残業時間の立証方法について参考となる裁判例
残業代請求にあたって、まず重要なのは残業時間をどのように証明するかという点です。
裁判になると、残業時間を証明する責任は労働者側にあるのが原則です。一日ごとに、どれだけの残業を行ったのかを証拠に基づいて証明しなければいけません。(詳しくはこちら≫残業代請求をするために知っておきたいこと)
もっとも、残業時間を証明する資料は会社のもとにしかなく、会社がそれを開示しないという場合もあります。
このように会社が残業時間を立証する資料を出さない場合における残業時間の証明方法について触れた裁判例(平成23年10月25日東京地裁判決)をとりあげたいと思います。
これは、コマーシャルの企画制作等を行う会社で働いていた従業員2名が退職後に未払いの残業代請求をしたという事案です。
この裁判に先だって、会社の側から従業員に対して、従業員の在職中の行為に関して損害賠償請求をする別の訴訟も起こされており、双方の対立関係が相当深まった中で争われたケースのようです。
裁判の中で、会社からタイムカードは提出されたものの、抜けている月があったり、打刻がされていない日が非常に多いなどの問題がありました。
また、原告が、毎月の作業内容・時間を記載した月間作業報告書の提出を求めたのに対して、会社が「処分済みで存在しない」などとして提出に応じなかったたため、このような状況での残業時間の立証方法について問題となりました。
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推定による算定
裁判所は、 時間外手当等請求訴訟において,時間外労働等を行ったことについては、「支払を求める労働者側が主張・立証責任を負う」としながらも、労基法が時間外・深夜・休日労働について厳格な規制を行い、使用者に労働時間を管理する義務を負わせていることからすれば、
「合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算定することが許される場合もある」
と述べました。
もっとも、その場合の推計方法については
「当該労働の実態に即した適切かつ根拠のあるものである必要がある」
とされている点に注意が必要です。
具体的な推定方法
そして、このケースでは、会社において,労働時間管理のための資料を合理的な理由もなく廃棄したなどとして提出しないという状況が認められることから、
「公平の観点から、推計計算の方法により労働時間を算定する余地を認めるのが相当」
とした上で、請求期間のタイムカード自体が存在しない月があったり、存在してもほとんど打刻がない月がある原告については、以下のような推計計算をとることを「合理的」と認めました。
①タイムカードが存在する月については,始業時刻の打刻がない部分は一律に所定始業時刻とし、終業時刻の打刻がない部分については月毎に算出した各平均終業時刻をそれぞれ終業時刻とする。
②タイムカード自体が存在しないか、存在しても打刻がほとんどない月については、始業時刻については所定始業時刻とし、終業時刻については、タイムカードが存在する月の平均終業時刻をもって終業時刻と推計する。
少しややこししいですが、会社が残業時間を立証する資料を出さないために残業時間の立証が困難という場合に、このような形で一定の推定が認められる例があること、ただ、その場合も、それなりの合理的根拠が求められることがおわかりいただけると思います。
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