取締役は労災の対象とならないのか

取締役と労災

労働者が業務の上で病気になったり、怪我をしたりすると労災保険からの給付を受けることができます。

問題はどのような場合に「労働者」として労災給付を受けることが出来るかです。

たとえ取締役の肩書で働いている場合でも、労働者として労災給付を受けられる場合があります。

そのような事例として、平成15年10月29日大阪地裁判決をとりあげます。

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労災保険法での「労働者」とは

この事案は、従業員として18年間働いた後、専務取締役に就任して働いていたAさんが出張中の宿泊先で死亡したため、遺族が労災申請を行ったところ、労基署が「労働者とは認められない」という理由で支給を認めなかったことから、遺族がその取り消しを求めた裁判です。

この事案で裁判所は、まず、「労災保険法上の「労働者」とは、労働基準法上の労働者と同じで

「使用者との使用従属関係の下に労務を提供し,その対価として使用者から賃金の支払を受ける者」

を指し、「労働者」に当たるかどうかは

「その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうか」

によって判断すべきとしました。

少々難しいですが、重要なのは「実態によって判断する」という点です。

「肩書が専務取締役であったかどうか」といった形式的なことによって決まるわけでは決してないのです。

裁判所は、会社の登記簿上、取締役として登記されていたり、被災者自身も自分が取締役であると思っていたとしても、労働者かどうかは実態によって判断されるものであるから、これを理由に労働者ではないということはできないとも述べています。

従業員であった頃と同じ職務内容

その上で裁判所は

① 被災者は、専務取締役に就任した後も、担当する業務は従前と同じであったこと

② その内容は、他の従業員と同様、営業活動や出荷作業であり、また事務所の掃除も行うことがあり、営業成績についても他の従業員と同じように社長から叱責を受けることがあったこと

という事実を指摘して、専務取締役に就任したことによって、被災者がただちに従業員ではなくなったということはできないとしました。

労働者であることと一見矛盾するような事実も・・・

一方で、この被災者は、

① 会社の業務執行にも関与し、従業員に対して一定の指揮命令を行ったり、自分の業務についても一定の裁量が認められていたこと

② 労働時間の管理がされておらず、報酬は代表取締役と同額で、また、決算処理上役員報酬として処理されていたこと、他の従業員と違って皆勤手当等の支給がなく、また報酬から雇用保険料の控除がされていなかったこと

など、一見すると労働者であることと矛盾するかのような事実も存在しました。

しかし、これについても裁判所は、①については、被災者が長年にわたって職務に従事し精通していたことからすると、社長から一定範囲で権限を委譲されたと考えることが出来るとし、また、②についても、

・当該会社では従業員についても厳格な時間管理がされていなかったこと

・基本給については代表者の方が被災者よりも多いこと

・労災保険については従業員についても行われていないこと

などの実態を丁寧に認定して、これらからすると、労働者と認めるのに矛盾しないとしました。

さらに、被災者がかつて経営への参画を求められた際に拒絶していることや、取締役会が通常開かれていなかったことなどの事実も踏まえて、、結論として、被災者は「労働者」にあたるとの判断を下しています。

この事案でそうであったように、当事者からすると「取締役であって労働者ではない」のが当然と思っているような事案でも、実態を細かく見ていくと、労働者として保護を受けられるというケースは少なくありません。

形式的な肩書だけで最初から諦めてしまうという必要はないことを最後に改めて強調しておきたいと思います。

労働者かどうかは退職金を巡ってもよく争いになります。この点については以下の記事をご覧ください。
取締役と退職金請求

労働者かどうかが争われた他の例についてはこちらも参考にしてください。
労働基準法上の労働者とは

労災に関するその他の問題についてはこちら。
労災の休業補償期間中に退職する場合と退職後の労災

飲み会・忘年会での事故は労災になるのか

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