懲戒解雇が行われると、退職金が不支給とされる旨就業規則で定められている場合があります。単に職を失うだけでなく、退職金まで失うことになるわけですから、特に、長年勤務を続けていた労働者のような場合には大きな不利益が生じます.
もっとも、退職金には賃金の後払いとしての性格もあることから、規定上、不支給と定められていても、当然に全額不支給が許されるというわけではありません。
懲戒解雇が有効であるかどうかとは別に、たとえ懲戒解雇が有効であるとしても退職金を全額不支給とするほどの不信行為があるのかということが問題となります。そこで問題となるのが、どのような場合に、退職金の全額不支給まで認められるのかです。
この点に関して、出張旅費の不正受給を理由とする懲戒解雇が有効とされ、退職金の全額不支給も有効と判断された裁判例(神戸地方裁判所尼崎支部判決平成20年2月28日判決)を見てみたいと思います。
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事案の概要
この事案では、鉄道車両用の電気機械等を製造する会社で、主として電力変換装置の設計部門において約33年にわたり勤務した労働者に対して行われた懲戒解雇と退職金不支給の効力が争われました。
解雇理由として、会社からは、当該労働者が約2年にわたり多数回にわたり出張を偽装し旅費を不正受給しており、就業規則の「不当にその地位を利用して、私利をはかったとき」、「刑罰に触れる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき」、「その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき」の各懲戒解雇事由に該当する旨が主張されました。
懲戒解雇の効力
原告(労働者)は、旅費の不正受給の事実自体について争っていましたが、裁判所は、1年9か月にわたり111件の架空の出張旅費請求をし、約285万円の出張旅費を不正受給したことを認定し、「不当にその地位を利用して私利をはかったとき」「刑罰に触れる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき」の各懲戒解雇事由に該当するとしました。
また、懲戒解雇の相当性についても、会社は原告に対して十分な弁明の機会を与えた上、その弁明を踏まえて検討した結果、懲戒解雇処分を決定しており、懲戒解雇手続きの適正、相当性を疑わせる事情は認められない等として、本件懲戒解雇処分が解雇権の濫用にあたるとは認められないと結論づけました。
退職金の全額不支給の効力
原告は懲戒解雇に至るまでに約33年間勤務しており、本来であれば受け取れる退職一時金の金額は1609万円でした。
しかし、「懲戒解雇の場合は受給資格はなくなるものとする」との就業規則の定めに基づき、全額不支給とされたため、その効力が問題となりました。
この点について、裁判所は、「退職金を支給しないことが正当であるというためには、懲戒解雇の理由となる事由が当該従業員の過去の功労を否定し尽くすほどのものであることが必要」とした上で、以下の点を指摘し、退職金の全額不支給は、正当かつ有効と結論づけています。
- 1年9か月にわたり、111件の架空の出張旅費請求をし、285万円余りの出張旅費を不正受給したという行為態様及び内容は、会社に対する重大な背信行為であること
- かかる行為に及んだことについて汲むべき事情が見当たらないこと
- 労働者が、会社による事情聴取及び弁明手続きを経ても不正受給の事実を認めていないこと
- 以上に照らすと、本件出張旅費の不正受給は、当該労働者の過去の功労を否定し尽くすだけの重大なものであること
どのような場合に退職金の全額不支給が許されるかを考える上で参考になる一つの裁判例です。
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そんなとき、今後の行動を考える上で、実際の裁判例で解雇の効力についてどのような判断されているのかを知ることは大変役立ちます。
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