自己都合か会社都合か~退職金の支給をめぐって


自己都合、会社都合と退職金支給率

退職金規定の中で「自己都合」の場合と「会社都合」の場合とで退職金の支給率を変えている会社が多いと思いますが、退職の経緯によっては、はたして自己都合なのか会社都合なのかということが争われる場合があります。

そのような近年の裁判例として、平成22年6月25日東京地裁判決を紹介します。

この事案は、人員削減に基づく経営合理化の一環として、従業員に対して退職の協力要請がされ、これに応じて従業員が退職するに至ったというケースです。

会社の退職金規定では「やむを得ない業務上の都合による解雇」の場合は「自己都合」で退職する場合よりも高い退職金が支払われることになっていましたが、会社は「自己都合退職」扱いの退職金しか支払おうとしませんでした。

そこで、従業員がこれを不服として提訴したのです。

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会社経営上の必要性からやむを得ず自ら退職する場合

裁判所は、そもそも「やむを得ない業務上の都合による解雇」の場合に自己都合等で退職する場合よりも高い退職金が支払われるとされている理由について

「会社経営上の必要性に基づき、これに協力して退職する従業員にインセンティブを与えることによって余剰人員の解消等の目的達成を容易にするため」

としたうえで、そうなのであれば、「やむを得ない業務上の都合による解雇」とは

「会社経営上の必要性に基づいて解雇が行われる場合」だけではなく、「会社経営上の必要性から従業員がやむを得ず自ら退職する場合」も含む

と述べました。

そして、このケースでは「やむを得ない業務上の都合による解雇」の場合に準じて、これに基づく退職金支払いをすべきと結論づけています。

形式的な区別ではなく

上の裁判例からも分かるように、自己都合か会社都合かは、単に「退職届を自ら出したかどうか」といった形式的な区別で判断すべきものではなく、その経緯に照らして実質的な判断がされるべきものです。

形式的な判断だけで特段の問題意識もないまま運用されがちではないかと思いますので、注意が必要です。


自己都合と判断された例

退職金の支給をめぐって、「自己都合」の退職か「会社都合」の退職かという点が争われた裁判例のうち、今度は「自己都合」と判断された例(平成23年5月17日東京地裁判決)を見てみたいと思います。

このケースは、翻訳業を営む会社で働いてきた従業員が会社の業績不振から賃金を一方的に20%減額され、さらに労働条件の切り下げを迫られる中で、退職届を提出して退職したという事案です。

この会社の退職金規定では、退職金の支給率が、退職事由によってA、Bの2種類に区分されおり、会社都合の退職,在職中の死亡,業務上の負傷等による退職、定年退職の場合はA、それ以外の場合はBを適用するとされていました。

使用者側の意向ないし発案に基づく退職?

原告は、会社から提示された低い労働条件では生活できず,基本給が切り下げられると、将来受けるべき退職金も減額されることになるためやむを得ず退職したのであるから、「会社都合の退職」として扱われるべきであると主張しました。

これに対して裁判所は、退職金規定の「会社の都合で退職したとき」とは,

「解雇、使用者の退職勧奨による退職等、使用者側の意向ないし発案に基づく退職を意味する」

とした上で、このケースでは、原告は、確かに労働条件切り下げの選択を迫る通告をきっかけに退職したものではあるが、最終的には、基本給が減額される前に従来の基本給に基づいて退職金を得たいという気持ちと、「こういった環境にいたくない」「一刻も早く辞めたい」という原告自身の意思に基づいて退職したものであるとして、「自己都合による退職」であると判断しました。

最初のケースでは会社から人員削減のための退職要請がなされたのに応じて退職したのに対して、後者のケースでは労働条件の切り下げ提案をされる中で退職を選択したという違いがあります。

後者のケースで、裁判所は、「原告は、退職前の段階で、労働局への相談などを通じて、労働条件の切り下げに同意すべき義務はないことを理解していた」という点を指摘しており、にもかかわらず原告はあえて退職を選択したという理解がされています。

いずれにせよ、退職金の支給等、退職届を出した後の展開を十分に確認しないまま不用意に退職届を出すことは避ける必要があります。

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