派遣社員の解雇は許される?|派遣元・派遣先の関係と「やむを得ない事由」を裁判例で解説

派遣社員として働く方は、「派遣元」の会社との間で雇用契約を結ぶ一方で、「派遣先」の会社からの指揮命令に従って働くという複雑な立場に置かれています。

また、派遣社員が派遣先で就労する前提として、派遣元の会社と派遣先の会社との間には、労働者派遣契約が存在しています。

そのため、派遣社員に対する解雇の問題は、通常の労働者に対する解雇の場合と比べるとやや混乱しがちで、また、「労働者派遣契約が解約された場合に、当然に派遣社員の解雇が許されるのか」といった派遣社員特有の問題もあります。

ここでは、そんな派遣社員に対する解雇の問題について見ていきたいと思います。

解雇が問題となるのはあくまでも「派遣元」との関係

まず、派遣社員と雇用関係について整理しておきましょう。

派遣社員が雇用契約を締結しているのはあくまでも「派遣元」の会社との間です。

「派遣先」の会社との間では、指揮命令は受けますが、雇用契約はありません。

したがって、解雇が問題となるのは、あくまでも「派遣元」との関係です。

言い換えれば、派遣社員を解雇する権限があるのは派遣元ですし、派遣社員が解雇の無効を主張する場合には、派遣元に対して、労働者としての地位がまだ存在していることを主張していくことになります。

派遣社員に対する解雇と解雇予告手当

解雇を行うためには、原則として少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払うことが必要ですが、派遣社員についても当然、この規定は適用されます。

したがって、派遣社員について、契約を途中で打ち切って解雇するという場合も、解雇予告もしくは予告手当の支払いが必要となります。

解雇予告手当について詳しくは、次の記事で解説しています。
解雇予告・解雇予告手当とは?|必要な場面・例外・計算方法・請求手順を弁護士が解説

派遣社員に対する解雇と解雇理由

解雇には、客観的合理的理由と社会的相当性が必要ですが、派遣社員が派遣元から解雇される場合についても、当然のことながら、同じように客観的合理的理由と社会的相当性が必要となります。

客観的合理的理由や社会的相当性の意味については、次の記事で解説しています。
解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~

また、1年契約などの「期間の定めのある雇用契約」について、期間の途中であるにもかかわらず契約を終了させようとするには「やむを得ない事由」が必要となり、さらに厳格に判断されることになりますが、この点も派遣社員でも同様に当てはまります。

すなわち、契約期間が定められた派遣社員について、期間途中の解雇が許されるためには「やむを得ない事由」が必要になります。

派遣契約の中途解約は「やむを得ない事由」にあたるか

派遣社員が派遣先で就労する前提として、派遣元の会社と派遣先の会社との間には、労働者派遣契約が存在しています。

ところが、この労働者派遣契約が、様々な理由(例えば、派遣先企業の業績悪化等)により、中途解約されてしまう場合があります。

このように労働者派遣契約が中途解約されてしまったという事情は、派遣労働者を派遣期間途中で解雇する「やむを得ない事由」になるのでしょうか。

この点について、例えばある裁判例(平成21年7月23日福井地裁決定)は、派遣先企業の経営状態が悪化したことによって労働者派遣契約が中途解約されたことは、ただちに、派遣元企業が派遣労働者を解雇する「やむを得ない事由」に該当するとは言えない、と判断しています。

つまり、派遣先企業と派遣元企業との間で労働者派遣契約が解約されたからといって、派遣元企業は当然に派遣労働者を解雇することはできないとしたのです。

この決定は、こうも述べています。

  1. 派遣元会社は、派遣先企業の存在があってはじめて派遣労働者に労働の場を提供できることを理解した上で、あえて期間を定める形で労働契約を締結したのである
  2. したがって、派遣会社としては、その契約期間内については派遣先を確保するのが務めである

また、別の裁判例(平成21年11月20日広島地裁判決)でも、遣元会社と派遣先企業との間の労働者派遣契約が中途解約されたことだけでは「やむを得ない事由」と評価すべきではないと判断されています。

派遣契約の解消が当然に「やむを得ない事由」に当たるとして期間満了前の派遣労働契約解消が認められることになると派遣労働者の立場は非常に不安定となってしまいますが、裁判所はこれを許さないとしているのです。

期間満了時の雇止めの効力がどう判断されるのかについては、こちらで解説していますので、ご覧ください。
雇止めの正当な理由とは?認められるケース/認められないケースを裁判例で解説

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