雇い止めはどのような時に許されるか

契約社員として働いている方にとって、あるとき会社から「契約は更新しない。今回の契約期間が終わったら契約は終了です」と言われてしまうことほどショックなことはないと思います。

こんなとき、「契約社員だから仕方がない」とあきらめてしまう方もいるでしょう。でも、少し待って下さい。

法律上、このような契約社員の雇い止めには、様々な規制があります。契約を更新するかどうかを会社がいつでも自由に決められるというわけではないのです。契約を更新しないと聞いて「そんな理不尽な・・・」と感じたあなたの気持ちは、法律的にも裏付けを持ったものかもしれません。

ここでは、こうした雇い止めが法律上どのような場合に許されるのかについて、裁判例にも触れながら詳しく解説していきます。また、不当な雇い止めにあったときにどのような行動をとるべきかについても見ていきます。

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雇い止めとは

雇用契約には、雇用期間の定めがない場合とある場合(例えば1年契約、あるいは半年契約など)があります。このうち、雇用期間の定めがある場合のことを「有期雇用」といい、有期雇用の社員のことを一般に「契約社員」と呼んでいます。

雇い止めとは、このような有期雇用契約について、期間が満了するときに契約の更新をせずに、雇用契約を終了させることをいいます。

雇い止めに対する法規制

雇い止めの法理

働く人にとってみれば、働き続けることが出来なくなるという意味で解雇と同じように、重大な影響を受ける「雇い止め」ですが、解雇と異なるのは、会社の積極的な行為によってではなく期間の経過によって契約が自動的に終了してしまう点です。

(これに対して、契約社員が期間の途中で辞めさせられるのは、解雇の問題です→契約社員の契約期間途中での解雇は許されるか

もっとも、形式的には雇用期間が定められていても、例えば更新手続きが形骸化していたり、長期間にわたって更新が繰り返される等によって、実質的には「期間の定めのない契約」とほぼ変わらなくなっているような場合があります。

また、このような場合でなくても、契約が更新されることを労働者が期待してもやむを得ないと思えるような様々な事情がある場合もあります。

こうした場合にまで、形式的に期間の満了によって雇用契約が自動的に終了してしまい、更新するしないを会社が自由に決められるというのでは、労働者の地位はあまりにも不安定となってしまいます

そこで、様々な裁判例を通じて、会社は契約の更新をするかどうかを自由に決められるわけではなく、ある一定の場合には、更新拒否は許されないというルールができてきました。

これを雇い止めの法理といいます。

労働契約法19条

さらに、こうした裁判例を通じて出来上がってきた雇い止めの法理は、現在、労働契約法という法律でも明文で定められています。

具体的には、労働契約法19条が、一定の条件を満たす有期労働契約について、更新拒絶には「客観的合理的理由」と「社会的相当性」が必要であると定めています。

ここで「一定の条件を満たす有期労働契約」とは次の二つの場合です。

  1. 過去に反復更新された有期労働契約で、その雇い止めが期間の定めのない契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの(1号)
  2. 労働者において有期労働契約の契約期間の満了時に契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの(2号)

表現はややこしいですが、要するに、労働者が契約の更新を期待するのももっともだといえる場合には、会社が更新拒否をするためには「客観的合理的理由」や「社会的相当性」が必要となってくるのです。

客観的合理的理由や社会的相当性の具体的な意味などは、この後説明しますが、まずは、会社は常に自由に雇い止めできるわけではないということを押さえて頂ければと思います。

なお、このように契約社員についても当然に雇い止めが許されるわけではないという形で一定の保護が図られているのですが、それでも契約社員の地位が不安定であることには変わりありません。

そこで、労働者の申込みによって有期契約を無期契約に転換することができる無期転換ルールが作られています。この点について詳しくは以下の記事をご覧ください。▼契約社員が無期転換をするために何をすべきか

どのような場合に不当な雇い止めになるのか

以上を整理すると、下の図のようになります。

まず、契約が「期間の定めのない契約と同視できる状態になっているか」を考えます。

期間の定めのない契約と同視できる状態にはなっていないという場合には、次に「契約の更新を期待するのが合理的といえる状態になっているか」を考えます。契約の更新を期待するのが合理的といえる状態にもなっていないのであれば、残念ながら雇い止めは許されることになります。

これに対して、「期間の定めのない契約と同視できる状態」になっているか、あるいは、「契約の更新を期待するのが合理的といえる状態」になっているという場合には、更新を拒否する客観的合理的理由・社会的相当性があるかが問題になります。

客観的合理的理由・社会的相当性があるのであれば雇い止めは許されますが、ないのであれば、雇い止めは許されない、ということになります。

期間の定めのない契約と同視できるのはどのような場合か

ではどのような場合に、期間の定めのない契約と同視できることになるのでしょうか。

この点については、抽象的にいえば、

  • 業務の内容
  • 契約上の地位の性格
  • 当事者の言動
  • 更新手続きの実態
  • 他の労働者の更新状況

などを総合的に考慮して判断するということになりますが、これだけではよく分からないと思いますので、具体的な事例をもとに見ていきたいと思います。

東芝柳町工場事件

まずは、この類型が定められることになった元となっている最高裁の判例(東芝柳町工場事件・昭和49年7月22日)を見てみます。

この事案は、契約期間を2ヶ月とする基幹臨時工として雇用され、5回ないし23回にわたって更新された労働者らに対する雇止めが問題となったケースでした。

裁判所は

  1. 従事する仕事の種類、内容の点において本工(正規従業員)と差異がなかった
  2. 基幹臨時工は総工員数の平均30パーセントを占めていた
  3. 基幹臨時工が二か月の期間満了によつて雇止めされた事例はなく、自ら希望して退職するものの外、そのほとんどが長期間にわたつて継続雇用されていた
  4. 採用に際して、会社側に、長期継続雇用、本工への登用を期待させるような言動があった
  5. 契約は、5回ないし23回にわたつて更新を重ねた
  6. 必ずしも契約期間満了の都度直ちに新契約締結の手続がとられていたわけではなかった

という事実関係を前提にして、本件各労働契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとの判断を示しました。

期間の定めのない契約と同視できるとされた裁判例①

期間の定めのない契約と同視できると判断されたその他の例をいくつか見てみます。

まずは、レンタカー及びカラオケ店を営む会社において、当初は6ヶ月ごと、後に2ヶ月ごとに契約更新がされ、合計22年以上勤務してきたアルバイト従業員に対する雇止めが問題となった事案(津地裁平成28年10月25日判決)です。

裁判所は

  1. 22年以上の間、6ヶ月ごとまたは2ヶ月ごとに契約更新を繰り返したこと
  2. 業務内容は、6か月あるいは2か月で終了するような期限が決められた業務ではなく、勤務時間帯が夜間であるというだけで、正社員とそれほど変わらない業務内容であったこと
  3. 原告が雇用されていた間、意に反して雇止めにされた従業員はいなかったこと
  4. 更新手続は形骸化しており、雇用期間満了後に更新手続が行われることもあったこと

を指摘した上で、当該有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とほぼ同視できると判断しました。。

この判断は、控訴審である名古屋高裁(平成29年5月18日判決)でも維持されています。

期間の定めのない契約と同視できるとされた裁判例②

もう一つ、NTTのグループ会社からコールセンター業務を受託した会社において、15年7ヶ月にわたって、期間1年または3ヶ月の雇用契約を約17回更新し、電話番号案内業務に従事してきたパートタイム社員に対する雇止めが問題となった例(横浜地裁平成27年10月15日判決)をみてみます。

裁判所は

  1. 従事してきた電話番号案内業務は、会社の受託業務の中でも長く受託されてきた業務であり、恒常的・基幹的業務であること
  2. 有期雇用社員が社員全体の約9割を占めていること
  3. 所定労働時間は8時間で、一般の常用労働者とほぼ変わらない勤務条件で勤務していたこと
  4. 約17回の更新を経て勤続年数が15年7ヶ月に及んでいること
  5. 更新手続は、契約期間終了前後にロッカーに配付されるパートタイマー雇用契約書に署名押印し、これを提出するというごく形式的なものであったこと

を指摘した上で、当該雇用契約は期間の定めのない労働契約と同視できると判断しています。

期間の定めのない契約と同視できないとされた裁判例①

これに対して、期間の定めのない契約と同視できないとされた例も見てみます。

まずは、航空会社において、約9年間にわたって9回の契約更新を繰り返し、乗務員として勤務してきた契約社員に対する期間途中の解雇及び雇止めが問題となった事案(大阪地裁平成29年3月6日判決)です。

裁判所は

  1. 契約更新の際に契約内容が一部変更されることがあったこと
  2. 契約更新の際には、新たな契約書を交付し、契約内容に変更があれば、その内容について告知した上、署名を求めるという方法で契約更新の意思を確認していたこと
  3. 契約期間の開始日までに原告に契約書が提示されなかったことがあるものの、その回数は1回のみであったこと
  4. (以上からすると)更新手続が形骸化していたとまでは認められないこと
  5. 正社員である乗務員と比較すると、人事体系や賃金体系が異なっており,乗務する便も分けられていこと

を指摘した上で、期間の定めのない契約と同視することはできないと判断しています。(ただし、後でも触れるように、契約の更新を期待するのが合理的といえる状態にはなっていると判断しています)

期間の定めのない契約と同視できないとされた裁判例②

もう一つ、5年半にわたって5回の更新を繰り返し、ドラッグストアで医薬品・化粧品等の販売業務に従事してきた準社員に対する雇止めの効力が問題となった事案(東京地裁平成28年1月27日判決)を見てみると、裁判所は、

  1. (契約書に「契約更新 満了1ヶ月前までに協議」等と記載されるなど)更新時に双方が異議をとどめる余地も残されており、更新が5回,継続期間が5年半に及ぶことや,他の準社員につき雇止めとされた例が少ないとしても,それだけでは更新手続が形骸化しているとまではいえないこと
  2. 業務内容についても、期間を定めて雇用される準社員は、人事労務等の管理権限を有していないなど、期間を定めないで雇用される正社員と差異がないということもできないこと

を指摘して、期間の定めのない契約と同視できないと判断しています。(ただし、こちらも、更新が5回、継続期間が5年半に及んでいること等から、契約の更新を期待するのが合理的といえる状態にはなっていると判断しています)

契約の更新を期待するのが合理的といえるのはどのような場合か

次に、契約の更新を期待するのが合理的といえるのはどのような場合かについて見ていきたいと思います。

こちらも、抽象的にいえば、

  • 業務の内容
  • 契約上の地位の性格
  • 当事者の言動
  • 更新手続きの実態
  • 他の労働者の更新状況

などを総合的に考慮して判断するということになりますが、やはりこれだけではよく分からないと思いますので、具体的な事例をもとに見ていきたいと思います。

日立メディコ事件・龍神タクシー事件

まずは、この類型が定められることになった元となっている最高裁の判例(日立メディコ事件・昭和61年12月4日)を見てみます。

この事案は、契約期間を2ヶ月とする雇用契約を5回更新してきた労働者に対する雇止めが問題となったケースでした。

裁判所は、

  1. 季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであったこと
  2. 五回にわたり契約が更新されていたこと

という事実関係を前提に、雇止めにあたって客観的合理的や社会的相当性が必要となるという判断を示しました。

これは契約の反復更新がされていた事例ですが、契約の反復更新がされておらず、初回更新時の雇止めが問題となった事例としては、龍神タクシー事件(大阪高裁平成3年1月16日判決)があります。

この事案では、「臨時雇」のタクシー運転手に対する 1 年間の雇用契約期間満了時の雇止めが問題となりましたが、裁判所は

  1. 臨時雇運転手は、自己都合による退職者を除いて例外なく雇用契約が更新されてきたこと
  2. 更新の際には、改めて契約書が作成されているものの、必ずしも契約期間満了の都度直ちに新契約締結の手続きをとっていたわけでもないこと(数ヶ月あるいは数日ずれこむこともあったこと)
  3. 本雇運転手に欠員が生じたときは臨時雇運転手の中から登用して補充していたこと

等の事実を指摘した上で、当該雇用契約は、労働者が雇用継続を期待することに合理性があるものというべきと判断しました。

契約の更新を期待するのが合理的といえるとされた例①

契約の更新を期待するのが合理的といえるとされた、その他の例についても見てみます。

まずは、先ほど、期間の定めがない契約と同視できる場合にはあたらないと判断された例として取り上げた、航空会社で乗務員として勤務してきた契約社員に対する期間途中の解雇及び雇止めが問題となった事案(大阪地裁平成29年3月6日判決)です。

裁判所は、契約の更新を期待するのが合理的といえると判断しましたが、その理由として裁判所が指摘しているのは

  1. 契約が約9年間にわたって、9回更新されてきたこと
  2. 契約書には更新があり得る旨明記されていたこと
  3. 特定の路線における乗務員は基本的に契約社員のみであるなど、契約社員の乗務員が一定の継続的役割を果たしていたこと
  4. 原告よりも勤続年数が長い(多くの更新がされている)契約社員が大半であったこと

等の事情です。

契約の更新を期待するのが合理的といえるとされた例②

もう一つ、地方公共団体が設置する施設の管理運営を行っている財団法人において勤務していた嘱託職員らに対する雇止めが問題となった事案(平成28年6月1日富山地裁判決)を見てみます。

裁判所は、

  1. 有期契約とされたのは、指定管理者に指定されなかった場合に余剰人員について雇用調整をせざるを得ないことを考慮したものであること
  2. 更新手続きにおいて、勤務継続の意思確認や辞令書等の交付があり、自動的に本件各労働契約が更新されてきたわけではないこと
  3. からすると、1号には該当しないとしながら

  4. 担当していた業務は、施設の指定管理者である限り、恒常的に必要なものであったこと
  5. 本件各労働契約が5回更新され,雇用の通算期間も約6年に及んでいたこと
  6. 更新ごとに新たな労働契約書の作成、面接の実施等がされておらず、更新手続は簡易なものであったこと
  7. 求人票に「定年制あり一律60歳」「1年間の雇用契約を締結しますが、勤務成績により契約更新を行います」と記載されていたり、採用面接時に「警察の世話になったりしない限り,定年まで働ける」旨説明する等、原告らに雇用継続の期待を持たせる言動等があったこと

を指摘して、原告らが更新を期待することについて合理的な理由があったと判断しました。

契約の更新を期待するのが合理的とはいえないとされた例①

今度は、契約の更新を期待するのが合理的とはいえないとされた裁判例をいくつか見てみます。

まずは、コーヒー・軽食等の店舗内提供・テイクアウト販売を行う店舗を経営する会社で、3ヶ月の雇用契約を14回及び19回(間に1年4ヶ月間の空白期間あり)更新してアルバイトをしてきた大学院生に対する雇止めが問題となった事案(東京地裁平成27年7月31日判決)です。

裁判所は、原告が店長の指揮命令下で時間帯責任者としての職責を長期間果たしてきた事実は認めながらも、

  1. 契約更新手続は、店長がアルバイトと個別に面談を行い,更新の可否について判断をした上で、契約書を交付し、その作成を指示し契約更新を行っていることから、更新鉄続きが形骸化していたとは言えないこと
  2. 契約更新の実態として、一般的には店長から雇止めされるアルバイトは少ないものの、アルバイトの採用条件が最低で週2日程度、1回あたり4時間以上とされていたところ、原告はこれを下回る勤務頻度が常態化しており、勤務頻度の少なさを理由として雇止めされてもおかしくない立場にあったと客観的には評価されること
  3. を指摘して、原告の雇用継続の期待は主観的な期待にとどまり、契約の更新を期待するのが合理的とはいえないと結論づけました。

    契約の更新を期待するのが合理的とはいえないとされた例②

    もう一つ、契約の更新を期待するのが合理的とはいえないと判断された例として、東京地裁平成28年9月14日判決を見てみます。

    この事案は、1年間の嘱託雇用契約を締結して、中国語の通信添削講座に関する事務等に従事していた労働者に対して、2回の契約更新の後に行われた雇止めが問題となった事案です。

    嘱託契約には、自動更新条項が付されていて、実際、特に新しい雇用契約書を作成することもなく、特段の手続きを経ずに自動更新されてきたという事情がありましたが、裁判所は、

    1. 従事していた業務内容は、臨時的な性格が強いものが含まれていたこと/li>
    2. 本件契約は「嘱託雇用契約」とされ、定年後の継続雇用の場合の他、専門家に対して臨時的に仕事を依頼する場合に通常使われる形式がとられていたこと
    3. 原告の出勤日は原則として週3日と、特別に非常勤のような形がとられていたこと
    4. これまで被告においては同様の雇用を行ったことがなかったこと
    5. 上記からすれば、本件雇用契約が長期間にわたって続くことまで予定されていたとはいえず、本件雇用契約に期間を定めることは自然であるといえること
    6. 雇用契約が更新されたのは2回、雇用継続期間は3年にとどまっており、反復して更新されたとも、契約期間が長期にわたっているともいえないこと
    7. 更新時に新たな雇用契約書こそ作成されていないものの、更新手続が形骸化していたとも認定できず、次年度も当然に更新されると期待できるような状況であったとまでは認められないこと
    8. を指摘して、契約の更新を期待するのが合理的とはいえないと結論づけました。

      どれが一番近いか?

      ここまで、期間の定めのない契約と同視できるのはどのような場合か、契約の更新を期待するのが合理的といえるのはどのような場合かについて、具体的な事例をもとに見てきました。

      様々な考慮要素があるため、判断が難しい面もありますが、ご自身の契約が、どの事例に近いかという観点から一度考えて見ることをお勧めします。

      どのような場合に客観的合理的理由や社会的相当性があるといえるか

      期間の定めのない契約と同視できるといえる場合、あるいは、契約の更新を期待するのが合理的といえる場合に該当するのであれば、最後に問題となるのが、更新を拒否する客観的合理的理由や社会的相当性があるかどうかです。

      雇止めの理由としては、大きくいって成績不良や勤務態度不良などの労働者側の事情が問題となる場合と、業績悪化による人員削減などの会社側の事情が問題となる場合に分けられます。

      このうち、労働者側の事情が問題となる場合について、具体例をもとに見ていきます。

      客観的合理的理由・社会的相当性が否定された裁判例①勤務態度

      まず、ドラッグストアで医薬品・化粧品等の販売業務に従事してきた準社員に対する雇止めの効力が問題となった事案(東京地裁平成28年1月27日判決)を見てみます。

      このケースでは、雇止めの理由として、当該労働者が、ある同僚を無視して注意を受けても改まらなかったり、アルバイト従業員に対してパワハラ的言動に及ぶなど勤務態度に問題があったという点が挙げられました。

      これに対して、裁判所は、当該労働者の言動が一因となって店舗の同僚との間であつれきが生じ,同僚から不平不満が述べられるなどの問題が生じていたことは認めながらも、

      1. 当初の注意が行われた後には注意・指導が行われていないこと
      2. その後の問題行動として指摘されている「人事権がないのにパート従業員を準社員に昇格させるよう要求した」という点については、意見を述べることまで制限される理由はなく、また、アルバイト従業員の勤務時間を勝手に変更したという点については裏付けがないこと

      を指摘した上で、いずれにせよ再度の注意・指導等を経ないまま勤務態度改善の見込みがないとして雇用継続を困難とするに足りる事情があるとはいえないとして、当該雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、また、社会通念上相当であると認められないと結論づけました。

      このように労働者の勤務態度が問題とされる場合には、改善の見込みがないと言えるのかという観点から、注意指導の過程がどのようなものであったのかが重要な要素になります。

      この点については、例えば、直接には期間途中での解雇が問題となったケースですが、あわせて期間終了時の雇止めの可否も問題となった事案(東京地裁平成28年4月15日判決)で、会社が「他の従業員から指導、注意を受けても業務を改善しなかった」ことを問題としたのに対して、裁判所が、

      解雇が労働者に与える不利益が大きいことに照らすと、会社としては、当該労働者から個別に事情を聴取して原因を検証し、その内容に応じて、適切な改善策を検討して経過をみたり、理由を詳細に記載した書面による警告や譴責、減給等の懲戒処分を実施して改善の機会を付与するなどの慎重な対応をとるべきであり、このような対応をとることなく意欲や態度が不良であり就業に適しないと即断することは適切なものとはいい難い。

      と指摘している点も参考になります。

      客観的合理的理由・社会的相当性が否定された裁判例②業務命令違反

      もう一つ、業務命令違反が問題とされた例として、バイク便による医薬品の配送納品業務を営む会社で勤務していた契約社員らに対する雇止めが問題となった事例(東京地裁平成28年7月20日判決)を見てみます。

      この事案では、会社が土曜日勤務を命じたのにこれに応じなかったことが雇止めの理由として挙げられました。

      これに対して、裁判所は、「業務命令として土曜日勤務を命じたにも関わらず、これを拒否した場合には、業務命令違反として客観的に合理的理由があり、社会通念上も相当であると認められる余地がある」としながらも

      1. 土曜日勤務の要請が、あくまでも従業員に対する任意の協力を求めるものにすぎないのか、会社の業務命令であり、これを拒否した場合、明らかな業務命令違反に問われるものであるのか判然としないこと
      2. そのため、原告らも土曜日勤務に応じないことが業務命令違反の状態にあるとの明確な認識を持っていなかったこと

      を指摘して、業務命令違反の事実自体を認めることができないとしました。

      そして、会社としては、雇止めという手段を採る前に、正式に業務命令を発令し、これに違反した場合は、注意・指導を行い、時には懲戒処分に処するなどの手続きを検討するべきであって、このような手続きを経なかった本件雇止めには,客観的合理的理由や社会的相当性は認められないと結論づけました。

      業務命令違反の意味や、仮に業務命令違反があった場合に会社がとるべき対応を考える上で参考になります。

      なお、業務命令がどの範囲で認められるかについてはこちらも参考にして下さい。
      業務命令を拒否することはできるか

      客観的合理的理由・社会的相当性が肯定された裁判例①

      今度は、客観的合理的理由や社会的相当性が肯定された裁判例を見てみます。

      まず、ガスメーターの嘱託検針員に対する雇止めの効力が争われた例(大阪地裁平成28年12月22日判決)です。

      裁判所は

      1. 労働者が、会社から貸与されたバイクを少なくない回数にわたって私的に利用し、その際、私的利用も含めて貸与された給油カードで給油することがあったこと
      2. ドライブレコーダーからSDカードを抜いて隠蔽を図り、長期間にわたって走行カードに事実と異なる記載をしていたこと
      3. 少なくとも1年以上の長期にわたって、勤務時間中に他の事業所で業務を行っていたこと

      を認定した上で、これらの行為は、会社との信頼関係を著しく損なうものであって、雇止めは客観的合理的理由や社会的相当性を有すると結論づけました。

      故意の非違行為についてはやはり厳しく評価されています。

      客観的合理的理由・社会的相当性が肯定された裁判例②

      もう一つ、客観的合理的理由や社会的相当性が肯定された裁判例として、大阪地裁平成27年11月30日判決を見てみます。

      これは、電気、空調、プラント、電力等の設備工事全般を営む株式会社の従業員として、インドネシアに設立された会社に勤務していた労働者に対して、「業務遂行が会社の求めるレベルに達していない」ことを理由に行われた雇止めの効力が問題となった事案です。

      裁判所は、問題となっている有期契約は、客観的合理的理由や社会的相当性が必要となる、労働契約法19条1号2号の契約には当たらないとしましたが、「仮に2号にあたるとしても」という形で、予備的に客観的合理的理由や社会的相当性の有無についても検討しています。

      裁判所は

      1. 海外の工事現場において施工管理するという業務内容に鑑みれば、現地のローカルスタッフと円滑な意思疎通を行うことが必要不可欠であったこと
      2. ところが、原告は、現地のローカルスタッフに工程遅れ等に関して怒鳴るなどし、その結果、現地のローカルスタッフと円滑な意思疎通ができない状態にあったこと
      3. 原告は、上司から注意を受けた際に、自らの行為を顧ることなく、激怒し、職場放棄して帰ってしまうという行動に及んでいるところ、職場放棄するということは到底許されない行為であること
      4. 工事の発注元担当者から、ほかの担当者の同席を求められたこと
      5. 議事録等の誤字脱字が多く、注意を受けても改まらなかったこと
      6. 酔余の上、取引先の担当者に間違い電話をかけ、そのことで上司が謝罪しなければならない事態に至ったこと
      7. を指摘して、「原告の勤務態度には種々の問題があったといわざるを得ない」とし、雇止めには客観的合理的理由や社会的相当性があったと結論づけました。

        先に紹介したドラッグストアでのケース(客観的合理的理由や社会的相当性が否定された例)と比較すると、同僚との軋轢が業務に差し障りがでるような深刻な事態にまで至っていたかという点の評価や注意指導に対する労働者の反応といった点で大きな差があり、こうした点が結論を分けるポイントの一つになっていると思われます。

        業績悪化による人員削減などの会社側の事情が問題となる場合

        一方、業績悪化による人員削減などの会社側の事情が問題となる場合については、整理解雇の場合に準じて

        1. 人員削減の必要性があるか
        2. 雇止めを回避する努力をしたか
        3. 手続の相当性があるか
        4. 人選に合理性があるか

        という4つの観点から判断されることになります。

        例えば、上で、契約の更新を期待するのが合理的といえるとされた例①としてとりあげた、航空会社において、約9年間にわたって乗務員として勤務してきた契約社員に対する期間途中の解雇及び雇止めが問題となった事案(大阪地裁平成29年3月6日判決)で、裁判所は、雇止めが人員の余剰を理由としてなされたもので労働者の責に帰すべき事由によるものではないから、

         本件雇止めについて、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であるといえるか否かを判断するに当たっては、期間の定めのない契約との差異等を十分に踏まえつつ、解雇における整理解雇の場合に準じて、①人員削減の必要性、②雇止め回避努力、③手続の相当性、④人選の合理性の各事情を総合的に考慮して判断するのが相当というべきである。

        としています。

        更新はしないと言われたら何をすべきか

        雇い止め理由証明書の交付を求める

        実際に納得のいかない雇止めをされたという場合には、まず、会社に対して雇止めの理由について明らかにするように求めましょう。

        雇い止めの問題は、形式的には期間の満了で契約が終了する一方で、これまで説明してきたようにこの形式を修正するルールが存在するという意味で、とてもややこしく、どうしてもトラブルに発展しやすい局面です。そのため、厚生労働省は雇い止めをめぐるトラブルの防止を図るために、使用者が守るべき「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」を策定しています。

        その中では、3回以上の更新がされているか、1年を超えて継続して雇用されている労働者については、契約期間の満了する30日前までに、雇い止めの予告をしなければならず、また、労働者の請求があれば雇い止め理由を明示した証明書を交付しなければならないとされています。

        この場合の雇い止め理由は、上で説明した雇止めが許されるための条件を満たしているかどうかを判断するためのものですので、単に「契約期間が満了したから」というような形式的な理由では許されず、実質的な理由(例えば、前回更新時に更新しないことを合意していたとか、適格性の欠如や担当業務の終了など)が記載されている必要があります。

        したがって、3回以上の更新がされているか、1年を超えて継続して雇用されているという場合で、雇い止めに納得がいかないという方は、まずは、この雇い止め理由証明書の交付を請求することが、最初にすべきことになります。(請求するのは、期間が満了する前でも、期間が満了した後でも構いません)

        また、3回以上の更新がされているか、1年を超えて継続して雇用されているという条件を満たしていない方でも、雇止めの理由を説明するように求めることに何ら問題はありませんので、雇止めに納得がいかないのであれば、積極的に理由の説明を求めてください。

        相談に行く

        少しでも納得がいかない気持ちがあるのであれば、速やかに弁護士のところに相談に行きましょう。

        ここまで説明してきたように、雇い止めが許される場合にあたるかどうかは様々な事情を考慮して判断されるため、簡単には判断ができません。そのため、雇止めが許される条件を満たしているのかという点について専門家の立場から判断してもらうのです。

        相談先としては、労働基準監督署や労働組合もあります。相談先については、こちらの記事も参考にしてください。▼不当解雇の相談先と相談する際に気をつけたいこと

        してはいけないこと

        なお、雇止めにあたって、会社から退職届の提出を求められる場合がありますが、雇止めに納得がいかないのであれば絶対にこれに応じないことが大切です。この点については、こちらの記事をご覧ください。
        雇止め時に退職届の提出を求められたら知っておきたいこと

        また、雇止めがされた場合には、素早く行動することも大切です。実は、雇止めの法理による保護が図られるためには、労働者が、期間満了前、または、期間満了後遅滞なく、更新の申し入れをすることも必要とされています。

        そのため、雇止めから長期間が経過してしまうと、保護が図られなくなってしまう場合があるのです。この点については、次の記事で解説していますので、ご覧ください。
        雇止めと更新の申し入れ

        雇止めにあった直後にとるべき行動については、以下の記事も参考にしてください。
        解雇通知書を渡されたらまず何をすべきか?

        雇止めでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
        労働相談@名古屋のご案内

        お知らせ~労働トラブルによる悩みをスッキリ解決したいあなたへ

        ・会社のやり方に納得がいかない

        ・でも、どう行動していいか分からない。

        そんな悩みを抱えてお一人で悩んでいませんか。

        身を守るための知識がなく適切な対応ができなかったことで、あとで後悔される方も、残念ながら少なくありません。

        こんなときの有効な対策の一つは、専門家である弁護士に相談することです。

        問題を法的な角度から整理することで、今どんな選択肢があるのか、何をすべきなのかが分かります。そして、安心して明日への一歩を踏み出せます。

        労働トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。