残業時間の認定方法
未払い残業代請求にあたっては、労働時間(残業時間)の証明をどのように行うのか、というのが常に大きな問題になります。
残業時間の証明方法について、参考になる裁判例(平成24年12月27日東京地裁判決)をとりあげて考えてみたいと思います。
この裁判は、商業デザインの企画、制作等を営む会社で働いていたデザイナーが、会社に対して未払い残業代の請求等を行った事案です。
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タイムカードによる認定、その他の証拠による認定
裁判所は、まず、労働時間の認定にあたっての基本的な考え方として
「使用者には,労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されている」
という点を指摘しています。
そして
「使用者がタイムカードによって労働時間を記録、管理していた場合には、タイムカードに記録された時刻を基準に出勤の有無及び実労働時間を推定することが相当である」
とした上で、
「ただし、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、その証拠により出勤の有無及び実労働時間を認定することが相当である」
としました。
客観的かつ合理的な証拠による認定
この事案で、裁判所は「客観的かつ合理的な証拠による認定」として、タイムカード上で出退勤時刻の記録がない日についても、原告のパソコン上のデータ保存記録(タイムスタンプ)が残されていることを理由に原告の出勤の事実を認めました。
そして、それぞれの出勤時刻と退勤時刻については、以下のように認定しています。
【出勤時刻】
その日の最初のデータ保存記録から2時間遡った時刻
【退勤時刻】
その日の最終のデータ保存時刻又はメール送信時刻
様々な事情により、タイムカードと実際の勤務時間とが異なるという場合がありますが、そんな場合の立証方法を考える上で参考になる裁判例です。
タイムカードによる出退勤管理がなされていない場合
他方で、タイムカードによる出退勤管理がなされていない場合について参考になる裁判例として大阪高裁平成17年12月1日判決をみてみます。
この事案は、工業用ゴム製品・合成樹脂製品の販売等を営む会社の従業員が会社に対して、未払い残業代の請求をした事案ですが、特徴として、タイムカード等を用いた出退勤管理がなされていなかったという事情がありました。
出退勤の管理責任が会社にあることを理由に・・・
裁判所は、原告の主張する業務終了時刻について、客観性のある証拠がない(原告の妻が原告の帰宅時間を記載したノートについても、それだけは退社時刻の把握は困難とされています)等と指摘しながらも、
①タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、もっぱら会社側の責任によるものであって、これをもって原告に不利益に扱うべきではない
②会社が、残業許可願を提出しないまま残業している従業員がいることを把握しながら、これを放置していたことからすると、具体的な終了時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない
として、「ある程度概括的な推認」によって一部の請求を認めました。
客観的な証拠に基づく十分な立証ができない事情がある場合に、立証のハードルを突破するための一つの考え方として参考になる裁判例です。
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