解雇が有効と認められるためには、客観的合理的理由があること及び社会的相当性を備えていることが必要となります。
すなわち、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となるのです(労働契約法16条)。
解雇理由には様々な類型がありますが、一つの典型例が勤務成績不良や適格性の欠如です。ここでは、勤務成績不良、適格性の欠如等を理由としてなされた解雇の効力が争われた裁判例(那覇地方裁判所平成20年4月9日)を見てみたいと思います。
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事案の概要
この事案では、独立行政法人の正職員として勤務する労働者に対して行われた解雇の効力が問題となりました。
解雇事由として、業務報告違反や外部へのデータ開示など28項目にもわたる多数の事由が挙げられ、「勤務成績、又は技能が不良で、職員としての適格性を欠くとき」「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適さないと認められるとき」に該当する等の主張がなされました。
本件のやや特殊な背景として、解雇が行われる約3年前に原告労働者に対する退職勧奨が行われたこと等が契機となって被告法人内で労働組合が結成され、その後、職場内に組合員と非組合員との間の対立状況が生じ、継続する中で本件解雇が行われるに至ったという点があります。
裁判所の判断
裁判所は、まず、被告法人が主張する多数にわたる解雇事由のうち、証拠によって認定でき、解雇事由該当性を判断するにあたって考慮すべきものは、「業務報告違反」、「外部へのデータ開示」、「契約書等の様式作成を怠ったこと」、「定例会への参加拒否発言及び参加拒否」、「他の職員に対する暴力、脅迫」であると整理しました。
文書または物品の持ち出し禁止違反
このうち、「外部へのデータ開示」は、原告労働者が、被告法人の関係機関である公団等からの要請を受けて、地下ダム取水量等の業務上のデータを上司の決裁を受けることなく開示したという事実です。
裁判所は、これが服務規程違反(文書又は物品の持ち出し禁止違反)となることは認めながらも、本件服務規程においては、文書又は物品の持ち出し禁止違反のみで解雇事由となる定めにはなっていないとして、これを理由とする解雇は許されないとしました。
(なお書きで、データの開示先が被告法人の関係機関であることや、開示されたデータが秘密性が高いものとは言えないこと等から、服務規程違反の程度は軽微なものであって、この意味でも解雇事由とはならないとも指摘しています)
暴力・脅迫行為
また、「他の職員に対する暴力・脅迫行為」についても、被告法人が指摘する服務規程の該当条項は、出勤停止の基準であって、懲戒解雇事由とはなっておらず、さらに、普通解雇と懲戒解雇のそれぞれについて該当事由を列挙し、両解雇を書き分けている本件服務規程の内容に照らせば、仮に懲戒解雇事由に該当するとしても普通解雇をすることはできないとしました。
(なお書きで、暴力・脅迫行為は、二日酔いの状態で出勤した相手方との間で口論をする中で行われたものであって相手方にも相応の非があることや、その内容(額を一度ついた、「スナスンド(死なすぞの意味)」との言葉を発した)も比較的軽微なものであることからすれば、解雇事由である「しばしば訓戒を受けたにもかかわらず、なお改悛の見込みがないとき」には該当せず、この点からも解雇事由に当たるとは言えないとしています)
業務報告違反等について
残りの「業務報告違反」「契約書等の様式作成を怠ったこと」「定例会への参加拒否発言及び参加拒否」というのは、具体的には、原告労働者が上司からの現場指示に従わず、「現場に一緒にくればいいさー」などと発言したり、作成を指示されていた契約書等の様式について、上司に相談することなく、作成作業の続行を中止したり、あるいは、各職員の毎週の業務予定の確認、業務や日程の調整、課題事項の確認等行う定例会への出席を拒否する発言をしたり、実際に参加を拒否したという事実です。
裁判所は、これらの行動について、「指示された職務、あるいは業務遂行上重要な位置付けを有する職務を忠実に遂行しなければならないという意識やこれを遂行しようとする意欲に欠けるものであって、原告の職務遂行能力に疑義を生ぜしめるものといえ、決して軽視することはできない」としながらも、以下の点を指摘しました。
- 各行為は、いずれも単発的なものと評価出来るものであって、長期間継続的に生じているものではないこと
- その背景には、原告労働者が主導して労働組合を結成した後、これを快く思わない上司や他の同僚、あるいは、非組合員と組合員との間の確執反目が存在し、そのような職場環境の中で生じたものであること
その上で、これらの行為をもって、「勤務成績,又は技能が不良で,職員としての適格性を欠く場合」あるいは「勤務成績又は能率が著しく不良で,就業に適さないと認められる場合」に該当するものと認めることはできないとしました。
また、仮に解雇事由該当行為を認める余地があるとしても、解雇に至る経緯や、暴力行為等の程度が軽微であること、相手にも相応の非があること、上司の指示に従わなかった背景には、組合員を嫌悪する他の職員との対立があり、さらに、いずれも単発的なものと評価でき、これにより被告法人の業務に重大な影響を与えたものとも言えないこと等に照らすと、本件解雇は解雇権の濫用に当たり、無効と結論づけました。
労働組合結成を契機とする一定期間に及ぶ対立という特殊な状況を踏まえた上での判断ではありますが、勤務態度不良等を理由とする解雇の判断の一例として参考になります。
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