労災の休業補償期間中に退職する場合と退職後の労災




労災保険制度

働く人が、仕事をする上で怪我をしたり病気になったり死亡した場合について補償が行われる制度として、労災保険があります。

この労災保険制度の一つのポイントは、働く人が怪我をしたり病気になったことについて、たとえ会社に過失がない場合でも補償がされるという点です。

この点が、後で説明する会社に対する賠償請求の問題とは大きく異なります。

労災として認められれば、治療費はかかりませんし、治療のために働けない期間について「休業補償」という形で金銭が支払われます。

(ただし、少し細かい話になりますが、休業を開始してから3日間の休業補償については、保険からは支払われません。したがって、この部分については会社が独自に支払う必要があります。)

また、労災によって労働者が亡くなってしまったという場合には、遺族に対して年金あるいは一時金という形で補償が行われることになります。

休業補償を受給期間中に退職する場合

このように、健康保険と比較すると大変手厚い給付が行われる労災保険ですが、現在労災で休業補償給付を受けている方が退職を考える場合があります。

労災で受けた怪我や病気が重大なものであればあるほど「この職場では働きたくない」と考えるなどして、自分から退職を選択する場合もよくあります。

そんな時に「退職をすると、今もらっている休業補償給付はもらえるのか」と不安になる方がいるかもしれません。

退職によって変更されない

しかし、心配することはありません。

労災保険法は「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」ことを明確に定めています。(労災保険法12条の5)

したがって、退職をしても休業補償は従前通りもらえます。金額ももちろん変わりません。

これは定年退職をする場合でも同じですし、期間満了で退職する場合も同じです。

退職後の休業期間については会社から証明をもらう必要はなくなりますので、退職日と退職した旨を記載して直接労働基準監督署に請求手続きを取ればよいことになります。

労災で休業中に解雇は許されるか
休職期間満了時の解雇が許されるか

退職後に労災手続きをとる場合

以上は、労災で休業中に退職をする場合についてですが、これとは逆に、退職後に初めて労災申請をする場合もあります。

この場合も、退職したからというだけの理由で労災申請ができなくなることはありません。

例えば、私がよく扱っているアスベストによる労災の場合を例にとると、アスベストによる疾患は、10~40年といった非常に長期にわたる潜伏期間の後に発症する点に大きな特徴があります。

そのため、むしろ退職後に労災の問題が出てくることの方が多くなります。退職後、何十年もたってから労災申請をする、ということも普通にありうるのです。

退職してから時間が経過していると、「時効」の問題があるのでは?と思われる方もいるかもしれません。

たしかに、労災には時効期間が定められています
(例えば遺族補償給付については5年、休業補償給付については2年)

しかし、時効期間は、あくまでも、労働者が亡くなった時から(遺族補償給付の場合)、あるいは、労働ができなくなった時から(休業補償給付の場合)算定されます。

そのため、退職から発症までに長期間が経過していても、時効期間がまだ開始していない以上、この点は時効とは関係ないことになります。

また、退職から長期間が経過している場合には、勤めていた会社がすでに存在していないという場合もよくありますが、この場合でも労災申請は可能です。

つまり、「ずいぶん昔のことだから」という理由だけで労災申請を諦める必要は全くないのです。

事業主の証明

退職後に労災手続きをしようとする場合は、まず最寄の労働基準監督署に行って必要な請求用紙を入手しましょう。

労災病院で治療費の負担なく治療を受けられる「療養補償給付」を得ようとする場合も、労災の治療のために働けない期間について補償を受ける「休業補償給付」を得ようとする場合も、会社から負傷・発病の年月日や災害の原因等について証明を受けることが必要となります。

具体的には各請求書に、事業主としての証明印を押してもらうことになります。

会社の協力が得られない場合

ところが、退職後に労災申請をしようとする場合、会社が申請に協力してくれない場合が出てきます。

そもそも会社が労災であることを認めないような場合や、退職に至るまでに他の原因でトラブルになっているために協力が得られないというような場合です。

このようなときは、証明を得られるように会社にお願いをしたが協力を得られなかった旨を説明するとともに、証明印のないまま労働基準監督署に請求書を提出すれば構いません。

労災かどうかという点は、申請を受けた労働基準監督署が調査をした上で最終的に判断をしますので、会社が証明をしない限り請求できないわけではないのです。

労災申請時に会社がすでになくなってしまっているという場合も、同じように、会社がすでになくなっている旨を説明して事業主証明のないまま請求をすれば構いません。

会社に対する損害賠償請求

最後に、無事に労災が認定されたという場合に、よくご相談を受けるのが、会社に対して損害賠償請求ができるかという問題です。

この点については、労災が起こったことについて会社に「過失がある」といえれば損害賠償請求も可能、というのが答えです。

会社は、働く人が健康で安全に働くことができるように配慮しなければならない法的義務を負っています。

そのため、その義務に違反した結果労災が起こったという場合には、会社に対して損害賠償を請求できるのです。

労災の認定は、業務上、怪我をしたり病気になったといえれば、会社に過失がない場合にもおりますが、会社に対する賠償請求は会社に過失がある場合に限って請求できる点が大きく違います。

例えば、工作機械で指を切断してしまったという場合でいえば、機械の整備はきちんとされていたか、機械の本来の使い方とは違う使い方をさせていなかったか、機械の使い方についてきちんと教育や説明をしていたか、安全対策を十分に行っていたかなどが問題となります。

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