刑事事件を受任していると、罪を犯して身柄拘束されたこと、あるいは有罪となったことを理由にあっさりと会社から懲戒解雇がされる場面に出会います。
一般の解雇とは別に懲戒としてなされる解雇(懲戒解雇)については、退職金が不支給とされることも多く、働いている人に与える打撃が大きいといえます。
したがって、その有効性については、一般の解雇の場合以上に厳しく判断されます(解雇の種類|懲戒解雇・普通解雇・整理解雇の違いと有効性の判断基準)。
懲戒権の濫用
懲戒処分について、労働契約法15条は
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする」
と定めています。
つまり、懲戒には客観的合理的理由、社会的相当性が求められることを明らかにしているのです。
そもそも会社が働いている人に対して懲戒を行うことができるのは、企業を運営していく上で一定の企業秩序を定める必要性があるからです。
とすると、私生活上で行われた行為については、原則として企業秩序の問題とは無関係なものとして懲戒処分の対象とならず、ただ、例外的に、企業秩序に影響を及ぼす場合(会社の評判を著しく傷つけるなど)に限って、懲戒の対象となりうることになります。
その場合も、企業秩序に影響を及ぼすかどうかについては、その具体的可能性や程度について慎重に判断をしなければなりません。(その他、懲戒が有効となるための条件について詳しくは、懲戒解雇されそうなときに知っておきたい法律知識と今すぐできる対処法をご覧下さい)
私生活上の行為と企業秩序への影響
私生活で犯罪を犯したという場合も、当然に企業秩序に影響を及ぼすといえるものではありません。
したがって、その犯罪行為の性格、当該労働者の地位、会社の規模等を踏まえて、会社の社会的評価に相当重大な悪影響を及ぼすのかどうかという観点から慎重に判断をする必要があります。
例えば、ある事例では、住居侵入罪で2500円の罰金刑に処せられた大規模会社の工員に対してなされた懲戒解雇について、職務上の地位や、刑罰の程度を考慮して、懲戒解雇は無効と判断されています(最高裁判決昭和45.7.28)。
他にも、普通解雇の事案ですが、交通反則金の不納付による逮捕などを理由とする解雇が無効と判断されたケースもあります。
⇒代表者に対する暴行行為や交通反則金の不納付による逮捕等を理由とする普通解雇が無効と判断された事例
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