不当解雇を裁判等で争いたいという場合に、重要となってくるのは「証拠」です。
よく裁判手続きについて「真実を明らかにして、悪い者をさばいてくれるところ」というイメージを持っている方がいます。
全くの間違いとは言いませんが、それが「裁判所が率先していろいろ調べてくれる。その結果真実を明らかにしてくれる」という意味であれば、残念ながら、それは間違いです。
裁判所は、基本的に、両当事者が提出した証拠に基づいて判断をします。つまり、裁判所が率先して事実を調査し、それに基づいて真実を明らかにしてくれるというわけではないのです。
相談者の中には時々、「調べてくれれば私が言っていることが正しいのはすぐ分かる」とだけ言われる方もいらっしゃいますが、裁判所に対してそれだけ言っていても、残念ながら全く通用しません。たとえ真実でもそれが証拠によって立証できなければ真実と評価してもらえないのです。
ここでは、そんな不当解雇を争うときに重要となってくる証拠についてご説明します。
客観的な証拠の重要性
まず、押さえなければいけないのは、客観的な証拠が重要であるという点です。客観的な証拠とは、具体的に言えば、書類や録音音声といった、客観的な形で残っている証拠です。
これに対して、証人の証言やその証人が書いた「陳述書」は、客観的なものとは言えず、その証拠としての価値は一段低く見られてしまうと思っておく必要があります。
もちろん証言(証人)というのも重要な証拠です。しかし、証言というのはいくらでも作りあげることができるものです。
様々な訴訟に携わっていると本当によくわかるのですが、裁判では、同じ事実について証言が真っ向から食い違うというのがむしろ普通のことです。
これも一般の方からすると、大変不思議に思えるかもしれませんが、虚偽の主張や証言が堂々となされるのが現実の世界です。
このように証言というのはいくらでも作り上げることができるからこそ、裁判所からみると、証言だけに頼って判断をするわけにはいかず、客観的な証拠の役割が大きくなってきます。
したがって、将来的に何か争いごとになりそうな時には、客観的な証拠を集めておくことがとても大切になってきます。
不当解雇の争いの場合
不当解雇を巡って争いになる場合、まず基本的な証拠として、会社の業務内容や組織を知るための会社パンフレットや組織図、そして、どのような雇用契約の内容であったかを知るための雇用契約書や雇用条件通知書、就業規則、給料明細などが挙げられます。
このうち就業規則は、解雇事由の内容を知るという意味でも大変重要です。不当解雇の争いは、就業規則に定められた解雇事由があるかが議論の出発点になりますので、最初に弁護士に相談に行くときから写しを持参することをお勧めします。
なお、時々、就業規則について、コピーや写しの持ち出しが禁じられていたりする場合がありますが、こうしたケースについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
⇒就業規則の変更と周知のルールについて
そして、解雇された事実や解雇の理由を明らかにするものとして、解雇通知書や解雇理由証明書があります。
労働者の側が解雇されたと思っていても、会社から「解雇自体していない。自分から辞めただけ」と言われるケースは意外に多いのです。その結果、解雇なのか自主退職なのかが争点になったりします(詳しくは、口頭で「辞めろ」と言われたら解雇?自己都合?|境界の判断ポイントと裁判例)
こうした事態を防ぐためには、口頭で解雇された(と思った)場合には、解雇通知書を正式に出すように求めることが大切です。書面の形で出してもらえないのであれば、口頭のやりとりを録音しておくことも有用です。
また、解雇理由証明書は、解雇の理由を明らかにさせるものですが、後付けの理由を許さないようにするためにもなるべく早く出させた方が良いです。(参考≫解雇理由証明書とは何か~請求方法からもらえない場合の対応まで)
これらが不当解雇が争いになる場合の基本的な客観証拠になりますが、その上で、一番問題となるのが、解雇の客観的合理的理由と社会的相当性の有無に関する証拠です。
例えば、成績不良や勤務態度不良を理由とする解雇の場合であれば、業務日報や勤務評価書、会社から出された注意指導に関する書類やメールなどが重要な証拠となります。
また整理解雇の場合であれば、会社から出された説明書類、会社の業績やこの間の求人状況が分かる書類等が重要になってきます。
早めの対策と行動を
一般的にいえるのは、時間の経過とともに証拠の収集は難しくなってくるという点です。
日頃から重要な書類については写しを手元に残しておくと役立ちますし、また、何かトラブルになりそうな時には、事実の経緯をメモに残しておくと役立ちます。
自分の身を守るために何が必要なのかを知って、早めの対策と行動をとることをお勧めします。
不当解雇をめぐる裁判で気になることについては、こちらでまとめています。
⇒不当解雇をめぐる裁判|費用・期間・裁判の流れをわかりやすく解説
不当な解雇でお困りの方へ
不当な解雇に対してどう対応すべきかは、具体的な事情によっても変わってきます。ご自身の状況に照らして、今何をすべきかを知りたい方は、一人で悩まず弁護士にご相談ください。
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解雇の効力が争われた具体的な事例を知りたい方へ
「解雇されてしまった」「解雇されるかもしれない」
そんなとき、今後の行動を考える上では、実際の裁判例で解雇の効力についてどのような判断されているのかを知ることは大変役立ちます。
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