蒸し返しのような懲戒処分
懲戒が労働者の会社に対する各種主張に対するいわば報復措置のように使われる場合があります。
このようなケースでは、懲戒の理由とされている事実が長期間にわたって問題とされてこなかったのに、突如「蒸し返し」のような形で懲戒事由として採り上げられる例も少なくありません。
このような「過去の蒸し返し」のような懲戒処分が許されるのでしょうか。
この点が争われた東京地裁平成24年3月27日判決を見てみたいと思います。
2年間も懲戒処分をしなかったのに・・・
この件は、経理事務代行業等を行う会社で勤める原告に対してなされた懲戒解雇の効力等が問題となった事件ですが、実は、懲戒解雇に先立って、原告が会社に対して未払い残業代の請求を行ったという経緯がありました。(判決でも触れられていますが、未払い残業代請求を行ったのに対して会社が対抗措置として懲戒解雇を持ち出したという流れであったようです)
懲戒解雇事由は複数挙げられているのですが、そのうちの一つに2年以上前に問題となったセクハラ行為がありました。
この点について裁判所は
①会社が、原告に対してセクハラに関する弁明書を提出させた後、何らの事実調査もせずに約2年間も懲戒処分を行うことがなかったこと
②むしろ会社はセクハラを理由に表だって原告の懲戒処分を行うことを回避していたとさえ伺われること
を指摘した上で、仮にセクハラの事実があるとしても、
「処分が遅延する格別の理由もないにもかかわらず約2年も経過した後に懲戒解雇という極めて重い処分を行うことは,明らかに時機を失している」
として、これを本件懲戒解雇の理由とするのは相当でないとの判断を示しました。
企業秩序の維持という懲戒の目的及び制裁という性質に照らすと、長期間経過後の懲戒には一定の制約を受ける場合があることが理解される必要があります。
似たような例として、上司に対する暴行事件を起こしてから7年後になされた諭旨退職処分の効力が争われた例があります。
⇒長期間経過後になされた諭旨退職処分に効力は認められるか
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