就職する際に、会社から身元保証人を立てることを求められる場合があります。
通常は親族に引き受けてもらう場合が多いと思いますが、身元保証を引き受けてもらうにあたって、身元保証人にはいったいどんな責任が発生するのか不安を感じることもあるかと思います。
また、勤務を開始した後に、会社との間でトラブルになったような場合には、身元保証人に責任追求がされることが心配で、身動きがとれないということもあります。
ここでは、そもそも身元保証人とは何か、身元保証人が実際にどのような責任を負うのかについて解説していきます。
納得がいかない、でもどうすればいいか分からない・・・そんな時は、専門家に相談することで解決の光が見えてきます。労働トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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身元保証人とは
身元保証人とは、労働者の行為によって会社が損害を被った場合に、その労働者とともに会社に対して賠償義務を負う立場の人のことをいいます。
身元引受人とか、単に保証人という名称で呼ばれることもあります。
例えば、典型的には、労働者が会社のお金を使い込んだような場合に、身元保証人が、会社に対する賠償義務を、本人とともに負うということになります。
労働者の責任の範囲
このように身元保証人は、あくまでも労働者が会社に対して損害賠償義務を負う場合に、その労働者とともに責任を負う立場の人です。
したがって、身元保証人としての責任が発生するためには、その前提として、労働者が会社に対して損害賠償義務を負う場合であることが必要です。
中には、何でもかんでも労働者に対して損害賠償請求をちらつかせる会社もありますが、例えば、業務の中で通常起こりうるような些細なミスで会社に損害を与えたとしても、会社は従業員に対して損害賠償請求することはできないというべきです。
また、労働者が、些細とはいえないような過失や、わざと行った行為(故意行為)によって会社に損害を与えたという場合でも、会社は、当然にその全額を労働者に対して賠償請求出来るというわけではありません。
会社が、労働者に対して請求出来るのは、その労働者の過失の程度や、会社の関与、過失を防止するための会社の対策として何がとられていたか等、様々な事情を考慮して「相当な限度」に限られるのです。
このように、身元保証人の責任を考えるにあたっては、まず労働者の責任の範囲が一定の範囲に限定されていることをきちんと押さえることが必要です。
身元保証人の責任の範囲
次に、労働者が会社に対して損害賠償義務を負う場合であっても、その全てについて、労働者と同じように身元保証人が責任を負うというわけでもありません。
身元保証人の責任の範囲については、「身元保証二関スル法律」という昭和8年に作られた古い法律によって、一定の範囲に限定されています。
この法律によると、身元保証人の損害賠償義務の有無、金額を決めるにあたっては、
- 従業員の監督についての使用者の過失の有無
- 身元保証人が身元保証をするに至った事情
- 身元保証をするにあたっての注意の程度
- 従業員の任務
- 身上の変化
- その他の一切の事情
を斟酌するとされています。
つまり、身元保証人といっても、その立場や本人との関係性は様々ですし、労働者が会社に対して損害を与えないように監督をすることは困難で、むしろ、これを防ぐための監督を行う立場にあるのは使用者であること等から、身元保証人が責任を負う範囲は、上に挙げたような事情を考慮した上で一定程度に限定されるのです。
例えば、使用者が労働者に対して、部下による仕入代金の水増し請求について監督を怠ったことを理由に損害賠償を求めるとともに、身元保証人に対しても賠償を求めた事案(平成18年6月6日旭川地裁判決)で、裁判所は
- 使用者に過失が認められること
- 身元保証人が身元保証をするに至った経緯
- 当該労働者が負う賠償義務は、大部分が故意によるものではなく過失によるものであること
を指摘した上で、身元保証人は、労働者が負うべき損害賠償債務のうち1割の責任を負うべきと判断しています。
また、証券会社が、業務命令に反して株を買い付け会社に損害を与えたとして、歩合外務員とその身元保証人に対して損害賠償を求めた事案(平成4年3月23日東京地裁判決)で、裁判所は
- 会社が歩合外務員にどのような身元保証人がついているかを的確に把握していたものではないこと
- 会社が、身元保証をそれほど重視していた形跡は見られず、身元保証人に対しても身元保証の重要性と責任の重大性について十分な説明をしていなかったこと
- 損害の発生について会社にも過失があること
などを指摘した上で、身元保証人は、労働者が負うべき損害賠償債務の4割についてのみ責任を負うと判断しています。
身元保証人が責任をおうべき期間
身元保証契約の期間は5年よりも長い期間にすることはできません。仮に5年を超える取り決めをしたとしても無効で、期間は5年に短縮されます。
また、期間を定めていない場合は契約期間は3年間になります。
契約期間が過ぎれば、あらたに契約の更新をしない限り、その後に行われた行為について身元保証人が責任を負うことはありません。
更新をする際の契約期間も最大5年です。
身元保証人の解除権
たとえ契約期間内でも、何があっても身元保証をし続けなければならないというわけではないという点も大変重要です。
つまり、
- 労働者が不適任であるなどして、身元保証人の賠償責任が発生するおそれがあるとき
- 労働者の任務や任地が代わったために身元保証人の責任が重くなったり、監督が困難になった時
には、身元保証人は、将来に向けて契約の解除をすることができるとされています(身元保証に関する法律第4条)。
「将来に向けて」というのは、解除を行うまでに行われた行為については責任を負うが、解除以降の行為については責任を負う必要はないという意味です。
もっとも、上に挙げたような場合に解除が出来るといっても、身元保証人がこうした事情を知ることは通常困難です。
そこで、使用者は、こうした事情があった場合には、遅滞なく身元保証人に通知することが義務づけられています(身元保証に関する法律第3条)。
「身元保証をした」という事実があると、ついつい何でもかんでも責任を負わなくてはならないような気持ちになりますが、そうではないということを是非知っていただきたいと思います。
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