「突然、解雇を言い渡された」「解雇されてしまうかもれない」
突然のことに頭が真っ白になってしまうこともあると思います。
そんなときに大切なのは正確な情報を手に入れ、落ち着いて行動することです。
解雇が本当に正当なのか、手続が適切なのか、そして自分にはどんな権利があるのか。
これらを理解して初めて、次にどの方向へ進むべきかが見えてきます。
本ガイドでは、
・解雇の種類とそれぞれの法的意味
・どのような場合に解雇が許されるのか
・退職金や解雇予告手当の扱い
・不当解雇への具体的な対処法
を体系的に整理しました。
「何をどうしていいかわからない」状態から、「次に何をすべきかが分かる」状態へ。
正確な知識を身につけ、一歩を踏み出す勇気をもって臨めば、きっと壁は乗り越えられます。
各テーマは詳細記事にリンクしていますので、関心のあるところから読み進めてください。
解雇とは何かを知る
解雇とは
労働者と使用者との間には、法律的にいえば、「雇用契約」という契約関係が存在しています。
この雇用契約を、会社の側から一方的に終了させることを『解雇』といいます。
解雇の種類
解雇は、大きくいって懲戒解雇と普通解雇とに分けられます。
懲戒解雇は「罰」として行われる解雇です。
普通解雇は、「罰」としての意味はありませんが、さまざまな理由により雇用契約を終了させるものです。
普通解雇の中には、経営悪化などのもっぱら会社側の事情によって行われる解雇があり、これを特に整理解雇と呼びます。整理解雇は、会社の都合で行われるものですから、解雇が許されるためには厳しい条件を満たす必要があります。
このように、一口に解雇といってもその性質はさまざまであり、その種類に応じて効力の判断基準も異なります。
解雇の種類については、解雇の種類とは?|懲戒解雇・普通解雇・整理解雇の違いと有効性の判断基準で詳しく解説しています。
退職勧奨や自主退職との違い
ここで注意したいのが退職勧奨や自主退職との区別です。
退職勧奨とは、会社が労働者に対して自ら退職するように働きかける行為のことです。
そして、労働者が自ら退職することを選択すれば、解雇ではなく「自主退職」ということになります。
退職勧奨について、押さえておかなければならないのは、労働者の側にこれに応じる義務はないということです。したがって、退職するつもりがないのであれば、そのことを会社にはっきりと伝える必要があります。
また、退職勧奨を解雇だと即断して不用意な行動をとらないことも大切です。
退職勧奨の意味や対処方法については、退職勧奨を断っても大丈夫?違法になるケースと正しい対処法で詳しく解説しています。
諭旨退職処分
諭旨退職処分とは、労働者に対して退職願を提出するように勧告して、即時退職を求める処分です。これに応じないと通常懲戒解雇が行われます。
形式的には自主退職のような形をとっていますが、実際上の意味としては自主退職ではなく懲戒処分になります。
このような諭旨退職処分がどのような場合に許されるのかについては諭旨退職とは?懲戒解雇との違い・退職勧奨との区別と対処法で解説しています。
雇い止めとの関係
雇用契約の中には、期間の定めがないものと、期間の定めがあるものがあります。
期間の定めがある雇用契約について、期間満了時に契約を更新せず終了させることを「雇い止め」といいます。
雇い止めは、解雇とは異なりますが、解雇と同じように、これが認められるためには合理的な理由や社会的相当性が求められる場合があるなど法的な制約があります。
雇用期間の意味や雇い止めの意味については、「雇用期間の定めありとは?契約社員・パートの更新・雇い止めをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
内定取消との関係
実は、働き始める前に行われる内定取消も解雇の一種といえます。
内定取消の意味やどのような場合に許されるのかについては、内定取り消しとその理由~内定取り消しは許されるかで解説しています。
解雇がどのような場合に許されるかを知る
解雇が有効とされるための基本原則
会社が労働者を解雇するには、法律で定められた厳格な条件を満たす必要があります。
単に「会社の都合だから」「上司が決めたから」という理由では、解雇は認められません。
労働契約法第16条では、次のように定められています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効とする。
つまり、
・客観的に合理的な理由があること
・社会通念上相当であること
の2つを満たして初めて、解雇は有効となります。
この考え方を「解雇権濫用法理」といいます。
そしてこの原則は、正社員だけでなく、契約社員やパートタイマーなどすべての労働者に適用されます。
客観的合理的な理由や社会的相当性とは何か
客観的合理的な理由とは、会社が解雇を行うに足りる客観的な事情が存在することを意味します。
解雇事由の程度や反復継続性、改善や是正の余地、過去の義務違反の行為の態様や、労働者自身の対応などを総合的に考慮して判断されます。
また、社会的相当性は、客観的に合理的な理由がある場合でも、諸般の事情に照らして解雇が過酷ではないかという見地から判断されます。
詳しくは、許される解雇理由とは?無効となるケースと判断基準を徹底解説で詳しく解説しています。
整理解雇の場合
業績悪化などの会社側の事情で行われる整理解雇の場合には、会社の都合で行われることから、許されるためには特に厳しい制約があります。
具体的には、
・人員整理の必要性があること
・解雇を回避するための努力を尽くしていること
・誰をその対象とするのかが、客観的合理的な基準によって選定されていること
・労働者に対して事前に説明をし、納得を得るように誠実な協議を行うこと
が必要となります。
これらが実際の裁判でどのように判断されるのかについては、パート従業員に対する整理解雇が無効とされた裁判例|解雇が認められない理由で解説しています。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇の場合、「罰」として行われることから、許されるためには、やはりより厳しい条件があります。
労働契約法第15条は、会社が労働者に対して行う懲戒処分全般について、次のように定めています。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする
つまり、懲戒が有効になされるためには、まず、就業規則に明確な定めがあり、労働者にも周知されているなど「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でなければなりません。
その上で、客観的合理的理由を欠いたり、社会通念上相当でない懲戒は無効とされます。
懲戒解雇は『罰』として行われるため、弁明の機会の付与や二重処罰の禁止など、手続面でも厳しい制約が設けられています。
懲戒解雇がどのような場合に許されるのかについて詳しくは、懲戒解雇されそうなときに知っておきたい法律知識と今すぐできる対処法で解説しています。
解雇にまつわるお金(解雇予告手当、退職金、失業保険)について知る
不当な解雇に対してどうすべきかを考える上では、解雇にまつわるお金の問題について正確に知っておくことが不可欠です。
解雇予告手当
労働基準法は、労働者が十分な準備がないまま職を失うことのないように、解雇の手続きに関して一定の定めをおいています。
具体的には、使用者が労働者を解雇する場合には、原則として、少なくとも30日前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定められています(労働基準法20条1項)。
ここで行われる予告が「解雇予告」です。そして、30日前の解雇予告がされない場合に支払われるのが「解雇予告手当」です。
解雇予告手当を払いさえすれば,解雇が許されるというわけではありませんので、注意が必要です。
また、解雇が無効であることを主張するのであれば、解雇予告手当を請求すべきではありません。
解雇予告手当について詳しくは、解雇予告・解雇予告手当とは?|必要な場面・例外・計算方法・請求手順で解説しています。
退職金
解雇に伴って退職金が減額されたり支給されないことがあります。
長期にわたって働いていた職場で解雇が行われる場合には、これは深刻なダメージになります。
退職金の不支給や減額が許されるためには、就業規則等で不払いや減額について規定されていることが必要です。
また、退職金には賃金の後払いとしての意味もありますので、実際に不支給あるいは減額するためには、労働者に永年の勤労の功労を抹消あるいは減殺してしまうほどの不信行為があることが必要です。
退職金が不支給や減額がどのような場合に許されるのかについては、解雇・懲戒解雇時の退職金の不支給・減額は有効?|裁判例で見る判断基準で解説しています。
また、退職金について、会社から損害賠償による相殺を主張されることもあります。
労働者に対する損害賠償が認められるためには、労働者に過失がなければいけません。
また、会社が労働者に対して請求出来るのは、過失の程度や、会社の関与、過失を防止するための会社の対策として何がとられていたか等、さまざまな事情を考慮して「相当な限度」に限られます。
こうした会社の労働者に対する損害賠償請求については、ミスで会社に損害?退職後に損害賠償を請求されたらどうするで解説しています。
失業保険
解雇後の生活のことを考えると、失業保険を受け取れるのかは大きな問題です。
「解雇等によって離職した者」は「特定受給資格者」として、通常よりも、被保険者期間が短くても失業保険を受けられたり、基本手当の支給を受けることの出来る日数が多いなどの保護が図られています。
ただし、特定受給資格者に該当するための条件として「自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く」とされています。
また、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合には、3ヶ月間、基本手当の支給が受けられないという不利益もあります。
そのため、どのような場合に「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」となるのか重要な意味を持ちますが、この点については、懲戒解雇されたら失業保険はもらえる?|給付制限や特定受給資格者の扱いを解説で解説しています。
不当な解雇に対して何をすべきかを知る
不当な解雇が行われた場合に、どのように行動すべきかは具体的な状況によっても大きく変わってきます。
後で「しまった!」となることがないように慎重に行動する必要があります。
解雇直後にとるべき行動
まずは、解雇理由証明書によって、解雇の理由を会社に明らかにさせることが必要です。
会社は、労働者から解雇理由証明書をの交付を請求されたら、これを交付する義務があります(労働基準法22条1項2項)。
解雇の理由が明らかとなったら、なるべく早く弁護士のところに相談に行きましょう。解雇の効力を争う余地があるのか、争うことのメリットやデメリットについて客観的に判断してもらうのです。
退職を前提とした行動をとらないことにも注意が必要です。
解雇直後に取るべき行動について詳しくは、解雇通知を受けたら?すぐに取るべき行動と注意点で詳しく解説しています。
何を求めることができるのかを知る
不当解雇を争うときに、具体的に何を請求できるのかも重要です。
「解雇は無効だから職場に戻してほしい」というのが基本となりますが、これとは別に損害賠償(慰謝料)を請求したいという方も少なくありません。
慰謝料を請求できるかについては、解雇が無効かどうかだけではなく、慰謝料請求を認めるだけの違法性があるかということが問題となる点に注意が必要です。
不当解雇をされた時に何を求めることが出来るのかについて詳しくは、不当解雇で慰謝料は請求できる?職場復帰が基本/認められるケースと否定例で解説しています。
解雇を争う方法について知る
解雇を争うと一言でいっても、その方法はさまざまです。
労働局のあっせん制度:話合いによる解決を目指す制度
弁護士を通じた示談交渉:同じく話合いによる解決ですが、弁護士を代理人として立てて行います。
労働審判:3回以内の審理で早期解決が可能
訴訟:復職や金銭補償を求める正式手続
それぞれの手段のメリットやデメリットを踏まえて、方法を選択していくことになります。
解雇を争う手段について詳しくは、不当解雇への対応|あっせん・弁護士交渉・労働審判など争う方法まとめで解説しています。
まとめ
労働者の生活に重大な影響を与える解雇は、法律上、厳しく制約されています。
また、解雇トラブルを打開する手段もさまざまあります。
未来に向けた行動を起こすためには、必要な情報を収集することが大切な一歩ですが、これを読まれたあなたは、既にその一歩を踏み出したことになります。
焦らずに一つ一つ問題を解決していけば道は開けますので、落ち着いて前へ進んで頂ければと思います。
不当解雇をめぐるトラブルでお困りの方へ
不当解雇に対してどう対応すべきかは、具体的な事情によっても変わってきます。ご自身の状況に照らして、今何をすべきかを知りたい方は、一人で悩まず弁護士にご相談ください。
⇒労働相談@名古屋の詳細を見てみる











