内定取り消しとその理由~内定取り消しは許されるか

採用が内定してから、実際に働き始める前に、内定が取り消されてしまう「内定取り消し」。

いったん内定が出ればこれを前提に、求職活動を中止したり、前職を退職するなどの行動を取るのですから、新卒の場合でも、転職の場合でも、内定を取り消されてしまうことのダメージは計り知れません。

ここでは、そんな内定取り消しが法的に許されるのか、不当な内定取り消しに対してどう対処すべきかについて見ていきたいと思います。

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内定とは

まず,そもそも内定が出た状態というのは法律的にはどのように評価されるのでしょうか。

普通の方の感覚からすると、内定というのは、まだ雇用契約が締結される前で、雇用契約はまだ成立していないと思われるのではないかと思います。

しかし、実は、内定が出た段階で、多くの場合雇用契約自体は成立していると法的には評価されます。

つまり、少し難しくいうと、労働者の「応募」という契約の申し込みに対して、会社が「内定」という形でこれに対する承諾を行ったことによって、「一定の場合には解約がありうるという解約権の留保付きで、雇用契約自体はすでに成立している」と評価されるのです。

専門的な用語でいうと「始期付解約権留保付雇用契約」といいます。

勤務の開始日が定まっており(始期付き)、解約権が留保された形で(解約権留保付き)成立した雇用契約、という意味です。

したがって、会社が内定を取り消すというのは、このような雇用契約の解約の問題ですから、働き始めた後に行われる解雇と同じような問題が生じるのです。

解雇については、法律上、厳しい制約があり、使用者が自由に労働者のクビを切ることは出来ません(▼解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~

同じように、会社が何らの理由もなしに、「やっぱりあれナシね」といって内定を取り消すことは許されないのです。

なお、内々定の段階はどうなるのかについては、こちらをご覧ください。
内々定の取り消しは認められるか

正当な内定取り消しの理由とは

では、どのような理由があれば内定取り消し、つまり「留保された解約権に基づく解約」が許されるのでしょうか。

この点については、最高裁の判例(昭和54年7月20日)が、採用内定を取り消すことができる理由について

採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる

という基準を示しています。

つまり、実際に働き始めてからの解雇は試用期間中であっても一定の厳しい制約を受けますが(詳しくはこちら→試用期間と解雇~本採用されずにクビ?!)、これと同じような理屈が、採用内定期間中にも当てはまるのです。

内定の辞退について

なお、会社からの内定取り消しではなく、内定を受けた労働者の側からこれを取り消す(辞退する)という場合はどうなるのかについても触れておきます。

この場合は、労働者の側からの労働契約の解約の問題ですので、2週間の予告期間を置けばいつでも自由にすることができます(民法627条)。
労働基準法等から退職方法を考える~会社を辞められない!?

もちろん、内定辞退によって関係各所に様々な迷惑をかけることにはなりますので、その点を十分に配慮した行動が求められるのは当然ですが、少なくとも会社からの内定取消の問題とは同列ではないという点を押さえておく必要があります。

事例にみる内定取り消し

最高裁が示した上記基準の具体的な意味を知るために、不当な内定取り消しとされたいくつかの事例を見てみます。

会社の方針変更と内定取り消し

まずは、内定取り消しが許されないとして損害賠償請求が認められた例(平成15年6月30日東京地裁判決)です。

この事案は、生活関連情報誌などを編集出版する会社から採用内定を受け当時の勤務先を退職した原告が、その後に内定を取り消されてしまったことから、慰謝料300万円の支払いなどを求めて提訴した事案です。

この会社は新たに海外旅行情報誌を創刊することとなり、そのために求人を行っていました。そして、この求人を見て応募した原告について、従事する業務を「海外旅行情報誌の企画営業」として採用を内定しました。

ところが、当該情報誌の創刊時期を延期することなったことから、採用内定者の配属先をスクール情報誌の企画営業に変更しようとしましたが、原告がこれに納得せず変更に同意しなかったことから、内定を取り消すに至ったのです。

これに対して、裁判所は、

  1. 会社が、担当する情報誌の種類が限定されるかのような社員募集広告をして、海外旅行に関する業務に従事するために転職を希望する原告に応募させ、面接でも海外旅行情報誌の企画営業業務に従事できるものと信頼させたこと
  2. 原告に対して早期に就職するように促して、そのまま在籍していれば将来希望する業務(海外旅行に関する業務)を担当できる可能性のある当時の勤務先を退職させたこと
  3. 原告の経歴や関心の対象に照らすと、入社当初からスクール情報誌に関する業務を命ずることは酷であること
  4. 創刊時期の変更は、経営陣の気が変わったという範囲を出ないもので、しかも、後に創刊時期を数ヶ月遅らせただけで再度創刊を決定していることからすると、創刊準備の業務に原告を従事させることも可能であったといえ、配属先変更には客観的にみて合理的な必要性は全くないこと

等を指摘した上で、本件内定取消は,社会的相当性を逸脱した違法な行為であると結論づけました。

業績の悪化と内定取り消し

次に、業績悪化を理由とする内定取り消しが無効と判断された例(東京地裁平成9年10月31日決定)も見てみます。

この事案は、ヘッドハンティングで採用内定した労働者が、当時の勤務先に退職届を提出した後になって内定取り消しとなったというケースで、会社は、内定取り消しの理由として

①マネージャーからSEへの職種変更命令に違反したこと
②経営悪化

を挙げました。

このうち②の業績悪化について、裁判所は、いわゆる整理解雇の場合に準じて考えて

  1. 人員削減の必要性
  2. 人員削減の手段として整理解雇することの必要性
  3. 被解雇者選定の合理性
  4. 手続の妥当性

という4つの要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきとの基準を示しています。

そして裁判所は、①②③については認めながらも、「④手続きの妥当性」について、採用内定を受けて10年勤めた勤務先を退職したところ入社日の二週間前になって突然入社の辞退勧告がされたという事実経緯に照らすと、

・会社が自らスカウトしておきながら経営悪化を理由に採用内定を取り消すことは信義則に反し、採用内定を取り消す場合には、債権者の納得が得られるよう十分な説明を行う信義則上の義務があるというべきであること

・ところが、会社は、必ずしも債権者の納得を得られるような十分な説明をしたとはいえず、債務者の対応は、誠実性に欠けていたといわざるを得ないこと

を指摘しました。

その上で、労働者が著しい不利益を被っていることを考慮すれば、「本件内定取消は社会通念に照らし相当と是認することはできない」として、内定取り消しを無効と結論づけています。

内定取り消しの場合は、少なくとも一旦は募集、採用を行った以上、わずかな期間で採用が不可能となるほど経営悪化が生じるとは思えず、この点について本決定が慎重に検討したかやや疑問を感じる面もありますが、「④手続きの妥当性」の観点からはやはり厳しくその相当性を判断しています。

内定はいつ成立するのか

ここまで見てきたように会社は自由に内定を取り消せるわけではなく、一定の厳しい制約を受けることから、内定取り消しが争いになる場面では、そもそも内定にまで至っているのかも大きな問題になってきます。

内定通知が正式に書面で出されているような場合であれば、あまり問題になりませんが、口頭でのやりとりを通じて内定が出されていく場合には、これは大きな問題です。

この点については、どのような権限・立場にある者がやりとりをしていたのか、その内容がどこまで具体化していたのか、といった観点から、個別具体的に認定していくことになりますが、例えば、参考となる事例として、平成20年6月27日東京地裁判決を見てみます。

この事案は、証券会社に勤務していた原告が、新たに証券業に進出することを予定している会社との間で内定が成立し、勤務先に辞職を申し出たところ、その後一方的に内定取り消しに至ったとして慰謝料の支払いを求めたケースです。

これに対して、被告会社は内定自体が成立していないとして争いました。

この点について、裁判所は、

  1. 被告会社の代表取締役が原告を勧誘し、その後、事業形態や雇用の問題等について話し合いを重ねる中で、雇用条件を詰めるために、原告と被告会社の代表取締役らとの間で会合が開かれるに至ったこと
  2. この会合において、原告が希望する年棒額を提示し、これについて被告会社の代表取締役が概ね了承したこと
  3. 勤務開始日についても合意したこと
  4. その後も被告会社内部でこの会合での発言を前提に事が進められていたこと

等を指摘した上で、

「代表取締役からここまで具体的な話があった以上、これを内定成立と認めて妨げないというべき」

と結論づけました。

原告の採用について役員会での決定を経ていないという事情もありましたが、この点についても、

「代表取締役は被告会社の主要株主の一人であり、代表取締役が決めた以上役員会で承認が得られる見込みがあったのだろうと思うことは部外者としては当然」

等として、内定が成立していることを妨げる事情とは言えないとしています。

不当な内定取り消しに対して何を主張できるのか

不当にも内定取り消しがされたという場合に会社に対して何を請求できるのかについて、ここで整理しておきます。

内定取り消しの無効主張+給料支払いの請求

正当な取り消し事由のない内定取り消しは、法律的には無効ですので、あなたには、依然として労働者としての地位があることになります。

そして、予定された勤務開始日以降も働き始めることができていないのは、あなたが勤務することを会社が拒んでいるからに過ぎません。

そこで、会社に対しては、あなたが労働者としての地位があることを主張するとともに、予定されていた勤務開始日以降の給料を支払うように請求する、というのが原則的な主張内容になります。

裁判所があなたの主張を認めて、労働者としての地位の確認や給料の支払いを命ずれば、あなたは、その間の給料を支払ってもらった上で、その会社で働くことが出来るようになります。

参考▼解雇を争っている間に別の仕事をして良いか

内定取り消しと損害賠償(慰謝料)請求

もっとも、内定取り消しの場合には、一度も勤務を開始しないままのトラブルであることから、「こんな会社で働きたくない」という思いを持つ方も少なくないと思います。その場合、労働者としての地位の主張等はせずに損害賠償請求のみを行うことを考える方もいるかもしれません。

通常の解雇の争いの場合でも、このように復職を希望せずに、金銭的な賠償のみを希望するケースがありますが、内定取り消しの場合はなおさらその傾向は強いと思います。

ただし、損害賠償のみを求めるという場合には、問題点が二つあります。

一つは、損害賠償が認められるためには、単に内定取り消しが無効であるというだけではなく、損害賠償が認められるに足る違法性(言い換えれば悪質性)が必要になるという点です。

つまり、内定取り消しが無効かどうかと、これについて損害賠償請求が認められるかどうかは一応別の問題ですので、損害賠償が認められるためには一段高いハードルを超えることが求められてしまうのです。
参考▼不当解雇に対して慰謝料請求(損害賠償請求)をしたい

また、もう一つの問題は、損害として何を主張できるかという点です。

不当な取り消しによって被った精神的苦痛に対する慰謝料というのが、すぐに思い浮かぶ損害ですが、一般的に裁判所が認める慰謝料の金額は、おそらく多くの人が思うほど高い水準ではありません。

したがって、これらの問題点もよく考えた上で、どのような主張をしていくのかをよく検討する必要があります。

なお、実際の具体例でみると、例えば、上で紹介した生活関連情報誌などを編集出版する会社から採用内定を受け当時の勤務先を退職した原告が、その後に内定を取り消されてしまった事案(平成15年6月30日東京地裁判決)では、内定取り消しの結果7ヶ月間の失業状態におかれた事などから、その間の給与相当額である165万円が慰謝料として認められています。

また、同じく転職の事案で、コンピュータの周辺機器の設計・開発・製造及び販売等を行う会社から内定が出された後、前職の勤務時代に関して良くない噂がある等の理由で内定を取り消されたという事案(平成16年6月23日東京地裁判決)では、慰謝料として100万円が認められていますが、慰謝料の金額を決定するに際して考慮した事情として以下の点が指摘されています。

  1. 内定が出たために、他の就職内定先や就職活動先を断り、また前の会社に退社届を提出して身辺整理を行っていたこと
  2. 採用内定取り消しに伴って再度の就職活動を余儀なくされ、次の会社に就職が決まるまでの2ヶ月間、不安定な立場におかれたこと
  3. 本件訴訟の提起を弁護士に依頼し弁護士費用を要したこと
  4. 不当な内定取り消しを受けたら

    最後に、不当な内定取り消しにあったら、どう行動すべきかについて触れます。

    まずは、内定取り消しの理由を詳細に明らかにさせることが必要です。具体的には解雇理由証明書の交付を請求しましょう。

    解雇理由証明書は、解雇の理由を記載した書面で、労働者が請求した場合には使用者はこれを交付することが法律上、義務づけられているものです。
    解雇理由証明書とは何か~請求方法からもらえない場合の対応まで

    内定取り消しも解雇の一種ですので、労働者が求めた場合には会社は交付しなければいけません。(ただし、上でも触れたように会社が内定の成立自体を争い、「内定が成立していないのだから交付する必要はない」と主張してくることは考えられます。)

    解雇理由証明書を入手したら(拒絶された場合も同じです)、それを持って速やかに弁護士のところに相談に行きましょう。正当な内定取り消し理由なのかどうかを専門家の立場から判断してもらうのです。

    内定取り消しを争って実際に行動を起こすという場合には、上で説明したように、その会社で働くこと自体を希望するのかどうかによって、主張する内容やとるべき手続きも変わってきます。したがって、この点についてのご自身の気持ちをよく考えることも必要です。

    参考
    不当解雇をめぐる裁判~費用や期間、裁判の流れなど
    労働審判とはどのような手続きか

    内定前後のトラブルについて

    内々定の取り消しは認められるか
    内定者研修を欠席したらどうなるか
    雇用契約書や労働条件通知書をもらえない場合どうするか
    求人票と違う!給料や退職金は払ってもらえるか。

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