解雇にあたって、解雇理由として「協調性の欠如」や「コミュニケーション能力の欠如」などが挙げられることがあります。
協調性やコミュニケーションの問題は、わかりやすい明確な判断基準がないだけに、解雇するに足る理由となるかどうかは、なかなか難しい判断になります。
実際に、コミュニケーション能力の不備を理由に行われた解雇の効力が争われた例(那覇地方裁判所・平成29年11月18日仮処分決定)を見てみたいと思います。
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事案の概要
この事案は、学校法人に日本語教師として二年間の期間を定めて採用された労働者が、試用期間経過後に本採用拒否(解雇)されたことから、その効力を巡って争われた仮処分事件です。
主な解雇理由として、学校法人から主張されたのが「コミュニケーション能力の不備」でした。
具体的には、「同僚とトラブルを起こしたり,出退勤時間の調整や離席,試験問題の取扱等についての関係者への連絡不足,会議での不適切な発言等により,コミュニケーション及び協調性に問題があった」と主張されました。
裁判所の判断
会議の場でのやりとり
裁判所は、まず、試用期間をいったん延長した際の会議において、当該労働者とチームリーダーや副学長との間で次のようなやりとりがあったと認定しました。
- チームリーダーは、学部ミーティングで、日本語ランチテーブル(生徒が教員と日本語で話しながら昼食をとる催し)について意見交換をしていたときに、当該労働者から「食べている時に話したくない。」などと話し合い自体をはねつけるような言動があり、このような失礼な言動で円滑なミーティングが妨げられたといった具体例を示しつつ、態度を改めるように指導した。
- 副学長からも、もっと積極的に上司からフィードバックを求めたり、上司と話したり、チームに色々意見を聴いたりして他のメンバーと関わる必要があること、チームワークを意識する必要があること等が指摘された
- これに対して、当該労働者は、失礼か否かは主観の問題であるのではないか、あくまでチームリーダーが失礼と感じたに過ぎないのではないか、礼儀正しさについても、人それぞれで感じ方が違うのではないか、権力のある人から、あなたは失礼だ、あなたの態度は受け入れられないなどと言われたら一方的に受け入れなければならないのかといった具合に反論し、自分には非がなく、糾弾されるのは不当だといわんばかりの対応に終始した。
- 日本語ランチテーブルのミーティングでの出来事についても、自分の意見を述べたこと自体が失礼に当たるというのは納得できないといったように、チームリーダーや副学長が発言の内容及び伝え方を問題としているにもかかわらず、これとずれた認識を示した
コミュニケーション能力不備に対する評価
その上で、裁判所は
- 上記の一連のやり取りだけでも、チームリーダー及び副学長が様々な角度から当該労働者のコミュニケーション上の問題点を伝えようとしているにもかかわらず、当該労働者は自身の問題点を省みる姿勢に乏しく、話し手の意図を正しく受け止められなかったり、言葉尻を捉えた反論に終始して論破しようとしたり、議論の前提を踏まえた会話ができなかったり、自身の意見に固執する姿勢が見て取れる。
- 本件会議の後、当該労働者はミーティングの場で最低限の発言すらしようとせず、素っ気ない態度に終始したことが窺える
- ミーティング以外でも、チームリーダーや非友好的な同僚とは積極的なコミュニケーションをせず、むしろ、自身が許容されると考える中で最低限度のコミュニケーションに終始したことが推認できる
- 当該労働者のコミュニケーション及び上司や同僚との関係構築に向けた姿勢には数々の問題点があり,必要なコミュニケーションがとれず、むしろ試用期間の延長によって悪化したことが認められる
- 上記の経過によれば、当該労働者が上司からの指導等によって上記の問題点を改善できる見込みは薄い
とした上で
として、学校法人が試用期間終了をもって解雇を選択したこともやむを得ず、本件解雇には合理性も相当性も認められると結論づけました。
併せて知っておきたい
解雇裁判例を探す
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そんなとき、今後の行動を考える上で、実際の裁判例で解雇の効力についてどのような判断されているのかを知ることは大変役立ちます。
近年の解雇裁判例を解雇理由等から検索出来るようにしました。ご自分のケースに近いものを探して、参考にして頂ければと思います。⇒⇒⇒解雇裁判例ガイドへ