忘年会後の交通事故
会社の行事に参加して事故に遭った場合に労災となるのかが問題となる場合があります。
この点に関して、1泊2日で開かれた会社の忘年会に出席した従業員が、終了後に交通事故に遭い負傷したことが労災に該当するかが争われた、昭和57年5月28日福井地裁判決を取り上げたいと思います。
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親睦目的の忘年会
裁判所の認定によると、この忘年会は、従業員の労をねぎらい、従業員の親睦を深める目的で開かれ、経費は全額会社が負担しました。
また、従業員に対して忘年会に参加すべき旨の業務命令が出されることはありませんでしたが、参加者が少ないと親睦の意味が薄らいでしまうことから、従業員には「特に都合が悪い場合は格別できるだけ参加するように」と勧められ、参加者は当日出勤扱いすることになっていました。
結局、忘年会には男性従業員及び役員の全員が参加しています。
業務遂行性の否定
以上の事実認定を元に、裁判所は、
「会社が忘年会を実施した意図は、従業員の慰安と親睦のためであつて、現に実施中も役員らが仕事の伝達や打合せをしたこともなかったのであるから、当該忘年会は、会社一般が通常行なっている忘年会と何ら変わりがない」
としたうえで、忘年会への参加について
「労働者が使用者の指揮命令に基づく支配下における勤務であったとは言い難く、労働者の本来の職務及びこれと密接な関係を有する行為でもないというべき」
として、当該従業員の忘年会参加に業務遂行性は認められず、労災に該当しないと判断しました。
従業員からしてみると「仕事の一貫」としか思えなくても、本来の業務との関連性の薄い行事への参加について業務性遂行性が認められるためのハードルはなかなか高いと言えます。
業務上の災害と認められた例
これに対して、会社の行事に参加して事故に遭った場合について業務中の災害であることが認められた例として、昭和58年2月4日千葉地裁佐倉支部判決を取り上げたいと思います。
この事案は、銀行に勤務する労働者が、料理屋で開かれた支店長主催の期末預金増強の決起大会に参加中、階段から転落して死亡したというケースです。
労災の認定そのものが争われた裁判ではなく、遺族が会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を求めた事案ですが、会社に安全配慮義務違反があるかどうかを判断する前提として、業務中の災害にあたるかどうかについて触れられています。
事実上、業務命令と同視しうる
裁判所は、
① 決起大会は、業務拡大目標達成のため、職員の慰労と志気の昂揚を図るために開かれたもので、銀行の公式記録にも記載されていること
② 費用は銀行と支店長負担になっていること
③ 支店内にある会議室が狭いという物理的理由及び慰労の趣旨で料理屋が会場とされたこと
④ 出席は、支店長の指示によるものであるため特別の事情がない限り出席せざるを得ないと各職員が考えており、実際に男子職員全員が出席したこと
などの事情を認定したうえで、
「本件決起大会が被告銀行の業務に関連したものであることは明白であり、右大会への出席は任意ではなく、事実上業務命令とも同視し得るものであるから、本件事項は業務中に発生したものと認めるのが相当である」
と判断しました。