退職勧奨(退職勧告)が違法となるとき




退職してくれませんか?

会社が従業員を辞めさせようとする場合、解雇という方法ではなく、従業員自ら退職を選択するように仕向ける「退職勧奨(退職勧告)」が行われることがあります。

解雇が許される場合には厳格なルールがあるため(解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか)、会社の側からすると、後で争われることがないように、出来れば従業員が自分から辞めるように仕向けたいという思いも働きます。

この退職勧奨を受けた際に、まず押さえておかなければならないのは、

「労働者の側にこれに応じる義務はない」

ということです。

この退職勧奨は、法律的に小難しく言えば

「会社側から雇用契約の合意解約を申し入れている、あるいは、合意解約の申し入れをするよう誘引している」

という性質のものです。

つまり、簡単に言うと「契約を解約してほしいとお願いしている」あるいは「労働者の側から解約を言いだすように誘っている」ということです。

「お願い」あるいは「誘っている」というだけのことですので、これに応じるかどうかは、労働者の意思に完全に委ねられています。

このことをまずしっかりと理解することが大切です。

例えば、マンションを借りているという賃貸借契約の場合を考えてみると、ある日突然、大家から「お願いだから出て行ってくれないか」と言われても、これに応ずる義務がないのは分かりますね。

雇用契約でも同じです。会社があなたを辞めさせたがっているとしても、これに応ずるかどうかは、あなたが自分で判断して決められるのです。

したがって、退職の意思がない場合は、そのことをきっぱりと会社に伝えることが大切です。

(不当な解雇をされたと思ったら、後で会社から「自主退職に過ぎない」と主張されるケースもよくあります。→解雇と自主退職の境界~「辞める」と口にする前に知っておきたいこと

退職勧奨(退職勧告)が違法になるとき

退職勧奨は、このように、会社の側からの「お願い」あるいは「お誘い」というだけですから、逆に言いますと、退職勧奨を行うこと自体が違法行為になるというわけではありません。

時々「退職勧奨=違法な行為」と考えて「退職勧奨された。許せないから訴えたい」というご相談を受けることがありますが、退職勧奨が全て違法行為になるわけではないことに注意が必要です。

ただし、退職勧奨が、例えば脅迫的言動で行われるなど、社会的に不相当なやり方で行われたと言える場合には、退職勧奨は違法な行為となります。

この場合、違法な退職勧奨によって被った苦痛に対する損害賠償請求も可能となります。

社会的に不相当?

問題は、どのような場合に「社会的に不相当」と言えるか、です。

この点については、下関商業高校事件という有名な判例がありますので、まずこれをご紹介したいと思います。

この事案は、年齢を基準に選定された高等学校の教員2名に対して、繰り返し行われた退職勧奨が違法かどうかが争われた事件です。

原告のうち一人対しては「3カ月間に11回」、もう一人の原告に対しては「5か月間で13回」、それぞれ時間にして20分から2時間15分に及ぶ退職勧奨が行われました。

退職勧奨の場で、使用者からは「あなたが辞めれば欠員の補充もできる」「夏休みは授業がないのだから、毎日来てもらって勧奨しましょう」などの発言がされたと認定されています。

1審判決は、まず

「ことさらに多数回あるいは長期にわたり勧奨が行われることは・・・いたずらに被勧奨者の不安感を増し、不当に退職を強要する結果となる可能性が強く、違法性の判断の重要な要素と考えられる」

「退職勧奨は・・・被勧奨者の名誉感情を害することのないよう十分な配慮がなされるべき」

という指摘をしました。

その上で、退職勧奨が違法となる場合と、ならない場合の線引きとして

「総合的に勘案して、全体として被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であったか否かが、その勧奨行為の適法違法を評価する基準になる」

と述べたのです。

そして、こうした基準に照らすと本件の退職勧奨については「違法である」と判断をしました。

この判断は、2審の高裁でも、最高裁でも維持されています。

その他の裁判例を見ても、勧奨の回数や期間、そこでなされた言動等が重要なポイントになっています。

・その他の具体例を見てみる
うつ病による休職・復職後の退職勧奨が違法とされた裁判例
結婚を機にされた退職勧奨が違法とされた裁判例

回数や期間については、被勧奨者が退職に応じない意思を示しているにも関わらず繰り返し行われることによってより違法性が強まると考えられますので、その意味でも、退職の意思がない時にはそのことをきっぱりと告げることが重要となるのです。

立証できるか?

もっとも、退職勧奨というのは密室において、口頭のやりとりで行われることがほとんどです。そのため、退職勧奨時にどのような言動がとられたかということを立証できるようにしておくことがとても大切になってきます。

私がかつて依頼を受けたケースでも、労働者が会社から「自主退職をしなければ解雇する」と執拗に迫られたためにやむを得ず退職届を出すことになったにもかかわらず、裁判になった段階で、会社が「解雇をほのめかしたことすらない」と真っ向から否定してきたことがありました。

このケースでは、退職勧奨時の様子を録音したICレコーダーがあったため、会社の嘘はすぐにばれましたが、このような録音がなければ、立証することは大変難しくなってきます。

したがって、違法な退職勧奨を受けていると感じたときには、自分の身を守るためにも、録音をとったり、直後に詳細にやりとりを記録したメモを作るなど、いつ、どのように違法な退職勧奨を受けたのかを立証出来るようにしておくことが必要です。

解雇されるかもしれない・・・

退職勧奨を受ける方が最も心配されるのは「断ったら解雇されるかもしれない」という点です。

「退職に応じないと解雇になる」と会社からほのめかされたりする場合や、あるいは、会社が言わなくても、あなた自身に思い当たることがあって、これを断ると会社が解雇をするのではないかと心配するような場合もあるかもしれません。

この点について、まず押さえておかなければいけないのは、会社が従業員を解雇するためには「客観的合理的理由」と「社会的相当性」が必要だという点です。
(詳しくはこちらをご覧ください⇒解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~

会社は自由に従業員のクビを切れるわけではないのです。

したがって、解雇される心配があるという場合には、はたして解雇を有効に行うための「客観的合理的理由」や「社会的相当性」があるのかを具体的に検討することになります。

退職届を出す前に

退職勧奨を受けた時に最も大切なのは、なし崩し的に会社に押し切られたり、拙速な判断をしてしまわないことです。

もちろん退職届を出した後であっても、たとえば「解雇理由がないのに解雇になると誤信して退職届を出したから錯誤で無効である」とか、「脅迫によって出さざるを得なくなったから取り消す」などとして争うことも出来ないわけではありません。(詳しくはこちら→退職届けは撤回できるか?

しかし、上に書いたような立証の問題など難しい問題も出てきます。

退職をするかどうかというのは、生活に大きな影響を与える判断なのですから、会社から早急な決断を迫られたとしても「家族や専門家に相談をする」といってきちんと持ち帰り、しかるべき相談をしながら対応をしていくことが必要です。

また、大変残念なことですが、労働基準監督署等に相談に行ったところ、退職届の書き方だけをアドバイスされ、「とりあえずこれを出してから、後のこと(会社に対する賠償請求など)は弁護士のところに相談に行くように」と言われたという例が散見されます。

退職届けを出した後に何かしらの請求をすることが法的に可能かどうか、出来るとしてもどの程度の金銭的補償が見込めるのかなどの判断をきちんとしないまま、こうしたアドバイスに従って退職届けを出すことは大変危険です。

仮に退職届けを出した後に何らかの法的アクションを考えているというのであれば、必ず退職届を出す前に弁護士に相談に相談することが大切です。

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