降格処分が無効となるとき

人事上の措置としての降格処分

人事上の措置として役職や職位の引き下げが行われる場合があります。

役職の引き下げにより役職手当が支給されなくなるなど、これによって労働者が受けるダメージも大変大きいものです。

降格処分が懲戒処分として行われた場合には、懲戒権の濫用かどうかという問題になり、濫用であればその効力は否定されることになります。

(労働契約法15条は「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となる」としています。懲戒解雇手続きについてはこちら→懲戒解雇が無効となるとき

では、懲戒処分としてではなく、単に人事上の措置として行われる場合はどうなるかですが、これもやはり無限定に行えるものではありません。

例えば、降格処分を違法無効であると判断した次の事案(平成9年11月18日東京地裁判決)を見てみたいと思います。

降格処分が違法無効と判断された例

この事案は、看護婦が、記録紛失等を理由に婦長から平看護婦に二段階降格させられたため、その降格処分が違法無効であるとして病院を訴えたケースです。(なお、婦長と平看護婦は待遇面では役付手当五万円がつくか否かという違いがありました。)

裁判所は、まず

「降格を含む人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にあたると認められない限り違法とはならない」

と述べました。

裏を返せば、人事権の行使も「社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にあたると認められる場合」には、違法になることになります。

その上で、裁判所は、裁量権の逸脱かどうかについては

①使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度

②能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度

③労働者の受ける不利益の性質及びその程度

④当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情

を総合考慮すべきとしています。

その上で、本件では

①予定表の発見が遅れたことについて原告のみを責めることはできないこと

②予定表の紛失は一過性のものであり、原告の管理職としての能力・適性を全く否定するものとは断じ難いこと

③近時、被告において降格は全く行われていないこと

④原告は婦長就任の含みで被告に採用された経緯が存すること

⑤勤務表紛失によって被告に具体的な損害は全く発生していないこと

等の事情を総合考慮すると、原告を婦長から平看護婦に二段階降格しなければならないほどの業務上の必要性があるとはいえないとして、降格処分を違法無効なものとしました。

人事上の措置として行われる降格処分も無限定に行えるものではないということを知って頂ければと思います。

労働問題でお困りの方へ→労働法律相談@名古屋のご案内


shita




併せて知っておきたい

その行為は本当に懲戒解雇事由に該当するか?

解雇と自主退職の境界~「辞める」と口にする前に知っておきたいこと

懲戒に先立ち自宅待機(謹慎)命令を受けた場合、給料はどうなるのか?

違法な自宅待機命令~こんな自宅待機命令はありなのか?!

業務上のミスを理由に会社から損害賠償請求をされたときに知っておきたいこと


法律相談のご案内

関連記事

労働基準監督署への申告・相談と不利益取り扱いの禁止

監督機関 会社が労働基準法違反をしているから取り締まってほしいという時に訴える場所としてすぐに

記事を読む

身元保証人の責任とは

身元保証人の責任 雇用契約を締結する際に、会社からの求めで「身元保証人」を立てる場合があります

記事を読む

期間の定めのある契約と雇止め~更新拒否ができる場合、できない場合~

雇いどめに対する規制 あらかじめ雇用期間が決まっている「期間の定めのある契約」の場合、本来であれば

記事を読む

業務上のミスを理由に会社から損害賠償請求をされたときに知っておきたいこと

在職中のミスを理由とする損害賠償 退職の場面でトラブルが生じたとき、あるいは、何らかのトラブルがあ

記事を読む

会社から従業員に対する損賠賠償請求~居眠りが原因で機械が壊れた!

居眠りを原因とする機械の損傷 従業員の不注意による損害について会社が損害賠償を求めた事案として

記事を読む

交通事故を起こして会社の車を壊してしまった場合の修理費用は全額負担すべきなのか?

会社からの損害賠償請求 会社と従業員との間でトラブルが生じたときに、会社が従業員の行為によって

記事を読む

パート労働者と労働条件の明示義務・待遇の説明義務

パートタイム労働者も「労働者」 働く人の中には、パートやアルバイトなど名称は様々ですが短時間労

記事を読む

労働者に知らされていない就業規則に効力は認められるか?

就業規則の周知義務 会社が労働者を懲戒するためには、あらかじめ就業規則で懲戒の種別及び事由が定

記事を読む

労働条件の明示義務と労働条件通知書・雇用契約書

トラブルの防止のために 退職や解雇をめぐるトラブルでは、いわば在職中にたまっていたあらゆるトラ

記事を読む

雇い止めのルール|契約社員の更新拒絶と労働契約法

2012年8月10日に労働契約法の一部を改正する法律が公布されましたが、その中で、期間の定めのあ

記事を読む

法律相談のご案内

法律相談のご案内

  • NDP13-162-cd
    名古屋で働く弁護士です。労働トラブルに悩む人を支え、ともに歩く専門家でありたいと思います。
    詳しくはこちら
PAGE TOP ↑