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内定取り消しとその理由~内定取り消しは許されるか




内定取り消し

採用が内定してから、実際に働き始める前に、内定が取り消されてしまう「内定取り消し」。

いったん内定が出ればこれを前提に、求職活動を中止したり、前職を退職するなどの行動を取るのですから、新卒の場合でも、転職の場合でも、内定取り消しを受ける側が被る不利益は大変大きいと言えます。

このような内定取り消しが法的に許されるのかについて見ていきたいと思います。

内定の意味

まず,そもそも内定が出た状態というのは法律的にはどのように評価されるのでしょうか。

普通の方の感覚からすると、内定というのは、まだ雇用契約が締結される前で、雇用契約はまだ成立していないと思われるのではないかと思います。

しかし、実は、内定が出た段階で、多くの場合雇用契約自体は成立していると法的には評価されます。

つまり、少し小難しくいうと、労働者の「応募」という契約の申し込みに対して、会社が「内定」という形でこれに対する承諾を行ったことによって、「一定の場合には解約がありうるという解約権の留保付きで、雇用契約自体はすでに成立している」と評価されるのです。

専門的な用語でいうと「始期付解約権留保付雇用契約」といいます。勤務の開始日が定まっており(始期付き)、解約権が留保された形で(解約権留保付き)成立した雇用契約、という意味です。

したがって、会社が内定を取り消すというのは、このような雇用契約の解約の問題ですから、働き始めた後に行われる解雇と同じような問題が生じ、 会社が何らの理由もなしに、「やっぱりあれナシね」といって話をなかった事にするということは許されないことになります。

そのため、内定取り消しが争いになる場面では、そもそも内定にまで至っているのかが大きな問題になってきます。この点については、以下の記事をご覧ください。
内定は成立しているか?

内定は成立しているか?

2018.03.17

また、内定成立前の内々定の段階ではどうなるのかについては、次の記事をご覧ください。
内々定の取り消しについて損害賠償を認めた事例

内々定の取り消しについて損害賠償を認めた事例

2012.04.24

許される内定取り消しの理由とは

では、どのような理由があれば内定取り消し、つまり「留保された解約権に基づく解約」が許されるのでしょうか。

客観的合理的理由と社会的相当性

この点については、最高裁の判例(昭和54年7月20日)が、採用内定を取り消すことができる理由は

採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる

という基準を示しています。

つまり、実際に働き始めてからの解雇は試用期間中であっても一定の厳しい制約を受けますが(詳しくはこちら→試用期間と解雇~本採用されずにクビ?!)、これと同じような理屈が、採用内定期間中にも当てはまるのです。

最高裁の事案における判断

この最高裁判決の事例は、大学の新卒予定者が、印刷会社から内定通知を受けた後、勤務開始の約1ヶ月半前に突如として内定取り消しの通知を受けとったというケースで、内定取り消しの主な理由は「グルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というものでした。

これに対して最高裁は、グルーミーな印象であることは当初から分かっていたことであるから、会社としては、その段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、「解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべき」としています。

なお、実際に働き始めて試用期間になってからの解雇についてはこちらをご覧ください。
試用期間終了時の解雇は許されるか

試用期間終了時の解雇は許されるか

2012.03.18

不当な内定取り消しがされた場合の対処~無効主張と損害賠償請求

採用内定を取り消すことができる事由がないにもかかわらずなされた不当な取り消しは、法的には効力は認められない、つまり無効ということになります。

したがって、不当な内定取り消しを争う場合には、原則的には、会社に対して従業員としての地位があることを主張し、本来の勤務開始日以降の給料を請求していくという形をとることになります。

また、このような会社ではいずれしても働く気にはなれないというのであれば、被った損害(慰謝料等)の賠償を求めるという形で主張していくことも考えられますが、この点は、不当な解雇の争い方と同様、損害の内容をどのように構成するかという若干難しい問題もありますので注意が必要です。

この点について詳しくはこちらをご覧ください。
不当な内定取り消しと損害賠償請求

不当な内定取り消しと損害賠償請求

2018.04.17

また、不当な内定取り消しを争う場合の手続きについてはこちらを参考にしてください。
労働審判とはどのような手続きか

労働審判とはどのような手続きか

2012.01.17

労働者の側から取り消す場合

なお、会社からの内定取り消しではなく、内定を受けた労働者の側からこれを取り消す(辞退する)という場合はどうなるのかですが、この場合は、労働者の側からの労働契約の解約の問題ですので、2週間の予告期間を置けばいつでも自由にすることができます(民法627条)。

この点についてはこちらの記事も参考にしてください。
労働基準法等から退職方法を考える~会社を辞められない!?

もちろん、内定辞退によって関係各所に様々な迷惑をかけることにはなりますので、その点を十分に配慮した行動が求められるのは当然ですが、少なくとも会社からの内定取消の問題とは同列ではないという点を押さえておく必要があります。

事例にみる内定取り消し

会社の方針変更と内定取り消し

内定取り消しが許されないとして損害賠償請求が認められた例(平成15年6月30日東京地裁判決)を見てみたいと思います。

この事案は、生活関連情報誌などを編集出版する会社から採用内定を受け当時の勤務先を退職した原告が、その後に内定を取り消されてしまったことから、慰謝料300万円の支払いなどを求めて提訴した事案です。

この会社は新たに海外旅行情報誌を創刊することとなり、そのために求人を行っていました。そして、この求人を見て応募した原告について、従事する業務を「海外旅行情報誌の企画営業」として採用を内定しました。

ところが、当該情報誌の創刊時期を延期することなったことから、採用内定者の配属先をスクール情報誌の企画営業に変更しようとしましたが、原告がこれに納得せず変更に同意しなかったことから、内定を取り消すに至ったのです。

内定取り消しと損害賠償

裁判所は、

  1. 会社が、担当する情報誌の種類が限定されるかのような社員募集広告をして、海外旅行に関する業務に従事するために転職を希望する原告に応募させ、面接でも海外旅行情報誌の企画営業業務に従事できるものと信頼させたこと
  2. 原告に対して早期に就職するように促して、そのまま在籍していれば将来希望する業務(海外旅行に関する業務)を担当できる可能性のある当時の勤務先を退職させたこと
  3. 原告の経歴や関心の対象に照らすと、入社当初からスクール情報誌に関する業務を命ずることは酷であること
  4. 創刊時期の変更は、経営陣の気が変わったという範囲を出ないもので、しかも、後に創刊時期を数ヶ月遅らせただけで再度創刊を決定していることからすると、創刊準備の業務に原告を従事させることも可能であったことからすると、配属先変更には客観的にみて合理的な必要性は全くないこと

等を指摘した上で、本件内定取消は,社会的相当性を逸脱した違法な行為であると結論づけました。

具体的な損害額としては、内定取り消しの結果、原告が7か月間の間失業状態に置かれたことなどから、この間の従前の給与相当額である165万円を慰謝料として認められています。

本件では、内定取り消しから期間がたたないうちに、結局、海外旅行情報誌の創刊を決定して募集を再開している等、会社の対応に相当疑問がある例で、慰謝料金額の算定にあたってはこれらの点も考慮されています。

この事例でも分かるように、内定取り消しは内定者のキャリアの形成にとって相当大きな影響を与える問題であるだけに、法律的に厳しい制約を受けることが改めて理解される必要があります。

業績の悪化と内定取り消し理由

次に、内定取り消しの事例の一つとして、業績悪化を理由とする内定取り消しが無効と判断された例(東京地裁平成9年10月31日決定)をとりあげたいと思います。

この事案は、ヘッドハンティングで採用内定した労働者が、当時の勤務先に退職届を提出した後になって内定取り消しとなったというケースで、会社は、内定取り消しの理由として

①マネージャーからSEへの職種変更命令に違反したこと
②経営悪化

を挙げました。

このうち①の職種変更命令違反について、裁判所は、職種変更命令をしたこと自体が認められず、また仮に職種変更命令があったとしても、入社予定日のわずか2週間前で、既に当時の勤務先に退職届を提出した後の辞退勧告であったこと等に照らすと、これに対する労働者の反応を捉えて内定取り消しとするのは著しく酷で、「解約留保権の趣旨、目的に照らしても、客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当と是認することはできない」として、これを理由とする内定取り消しは無効と判断しました。

整理解雇の場合に準じて

問題は②の業績悪化についてどう考えるかです。

この点について裁判所は、いわゆる整理解雇の場合に準じて考えて

  1. 人員削減の必要性
  2. 人員削減の手段として整理解雇することの必要性
  3. 被解雇者選定の合理性
  4. 手続の妥当性

という4つの要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきとの基準を示しています。

そして裁判所は、①②③については認めながらも、「④手続きの妥当性」について、採用内定を受けて10年勤めた勤務先を退職したところ入社日の二週間前になって突然入社の辞退勧告がされたという事実経緯に照らすと、

・会社が自らスカウトしておきながら経営悪化を理由に採用内定を取り消すことは信義則に反し、採用内定を取り消す場合には、債権者の納得が得られるよう十分な説明を行う信義則上の義務があるというべきであること

・ところが、会社は、必ずしも債権者の納得を得られるような十分な説明をしたとはいえず、債務者の対応は、誠実性に欠けていたといわざるを得ないこと

を指摘しました。

その上で、労働者が著しい不利益を被っていることを考慮すれば、「本件内定取消は社会通念に照らし相当と是認することはできない」として、内定取り消しを無効と結論づけています。

内定取り消しの場合は、少なくとも一旦は募集、採用を行った以上、わずかな期間で採用が不可能となるほど経営悪化が生じるとは思えず、この点について本決定が慎重に検討したかやや疑問を感じる面もありますが、「④手続きの妥当性」の観点からはやはり厳しくその相当性を判断しています。

内定後のトラブルについて

内定後に生じてくる問題として参考になりそうな記事をピックアップしましたのでご覧ください。
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