雇止めか自主退職か
一般の解雇の争いの際に、解雇なのか自ら辞めたのかが問題となる場合があるのと同じように(参考≫解雇と自己都合退職(自主退職)の境界~口頭で解雇されたら)、雇止めについても、会社が更新拒絶をしたのか、労働者が更新を辞退したのかが問題となる場合があります。
本来、契約期間の定めのある雇用契約は、期間が満了すれば、それで自動的に契約は終了することになるため、わざわざ期間満了時に退職届や退職願を出して合意により退職した形をとる必要はありません。
しかし、会社としては、労働者が自分で更新を辞退した形をとることによって、後に雇止めの効力を争われるのを防ぎたいと考えて、労働者に退職届の提出を求めたりするのです。
そして、労働者がこれに応じて退職届を提出してしまうと、あとで雇止めの効力を争うことが困難となる可能性があります。
例えば、ガスメーターの嘱託検針員に対する雇止めの効力が争われた例(大阪地裁平成28年12月22日判決)で、裁判所はこう述べています。
- (雇止めの法理を定めた)労働契約法19条は,有期契約雇用の雇止めにおいても、解雇権濫用法理が類推適用される場合があり得るとの判例法理を明文化したものである
- (したがって)労働契約法19条が適用されるためには、更新拒絶が解雇と同視し得るものであることが必要であり、更新時期に近接して労働者が有期契約期間の満了時に退職する旨の意思表示を行い、それによって有期雇用契約が更新されなかった場合は、労働契約法19条は適用されない
つまり、労働契約法19条は、一定の場合に会社からの更新拒絶を認めないものとして労働者の保護を図っていますが、労働者が自ら退職届を出して更新されなかった場合には、このような保護は図られなくなってしまうのです。
したがって、退職届を出すという行動にはこのような意味があることを十分に理解しておく必要があります。そして、不用意に退職届を出すことは絶対に避けなければいけません。
納得がいかない、でもどうすればいいか分からない・・・そんな時は、専門家に相談することで解決の光が見えてきます。労働トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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会社による更新拒絶後に退職届を提出した場合
もっとも、退職届を出してしまったら、必ず雇止めの効力を争えなくなるかというと、そうとも限りません。
例えば、会社から次期は更新しないと伝えられた上で、退職届けを出すように言われたために退職届を出したというような場合にまで、形式的に退職届が出されていることを理由に労働契約法19条による保護が図られないのは不合理です。
したがって、このような場合には、会社による雇止めがあったと考えて、労働契約法19条による保護が図られるべきです。
実は、上で紹介した大阪地裁判決の事案も、もともと当該労働者は契約期間満了の約2ヶ月前に契約更新の希望があるという旨を伝えていたところ、会社から契約更新をしないと告げられ、その後、会社の求めに応じて退職届を作成して提出したというケースでした。
そして、裁判所も、このような経緯に照らせば、
本件では会社の更新拒絶が先行し、退職届は、その後の形式を整える趣旨で提出されたにすぎないというべきであり、本件で更新手続きがされなかった本質的理由は、労働者が退職届を提出したためではなく、会社がそれに先立って更新をしない意思表示をしたためであって、会社による雇止めがあったと認めるのが相当である
という判断を示しています。
会社からの求めに応じてすでに退職届けを出してしまったという方には是非参考にして頂ければと思います。
ただ、繰り返しになりますが、このような争いにもなってしまいますので、少しでも納得がいかないという場合には、不用意に退職届を出さないことが何よりも大切です。
また、既に退職届けを出してしまったという場合は、速やかに撤回をしておくことも大切です。
▼退職届の撤回・取り消しはできるか
雇止めの法理による保護が図られるためには、労働者が、期間満了前、または、期間満了後遅滞なく、契約締結(更新)の申し入れをすることが必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
▼雇止めと更新の申し入れ
雇止めに対する法規制全般について知りたい方はこちらをご覧ください。
▼雇い止めはどのようなときに許されるか
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