自宅待機命令~違法となる場合と給料の支払い義務について




自宅待機が違法となる場合

懲戒解雇処分等が行われる前に処分が決まるまでの間、「自宅待機」を命ぜられる場合があります。

このような自宅待機がどのような場合に許されるのかについて、具体例(平成5年9月24日千葉地裁判決)を見てみたいと思います。

7カ月間続けられた自宅待機

この事件は、航空会社で整備士として働く従業員が、勤務中に旅客機内でシャンパンを飲んだことなどを理由に解雇されたのに対して、解雇の効力を争って起こした訴訟です。

解雇理由の一つとして、従業員が自宅待機命令に従わずに就労したことが挙げられたことから、自宅待機命令の適法性が問題となりました。

自宅待機命令は約7カ月間続けられ、従業員は約7カ月目に3日間就労を強行していました。

自宅待機を命じる正当な理由

このケースで、裁判所は

「使用者が従業員に対し労務提供の待機を命じることは、当該従業員の労務の性質上就労することに特段の利益がある場合を除き、雇用契約の一般的指揮監督権に基づく業務命令として許される」

としたうえで

「業務命令としての自宅待機も正当な理由がない場合には裁量権の逸脱として違法となる」

としました。

そして、裁判所は、この事案について、当初自宅待機命令を発したこと自体は適法であるとしても、自宅待機命令を約7ヵ月間継続した点は正当な理由がなく違法であると判断しました。

その理由としては、約1カ月後には事情聴取がなされ、約3カ月後までには、従業員の弁解の内容等も明確になっていたことからすると、会社が自宅待機命令を長期間継続した主たる目的は任意の退職を求める点にあったといえ、その間には必要な事実調査が尽くされなかったことが指摘されています。

自宅待機というのは、トラブルに絡んでよく使われる措置ではありますが、当然のことながら無制約に命じるわけではなく、自宅待機を命じるだけの正当な理由が必要なのです。

証拠隠滅防止のための自宅待機?

もう一つ、自宅待機命令自体が違法と判断された事例(福岡地裁平成3年2月13日)を見てみたいと思います。

この事案で問題となったのは、クレジット債権管理組合に勤める従業員2名に対して出された自宅待機命令です。

この組合では、役員による横領行為が発覚した後、この役員が所長を務めていた営業所で働く従業員2名に対して横領行為への関与の疑いが掛けられ、証拠隠滅工作防止を目的として自宅待機が命じられたのです。

業務命令権の濫用

この点について、裁判所は、「原告らが役員による横領行為に関与していたり、これを疑わせるような事実を認めるに足りる証拠はない」とした上で、以下のような点を指摘しました。

①本件自宅待機命令は、さしたる根拠もないのに憶測に基づき、原告らが横領行為に関与していると疑い、証拠湮滅工作を防止する目的で発したものである
②原告らのみに限定して本件自宅待機命令を発する合理的な理由は見い出し難い
③役員による横領行為は計画的なもので、他の職員がこれに気付かなかったことも無理からぬ面がある。

その上で、裁判所は、本件自宅待機命令は「業務命令権を濫用して発した違法なものあるというべき」と結論づけています。

一般に自宅待機が業務命令として許されうるとしても、何らの正当な理由もない場合には裁量権の逸脱として違法となることが改めて確認される必要があります。

自宅待機中の給料支払い義務

では、自宅待機が許される場合、その間の給与はどうなるのかのでしょうか。

この点について述べた裁判例として名古屋地裁平成3年7月22日判決があります。

謹慎期間を欠勤扱いとする?

この事案は、製鐡所の構内輸送の業務に従事してきた労働者が作業指示等を巡って同僚との間で口論となり暴行を働いたとして懲戒処分がなされるにあたり、処分がされるまで間、8日間の自宅謹慎が命じられ、その間の賃金が支払われなかったというケースです。

背景として、この会社では懲戒問題が生じて自宅謹慎が命じられた場合には、後に懲戒処分が決定した際に、謹慎期間を欠勤扱いとする慣行があり、会社の組合もそのことを了承していたという事情がありました。

当然に賃金支払い義務がなくなるわけではない

しかし、裁判所は、このような場合の自宅謹慎は、それ自体懲戒処分としての性質を持つのではなく、「当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべき」ものであるから、会社は当然に賃金支払い義務を免れるわけではない、と述べました。

そして、会社が賃金の支払いを免れるためには

①当該労働者を就労させないことについて、不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか

又は

②これを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要する

として、本件ではそのような事情は存在しないから、会社は給料の支払い義務を負うと結論づけています。

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