経歴詐称を理由とする解雇の効力

経歴詐称を理由とする解雇

経歴詐称を原因とする解雇の問題は、解雇を巡って生じる一つの大きなテーマです。

この点が裁判で争われたいくつかの具体例をご紹介したいと思います。

まずは、岐阜地裁平成25年2月14日判決をとりあげます。

この事案の原告は、パチンコ店のホールスタッフとして働いていたアルバイト従業員です。

実は、原告は、この会社で働き始める直前に、2ヶ月半、風俗店で働いてた経歴があったのですが、採用される際に提出した履歴書の職歴欄にはそのことを記載していませんでした。

ところが、働き始めてから約5ヶ月後に、このことが会社に発覚してしまったのです。

発覚後、会社は懲戒解雇事由として

「にせの経歴を作り,その他不正なる方法を用いて雇入れられた時」

を挙げている就業規則の規定や、入社時に原告が提出した

「会社の名誉及び信用を傷つける行為を致しません。」
「以上の項目を守れず違反したときは,減給・降格・解雇処分とする。」

などと記載された誓約書を根拠に、原告を懲戒解雇処分としました。

この懲戒解雇が有効なのかが、裁判では争点の一つとなりました。

裁判所の判断

裁判所は、

①原告が風俗店で働いていた期間は約2か月半という比較的短い期間であったこと

②会社が、解雇通告後約1ヶ月間、そのまま原告にホールスタッフとしての就労を継続させていたこと

③原告の立場は期間の定めのある契約によるアルバイト従業員に過ぎなかったこと

からすると、原告が本件職歴を記載しなかったことによって「企業秩序が具体的に侵害されたことがあったとしても,程度としては軽微であった」とした上で、

④原告には本件職歴を申告しなかったという不作為があったにとどまること

⑤本件職歴に関して原告が自発的に申告するべき義務があったともいえないこと

⑥原告の勤務態度等について特段問題があったとも認められないこと

などを総合考慮すると、懲戒解雇は重すぎるとして、

「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから無効」

と、判断しました。

⑤の理由について、裁判所は、

「採用を望む者が、採用面接に当たって、自己に不利益な事実の回答を避けたいと考えることは当然予測されることであり、採用する側もこれを踏まえて採用を検討するべきである」

と述べています。

企業秩序がどう侵害されるのか

参考になるのは、懲戒解雇の有効性を判断するにあたって、経歴詐称によって企業秩序が侵害されるのかどうか、その程度という観点から検討を行っている点です。

企業の懲戒権が、企業秩序の維持のために認められていることを踏まえると、単に「嘘をついたから許さない」ということではなく、それによって企業秩序がどのように侵害されるのかが具体的に検討される必要があります。

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不利益な事実の告知義務はあるか

採用の際の申告義務について、同様のことを述べた裁判例として、もうひとつ平成24年1月27日東京地方裁判判決を見てみたいと思います。

この事案は、厚労省の外郭団体の常務理事から大学の教授に転職した原告が、以前の勤務先でパワハラ、セクハラを行ったとして問題とされた事を大学に告知しなかった事を理由に解雇された事案です。

このような事実を採用の際に自ら申告をすべき義務があるかどうかという点について、裁判所は

「採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は,その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。」

として、告知義務の存在を否定しました。

大学教授でも・・・

大学側は

「大学選任教員には豊かな人間性や品行方正さも求められ、社会の厳しい批判に耐えうる行動の適格性が求められる」

から、セクハラ・パワハラの告発がされ問題とされていることを告知すべき信義則上の義務があったと主張していました。

しかし、これについても、裁判所は、

「採用の時点で,応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは,採用する側である。」

「それが大学教授の採用であっても,告知すれば採用されないことなどが予測される事項について,告知を求められたり,質問されたりしなくとも,雇用契約締結過程における信義則上の義務として,自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない。」

として告知義務の存在を認めませんでした。

解雇が認められた例

今度は、採用の際の不利益な事実の告知に関連して、解雇の効力が認められた裁判例(平成21年8月31日 東京地裁判決)を見てみたいと思います。
 
この事案の原告は、保険会社に勤務する従業員です。

原告は、6ヶ月間の試用期間中に、解雇(本採用の拒否)をされましたが、その理由として、約1年前にある会社で就業した事実とその会社と係争中である事実を会社に事前に伝えなかったことが挙げられたのです。

実は、原告は、約1年前に、ある会社に就業したものの短期間のうちに解雇され、その効力を巡って裁判が行われていました。

しかし、原告は、そのことを履歴書には記載していなかったのです。

裁判所の認定によると、原告は、面接で、この時期の具体的な就労状況を聞かれた際に「フリーランスとして就業していた」と答え、「企業名や詳細な就労状況については答えなかった」とされています。

経歴詐称にあたるか?

裁判所は、このような原告の説明について「原告は意図的に曖昧に回答しているといわざるを得ない」とした上で、

①以前の会社と係争中であるかどうかは,採用にあたって申告すべき事項とまではいい難い

②しかし、採用する側にとっては採否を考慮する上での重要な事実であることは否定し難い。

③原告は「フリーランス」と説明して他社への勤務の事実を明らかにしたと主張するが、「フリーランス」では企業名が明らかではなく、この程度の説明で係争中であった元の会社での就労を説明したものと同様の扱いをすることはできない。

④こういった原告の言動は、原告の採否を検討する重要な事実への手掛かりを意図的に隠したものとして,その主要部分において,「経歴詐称」と評価するのが相当

と結論づけました。

解雇の効力

その上で、裁判所は、原告には

①芳しくない勤務態度
②上司や同僚とのコミュニケーション不良
③副業とみられる活動
④解雇前にすでに転職活動をするなど、勤務意欲を失っていたこと
⑤会社のパソコンを利用して業務専念義務に反する行為を行っていたこと

などがあったことを指摘した上で、これらを全て踏まえると、就業規則に定められた「使用期間中の者が不適格と判断されたとき」に該当し、本件解雇は解雇権の濫用には当たらないと結論づけました。

意図的に隠したか否か

最初に紹介した二つの裁判例などと比較して注目されるのは、原告が面接の際に問題の事項について質問されたのに対して「意図的に曖昧に回答した」と認定されている点です。

質問がされていない状況で、自発的に伝える義務まではないとしても、質問に対して意図的に事実を隠すことについてはマイナス評価がされていると言えます。

また、今回紹介した裁判例では、経歴詐称から即、「解雇有効」と判断されているわけではなく、「芳しくない勤務態度」や「副業と見られる活動」などが認定され、これらを踏まえた上で解雇が有効と判断されていることにも注意が必要です。

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