就業規則による労働条件の変更の効力~役職定年制の導入

4d4bfa1da0dfcd81108b8206f5b79428_m

就業規則とその変更

就業規則は、労働条件を統一的に定める職場のルールですので、その変更によって働く人は大きな影響を受けます。

「就業規則の変更によって労働条件が切り下げられそう」「切り下げられてしまった!」という場合に知っておきたい知識についてご説明したいと思います。

就業規則の変更と労働契約法

まず、就業規則の変更については労働契約法に大切なルールが定められています。

労働契約法9条本文

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

つまり、使用者(会社)といえども、就業規則を一方的に変更することによって労働条件を切り下げるということはできないのが「原則」なのです。

ただし、この原則には例外があります。

労働契約法10条

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

法律の条文を見ると、ごちゃっとして分かりづらいかもしれませんが、要するに

①変更後の就業規則を労働者に周知させていること
②就業規則の変更が「合理的なもの」であること

という条件を満たす時には、例外的に、たとえ労働者の合意がなくても、就業規則によって労働条件の切り下げを行うことが認められているのです。

したがって、「合意もしていないのに、就業規則の変更によって労働条件の切り下げがされそう」「切り下げられてしまった!」という場合には、上の二つの要件に照らして、それが許されるかどうかを判断することになります。

就業規則の変更による役職定年制の導入

例えば最近の裁判例(平成26年1月24日熊本地裁判決)で見てみます。

このケースは、役職定年制を導入する就業規則の変更が有効かどうかが争われました。

新たに導入された「役職定年制」は、役職ごとに定められた年齢に達すると以後は「専門職」として役職手当に代わる専門職等手当が支給されるようになり、その結果、55歳到達時以降、毎年10%の割合で給与を削減され、60歳で定年を迎える時には削減率が50%になるというものでした。

このような労働者に不利益を与える制度の導入を一方的に就業規則の変更で行うことが可能かどうかが問題となったのです。

不利益の程度が非常に大きい場合

裁判所は労働者の不利益の程度について、この制度の導入は

「役職定年到達後の労働者らの生活設計を根本的に揺るがしうる不利益性の程度が非常に大きなもの」

と評価した上で、このような不利益の大きさを考えると、就業規則の変更について合理性があると認められるためには、

「相当高度な経営上の必要性があり、かつ原告らが被る不利益を相当程度緩和させるに足りる代償措置が採られていることが必要」

としました。

その上で、裁判所は、職員の賃金を削減する必要性が一定程度あったことは認められるものの

①近い将来における破綻や合併等の危機が具体的に迫っているような状況であったとはいえないこと
②本制度は55歳以上の職員にのみ著しい不利益を与えるものであって、変更の相当性はあるとしても低く、不利益を緩和しうるだけの代替措置その他労働条件の改善がされたと認めることもできないこと

を指摘して就業規則の変更について「合理性なし」、したがって同意のない一方的な変更は無効と結論づけました。

労働者の受ける不利益の程度が非常に大きい場合は、就業規則の変更に合理性が認められるためには、経営上の必要性や代償措置について厳しく評価されることを示した判断といえます。

労働問題でお困りの方へ→労働法律相談@名古屋のご案内



併せて知っておきたい

労働者に知らされていない就業規則に効力は認められるか?

有給休暇を消費してから退職するために知っておきたいこと

退職勧奨が違法となるとき~退職届けを出す前に知っておきたいこと

退職後も競業避止義務を負うのか?~誓約書への署名を求められた時に知っておきたいこと~

解雇と自主退職の境界~「辞める」と口にする前に知っておきたいこと

会社を退職するとき、解雇されたときに知っておきたいこと(主な記事一覧)

法律相談のご案内

関連記事

履歴書の賞罰欄に罰金刑や起訴猶予歴を書く必要はあるか

賞罰の意味 履歴書に「賞罰欄」がもうけられている場合がありますが、いったい何が「賞」や「罰」に

記事を読む

アルバイト(パート)でも有給休暇は取得できる?

アルバイトだから有給休暇はない!? パートやアルバイトとして働いている方について、法律の規制が

記事を読む

身元保証人の責任とは

身元保証人の責任 雇用契約を締結する際に、会社からの求めで「身元保証人」を立てる場合があります

記事を読む

交通事故を起こして会社の車を壊してしまった場合の修理費用は全額負担すべきなのか?

会社からの損害賠償請求 会社と従業員との間でトラブルが生じたときに、会社が従業員の行為によって

記事を読む

労働者に知らされていない就業規則に効力は認められるか?

就業規則の周知義務 会社が労働者を懲戒するためには、あらかじめ就業規則で懲戒の種別及び事由が定

記事を読む

パート労働者と労働条件の明示義務・待遇の説明義務

パートタイム労働者も「労働者」 働く人の中には、パートやアルバイトなど名称は様々ですが短時間労

記事を読む

労働条件の明示義務と採用時の説明

話が違う・・・ 職場でのトラブルを抱えて相談に来られる方の中には、「実は、そもそも働き始めた時

記事を読む

会社を退職するとき、解雇されたときに知っておきたいこと(主な記事一覧)

目次 1 退職 2 退職金 3 競業避止義務 4 解雇(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇) 5

記事を読む

期間の定めのある契約と雇止め~更新拒否ができる場合、できない場合~

雇いどめに対する規制 あらかじめ雇用期間が決まっている「期間の定めのある契約」の場合、本来であれば

記事を読む

違法な業務命令と損害賠償~それは単なる嫌がらせです~

職場におけるいじめ・嫌がらせ 学校におけるいじめ自殺の問題がマスコミを騒がせていますが、職場に

記事を読む

法律相談のご案内

法律相談のご案内

  • NDP13-162-cd
    名古屋で働く弁護士です。労働トラブルに悩む人を支え、ともに歩く専門家でありたいと思います。
    詳しくはこちら
PAGE TOP ↑