由とする退職通知及び解雇通知を受けたというケースです。
退職通知及び解雇通知の効力を巡って「復職不能」という休職原因が消滅していたのかどうかという点が問題となりました。
復職不能かどうか
この点について裁判所は、「休職期間が満了する前に休職原因が消滅したことについては,労務の提供ができなかったにもかかわらず解雇権を留保されていた労働者が主張立証責任を負う」とした上で、休職原因の消滅の判断方法について、次のように述べています。
- 復職不能の事由の消滅は、基本的には従前の職務を通常程度に行う事ができる状態にある場合をいう
- もっとも、それに至らない場合であっても,当該労働者の能力,経験,地位,その精神的不調の回復の程度等に照らして,相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合を含むと解すべきである
- うつ病等の精神的不調により休職し、一定程度の改善をみた労働者が、リハビリ勤務を実施した上で休職原因が消滅したか否かを判断するにあたっては、従前の職務を通常程度に行うことが出来るか否かだけではなく、相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合であるか否かについても検討することを要する
- ③の判断にあたっては、休職原因となった精神的不調の内容,現状における回復程度ないし回復可能性,職務に与える影響などについて,医学的な見地から検討することが重要になる
つまり、仮に、休職期間満了時点で従前の職務を通常程度行うことができるレベルに回復していなくても、相当の期間内に通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合には、「復職不能」と決めつけることはできないということになります。
(なお、復職可能かどうかの判断にあたっては、必ずしも、休職前に従事していた仕事に復職出来る必要があるわけではなく、他の業種への配転可能性も含めて検討しなければならない点にも注意が必要です。≫休職期間満了時の解雇が許されるか)
退職扱いの無効
そして、裁判所は、本件においては、
・リハビリ期間中に行った業務の遂行状況(図面の修正作業)が不十分であったという会社の判断の根拠が乏しいこと
・会社が主張した「本棚の整理やコピーのような日常的な事務作業すら満足に行うことができなかった」という点についても、こうした業務の重要度が原告の建築設計士としての職務内容において比重の低いものであること
・リハビリ期間中、感染症で1日休んだ他は遅刻早退もなく、勤怠については問題がなかったこと
・原告が提出した医師の診断書で通常勤務が可能で残業制限が解除できる状態である旨記載されていたこと
等を指摘した上で、少なくとも「相当の期間内に通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込まれる状況にあったとみるべき」として、退職扱いを無効と結論づけました。
うつ病で休職された方の復職可能性を判断する方法として参考になる裁判例です。
損害賠償までは認められず
なお、原告は、本件解雇及び本件退職措置によって被った損害の賠償も求めていましたが、裁判所は、「原告に生じた精神的苦痛は,本件退職措置及び本件解雇により賃金支払を受けることのできなかった期間中における賃金の支払請求を認容することによって慰謝されたとみるのが相当」として、損害賠償請求までは認めませんでした。
併せて知っておきたい。
うつ病と休職・復職について知る
労災と解雇について知る
退職届けを出すように迫られているという方へ
≫退職勧奨が違法となるとき~退職届けを出す前に知っておきたいこと
≫解雇と自主退職の境界~「辞める」と口にする前に知っておきたいこと
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そんなとき、今後の行動を考える上で、実際の裁判例で解雇の効力についてどのような判断されているのかを知ることは大変役立ちます。
近年の解雇裁判例を解雇理由等から検索出来るようにしました。ご自分のケースに近いものを探して、参考にして頂ければと思います。⇒⇒⇒解雇裁判例ガイドへ