確かに、休んだことで迷惑は掛けましたが、もちろん会社にも休むことは事前に連絡していますし、これまで休んだことはほとんどありません。上司との間でもともと折り合いが悪かったことから、今回の病欠を口実に解雇されたとしか思えません。
労働基準監督署に相談に行ったところ、不当解雇だろうと言われました。あっせん手続きを紹介されたのですが、会社が無視すれば、あとは自分で弁護士を探して裁判をするしかないとのことです。会社がまともに対応するとも思えず、どうするべきか悩んでいます。このまま泣き寝入りするしかないのでしょうか。
解雇の効力について
不当な解雇だと思いながらも、どこまで何をやるべきかという悩みはよく寄せられます。争いごとにするメリット、デメリットを考えて悩まれるお気持ちはよく分かります。
まずは、実際に何をするかはさておいて、理屈の面から状況について整理しておきましょう。
解雇が有効となるためには、客観的合理的理由や社会的に相当であることが必要となります。
無断欠勤を続けたわけでもなく、単に風邪で5日間だけ休んだというだけで解雇というのはいくら何でも乱暴で、書かれている事情を前提にするのであれば、おっしゃるとおり不当な解雇と言えると思います。
この場合、解雇には法律的な効力は認められず(無効)、あなたは、今でも労働者としての地位にあることになります。
何が出来るのか~選択肢の整理
問題は、解雇が無効であるとして何が出来るのかです。まずは手続きについての選択肢を整理しておきます。
あっせん手続きについて
労働基準監督署で紹介されたというあっせん手続きは、紛争調整委員と呼ばれる労働問題の専門家が入って行う話し合いの手続きです。
費用がかからないというのが大きなメリットですが、あくまでも話し合いの手続きですので、いわゆる強制力はありません。
会社が手続きに参加するかどうかも自由ですので、例えば、心配されているように会社がまったく対応しないという場合には、それ以上はどうしようもない手続きではあります。
また、自分で説明のための書類や資料を作成したり、口頭で説明をしたりしなければいけませんので、うまく説明出来るか不安があるという人にとっては負担が大きいかもしれません。
弁護士をつけた交渉
あっせん以外には「弁護士を探して裁判をするしかない」と言われたとのことですが、弁護士を頼む=裁判を起こすというわけではない点は注意が必要です。
弁護士を依頼した上で、裁判所を使わずに会社との交渉で解決を目指す道もあります。
会社の出方がはっきりしない段階では、いきなり裁判を起こすよりも、まずは交渉をしてみて会社の出方を探るというのが,弁護士からすると最初に考える選択肢です。
具体的には、内容証明等を会社に送り、弁護士が会社との間で交渉を行います。会社の側にも弁護士が立てば、弁護士間でのやりとりになります。
弁護士が窓口となることによって、こちらの本気度を示すことができ、通常は、会社もだんまりを決め込むわけにも行かず対応を迫られる展開を期待できます。また,弁護士を窓口とすることで会社と直接やりとりをするストレスは大きく減ります。
もっとも、これも話し合いであることには変わりありませんので、会社があくまでもかたくな態度をとる場合には、交渉だけで解決を実現することは困難です。
裁判所を使う手続き
交渉を試みても解決がつかない場合や、会社の態度がはっきりしていて交渉をしても無駄と最初から見通せる場合には、裁判所を使う手続きを考えます。
裁判所を使う手続きも、皆さんがイメージされるような長くかかる本格的な「裁判」だけではありません。
「労働審判」といって労働紛争を迅速に解決することを目的にして作られた解決制度もあります。
労働審判は「裁判」と「話し合い」の間をとったような制度と考えて頂くと良いと思います。スピード解決を目指すのが一番の特徴で、おおよその目安でいえば3~4ヶ月程度以内の解決が期待できます。
どの手続きがふさわしいのか
以上のように、進め方の選択肢としては色々あるなかで、もし何か行動を起こすなら、どの手続きがふさわしいのかが問題になります。
ここで、まず考えて頂きたいのは、今の会社で働き続けたい気持ちがあるか、ないか、あるとして、どれくらいあるか、ということです。
人によっては、「もうこんなところで働き続けるつもりはない。ただ、泣き寝入りするのは嫌。お金自体が目的ではないけれど、きちんと責任をとってもらいたい。その意味で金銭的な補償が欲しい」という方もいます。
逆に、「解雇を受け入れて退職すること自体嫌だから、絶対に今の会社で働き続けたい」という人もいます。
もちろん、100かゼロかではなく、この両方の気持ちがある場合もあります。(むしろ、それが普通です)
両方の気持ちがある場合には、どちらの気持ちがどの程度強いのかもよく考えて頂く必要があります。
どんな解決をあなたが真に望んでいるのかによって、とるべき選択肢は変わってきます。
今の会社で元通りに働きたい、あるいは、その気持ちの方がより強いという場合には、あっせん手続きや裁判外での交渉によって、その希望を実現することは率直にいってなかなか困難です。
社長が気まぐれで突発的に解雇を口にしたという場合であれば、弁護士をたてて正面から争う姿勢を示すだけで、解雇撤回という道が開けることもあります。
しかし、ある程度、考慮・準備した上で解雇が行われたような場合には、単に「あっせんを申し立てられたから」「弁護士が出てきたから」ということだけで、会社が解雇を撤回するようなことはあまり期待出来ません。
したがって、今の会社で元通りに働きたい気持ちが強いというのであれば、少なくとも裁判所を使う手続きを考える必要があります。
これに対して、退職を前提に金銭的な補償を求める気持ちが強いという場合は、弁護士を立てての交渉、(あるいは、裁判所を使う場合でも労働審判手続き)が有力な選択肢になってきます。
あっせん手続きについては、解決水準にこだわらず、とにかく費用をかけずにノーリスクでやりたいというのであれば有力な選択肢になってきます。
どのように考えるか
こうした選択肢を前にして、どのような行動を選ぶかは、何を大切にしたいかという、大げさにいえば、その人の人生観に大きく左右されます。
私のところに相談に来られる方の中でも、「こんなゴタゴタに関わって嫌な思いをするより、さっさと忘れて次のステージに行く」という方もいれば、「泣き寝入りして後悔することだけは絶対にしたくない」という方もいます。
「自分はともかく、これが許されると会社に思わせたら、将来も犠牲になる人が出るから何かしておきたい」という話をされる方もいます。
多くの人が「お金も重要だけど、単にそれだけではない」とも口にされますが、働くことが単にお金を稼ぐための手段ではなく、自己実現を図るための一つの過程であることからすれば、当然の思いだと感じます。
色々な考えがあり、本当に悩ましいところだと思いますが、きちんと情報収集をした上で、最後は、自分が何を大切にしたいのかを深く自分に問いながら、決めて頂くことになります。そして、そうして決めたことなのであれば、どのような結論であれ、それが、その人にとっての「正解」なのではないかと思うのです。