「懲戒解雇されたら今まで働いた分の給料はもらえないのでしょうか」というお尋ねを受けることがあります。
身に覚えのある非違行為で懲戒解雇を受ける場合には、会社への引け目もあり、懲戒解雇となる以上は、会社に対して何も言えないような気持ちになって上記のようなお尋ねになるのだと思います。
そこでこのような懲戒解雇された場合の給料の問題について見ていきたいと思います。
懲戒解雇と給料
まず、押さえておかなければならないのは、法律的には、懲戒解雇と給料の支払いの問題とは全く別の問題だとということです。
つまり、懲戒解雇になるからといって今まで働いた分の給料が当然にもらえなくなる訳ではなく、既に発生している給料を請求することはできます。
会社からの損害賠償請求との関係
もちろん、懲戒解雇事由の内容(例えば会社のお金の着服など)によっては、会社からの損害賠償請求という形で給料の金額を上回る請求を受けることはありえます。
しかし、このときには、二つの点に注意が必要です。
会社の請求は法的に認められる範囲のものか
一つは、会社からの損害賠償請求が法律的に認められる範囲のものかどうかという点です。
会社は労働者の故意過失に基づく行為によって被った損害について賠償請求する場合も、実際に生じている損害を超える請求が出来るわけではありません。またその場合の請求も各種の事情を考慮した相当な限度に限定されます。(詳しくは、仕事上のミスで会社に損害を与えた場合に賠償義務を負うのかをご覧ください)
特に、懲戒解雇を伴う場面では、抽象的に「迷惑料」的な意味合いで実際に会社に生じた損害を上回る損害賠償請求が簡単に口にされることがありますので、注意が必要です。
相殺の禁止
もう一つは、たとえ損害賠償請求が可能な場合でも会社からの一方的な相殺は許されないという点です。
法律上、給料については、「全額払いの原則」が定められています(労働基準法24条1項本文)。労働者の生活の安定を確保するという見地から、給料を一部しか払わないということは許されず、会社を全額を払わなければいけないのです。
したがって、会社が労働者に対して損害賠償請求できるという場合も、これを一方的に給料と相殺する(つまり、給料と差し引きしてチャラにする)ことは許されません。
もちろん、会社が「一方的に」相殺することは許されないということですので、労働者の同意のもとで相殺をするということはあり得ますが、同意の強制が許されないのは言うまでもありません。
懲戒解雇時に、色々な理由をつけて給料を払ってもらえないという場合には、是非参考にして頂ければと思います。
退職金についても不支給や減額が問題になることがありますが、この点については、こちらで詳しく解説しています。
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