近年、精神疾患のために休職をする方が大変増えており、復職をめぐってご相談を受けることも多くあります。
多くの会社では、病気による欠勤が長期に及ぶ場合には、一定期間を休職とし、休職期間満了時に復職できない状態にある場合には自然退職や解雇となる休職制度を設けています。
この休職期間満了時の解雇・復職をめぐってよく争いとなるのです。今回は、この休職期間満了時によく問題となる点をとりあげて解説します。
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会社の指定する医師の診断は必要か
休職期間満了にあたっては、復職できるかどうかを判断するために、会社から指定する医師による診断を求められることがあります。
様々な事情によりこれを嫌がる方もいらっしゃいますが、合理的理由なしにこれを拒否することは難しいでしょう。
ただ、もしその判断に納得がいかないという場合は、複数名の医師の診断によって復職できるかどうかについて判断することを求めるなど、より客観的かつ正確な判断を求めていくことになります。
なお、ここで重要なのは客観的な状態として復職可能な状態にあるのかという点ですから、就業規則の文言上、復職の条件として、「会社が指定した医師による復職可能である旨の証明書の提出」や、「会社が復職可能と認めること」が求められているとしても、文字通りそれ自体が復職の絶対的条件と捉えることは出来ません。
この点について、たとえば、あるケース(平成26年8月20日東京地裁判決)では、会社の就業規則で「休職期間が満了し、傷病が治癒しかつ通常勤務に耐えられる旨の会社が指定した医師の作成した証明書の提出を求め、復職できると会社が認めたとき」と復職要件が定められていましたが、裁判所は次のように判断しています。
- 労働者が債務の本旨に従った履行の提供をしているにもかかわらず、使用者の復職可能との判断や、使用者の指定した医師による通常勤務に耐えられる旨の診断書が得られないことによって、労働者が、就労を拒絶されたり、退職とされたりするいわれはない
- したがって、「休職期間が満了し、傷病が治癒しかつ通常勤務に耐えられる旨の会社が指定した医師の作成した証明書の提出を求め、復職できると会社が認めたとき」とは、傷病についての医師の診断書等によって労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができると認められる場合をいい、被告の復職可能との判断や被告指定の医師の復職可能との診断書等は要しないというべきである。
要するに、客観的な状態として働ける状態にあるのかどうかという点こそが問題なのであって、文字通り会社が認めなければダメという話ではないのです。
休職前の業務への復帰が必要か
次に、復職可能かどうかの判断にあたって問題となるのは、「休職前に従事していた仕事に」復職可能である必要があるのか、という点です。
つまり、休職前に従事していた仕事に復帰することは無理でも、他の仕事であれば可能という場合にどう判断されるのかということです。
この点について、最高裁判決(片山組判決 平成10年4月9日)は、
「休職者の能力や経験、地位、企業の規模、業種、労働者の配置異動の実情等に照らして、他の業種への配転の現実的可能性がある場合には、その配転が可能かどうかを検討する必要がある」
としています。
つまり、復職できるかどうかを判断するにあたっては、必ずしも、休職前に従事していた仕事に復職出来る必要がある訳ではないのです。
したがって、他の業種への配転の現実的可能性があるにもかかわらず、その配転について検討しないまま、復職不可と判断して休職期間満了とともに解雇することは許されません。
私傷病の場合と労災の場合の違い
なお、注意しなければいけないのは、上記に記載したのは、あくまでも私傷病の場合だという点です。
業務上の原因で精神疾患に罹患した、つまり労災に該当するという場合は、この疾患による休業期間中及びその後の30日間は、そもそも原則として解雇は許されません(労働基準法19条)。この点について詳しくはこちらをご覧ください。
▼労災で休業中に解雇は許されるか
また、労災で休業中に退職した場合、退職後の休業補償はどうなるかという問題もありますが、この点は以下の記事を参考にしてください。
▼労災の休業補償期間中に退職する場合と退職後の労災
休職事由が消滅したかが争われた具体例
では、具体例(東京地裁24年12月25日判決)を元に休職事由が消滅したかどうかがどのように判断されるのかを見てみます。
これは、視覚障害を発症して休職扱いになった原告が休職期間満了によって自動退職という扱いになったケースで、退職の効力をめぐって「休職期間満了時に休職事由が消滅していたのかどうか」が争われました。
裁判所は、まず、労働者が職種や業務内容を特定することなく、雇用契約を締結している場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全には出来ないとしても、
- 当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ
- その提供を申し出ているのであれば
かつ
なお、労働者として果たすべき労務提供の義務を果たしていると考えるべきとしています。
どちらが立証責任を負うのか
上記の点は、最初に紹介した平成10年4月9日の最高裁判例と同じですが、その上で、裁判所は、休職事由が消滅したことについて、どちらが立証する責任があるのかについても触れています。
裁判所は、休職事由が消滅したことの主張立証責任は、その消滅を主張する労働者側にあるものの、
- 労働者側が、配置される可能性のある業務について労務の提供をすることが出来ることを立証すれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働くというべきであって
- これに対して、使用者が、当該労働者を配置出来る現実的可能性がある業務が存在しない事について反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認される
としました。
その理由としては、企業における労働者の配置、異動の実情及び難易といった内部の事情についてまで労働者が立証し尽くすのは現実問題として困難である、という点を挙げています。
本件での判断
これを踏まえ、裁判所は、
- 原告の視力は幾分かの回復をみせており、医師から、視覚障害者補助具の活用によって業務遂行が可能である旨の意見が出されていること
- 原告が以前に視覚障害を負った状況下でも企画書を作成出来ていたこと等
を考慮して、原告は事務職としての通常の業務を遂行する事が可能であった、したがって、退職は効力を生じていない、と結論づけました。
この事案では視覚障害が問題になりましたが、最近大変多いのはうつ病などの精神的疾患のケースです。うつ病による休職期間満了時の復職可能性が問題となったケースについては、こちらをご覧ください。
▼うつ病による休職後の復職可能性はどう判断されるか
また、うつ病は、どうしても治療が長引くことが多いことから、いったん復職した後に、退職勧奨されたり、解雇される場合も出てきます。このようなケースについてはこちらを参考にしてください。
▼うつ病による休職・復職後の解雇が無効とされた裁判例
▼うつ病による休職・復職後の退職勧奨が違法とされた裁判例
いずれにしても、解雇が許される場合や、退職勧奨について、きちんとした知識を持って備えることが大切です。
▼解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~
▼退職勧奨が違法となるとき~退職届けを出す前に知っておきたいこと
休職や復職を巡るトラブルでお困りの方はお気軽にご相談ください。
▼名古屋の弁護士による労働相談のご案内
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