契約社員の期間途中の解雇について「やむを得ない事由」があるとされた例

雇用期間の定めのない雇用契約において解雇が認められるためには、客観的合理的理由や社会的相当性があることが必要とされますが、雇用期間の定めのある契約社員について期間途中で解雇するためには、これよりもさらに厳格な「やむを得ない事由」が必要となります(労働契約法17条1項)。(詳しくは契約社員の期間途中の解雇は有効?|「やむを得ない事由」と裁判例で見る判断基準

では、どのような場合に「やむを得ない事由」があることになるのでしょうか。実際に裁判で争われた例(大阪地裁平成27年5月29日判決)を見てみたいと思います。

問題行動とやむを得ない事由

この事案は、大阪市交通局から市営地下鉄の駅運輸業務等の委託を受けている会社との間で期間の定めのある雇用契約を締結して駅業務に従事していた社員が、期間途中で解雇されたというケースです。

解雇理由としては、

  • ・上司である所長等に、一方的に暴言・罵声等を繰り返したこと
  • ・他目的使用が禁止されている駅倉庫を更衣室として使用する等していること
  • ・タイムカードを無断で持ち出したり、ロッカー室に許可なく掲示を行うなどしたこと
  • ・会社が上記問題行動の改善を求めたのに対して、これに応じなかったこと

などが挙げられました。

裁判所は、まず、

  1. 期間の定めのある雇用契約の期間中の解雇の有効性の判断にあたっては、雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要である
  2. (したがって)就業規則の解釈にあたっても、単に「業務上の指示命令に従わない」やこれに「準ずる事由があり,短期社員として不適当と認められたとき」に該当するかだけではなく、雇用期間の中途で解雇しなければならないほどの解雇事由が認められるかを実質的に判断しなければならない

としました。

そして、事実関係について会社の主張を概ね認めた上で、

  1. 原告が、上司らに対して激しい暴言・罵声を繰り返し、指示命令違反や駅倉庫の不当な占拠、タイムカードの無断持ち出しなどの問題行動を行い、再三の注意・指導にもかかわらず、その状況は改善されず,かえって激しさを増す傾向にあったこと
  2. 原告の暴言・罵声は委託元である交通局職員にも及び、実際に交通局へ苦情が寄せられるなどの実害を生じていること
  3. 駅倉庫の占拠は交通局との委託関係にも悪影響を及ぼしかねない甚だ悪質な行為であること
  4. 上記問題行動により、職場秩序は乱され、円滑・平穏な業務遂行に支障を来すなど深刻な事態を招いていること
  5. 原告が、再三の注意・指導にもかかわらず態度を改めず、問題行動の改善を求める確認文書についても不合理な理由で署名を拒否していること

を指摘して、今後、原告の問題行動が一層激化し、職場の秩序維持や業務遂行にさらなる悪影響を及ぼす具体的で差し迫った危険があり、このような状況でなされた本件解雇には、雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由があったと判断しました。

職場内の混乱が現に存在し、それが増大していく現実的な危険性があった点や、解雇に至る過程で相当明確な形で注意・指導が繰り返されたことがポイントになっています。

期間途中での解雇が許される「やむを得ない事由」の意味を考える上で参考にして頂ければと思います。

なお、他にも解雇の有効性が争われた具体的な事例を知りたいという方のために、近年の解雇裁判例を、解雇の種類や理由、判決結果などから検索できるようにしています(⇒裁判例から学ぶ解雇基準)。ご自身の状況に近い事例を探して、今後の対応や判断の参考にして頂ければと思います。

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