懲戒解雇の無効裁判例|弁明の機会を与えず処分したケースを解説

懲戒解雇は、会社の労働者に対する制裁として加えられるもっとも重たい処分です。

そのため、懲戒解雇が有効と認められるためには、懲戒解雇事由があるかないか、それが懲戒解雇に足る内容かといった観点以外に、その過程(手続き)の正当性の観点からも厳しい制約を受けます。

そのような懲戒手続きに関する制約の一つとして挙げられる「弁明の機会」の問題について、具体例(平成27年1月23日東京地裁判決)をもとに見てみたいと思います。

3度にわたる懲戒解雇

この事案では、ある財団法人に勤務する労働者に対して3度にわたって行われた懲戒解雇処分の有効性が問題になりました。

なぜ3回も懲戒解雇が行われたのか不思議に思われるかもしれませんが、実は、最初の懲戒解雇が行われた後、労働者がその効力を争って仮処分の申立てをしたところ、その仮処分手続き中に、新たな懲戒解雇事由が判明したとして、2度目の懲戒解雇が行われ、さらに、本訴提起後にも、再度、新たな懲戒解雇事由が判明したとして、3度目の懲戒解雇が行われたのです。

法人側が最初の懲戒解雇だけでは分が悪いとみたのか、念を入れてということだったのか分かりませんが、いずれにしても、このような経過で、3度にわたって行われた懲戒解雇の効力が争われることになりました。

ここでとりあげるのは、仮処分手続き中及び本訴手続き中に行われた2回目と3回目の懲戒解雇についてです。

この2回目の3回目の懲戒解雇は、各手続きの中で、法人側からの主張としていきなりなされたものであることから、弁明の機会があったのか、という点が問題となりました。

弁明の機会

この点について、裁判所は、この法人の就業規則において、懲戒処分については、「よくその事実を調査し、関係協議の上、処分を決定する」と定められているのであるから、懲戒解雇にあたっては、この手続きを踏む必要があるという点を指摘するともに、弁明の機会について次のように述べました。

  1. 懲戒処分は、企業秩序違反行為に対して認められる制裁罰であって、その手続きは適正に行われることを要する
  2. ことに懲戒解雇は、懲戒処分のうちもっとも過酷な処分であるから、その処分を行うにあたっては特段の支障がない限り、事前に弁明の機会を与えることが必要である
  3. かかる支障もないのに、事前の弁明の機会を経ないまま懲戒解雇を行うことは社会的相当性を欠き、懲戒権の濫用となる

そして、本件では、単に訴訟手続等で事後に主張立証が行われることになるというだけでは、事前の弁解を経ることのできなかった特段の支障としては不十分などとして、弁明の機会が与えられていない本件懲戒解雇に効力は認められないと判断したのです。

(懲戒解雇事由の有無についてもあわせて判断し、懲戒解雇事由は認められないとしています)

訴訟手続き等の中で、懲戒解雇とあわせて普通解雇が主張されたり(この問題についてはこちら≫懲戒解雇をあとから普通解雇にすることは許されるか)、二重三重の解雇が主張されることは、ままあることですが、このような場合の手続き的正当性の観点からの判断として参考になる事例です。

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