残業代請求をする前に知っておきたいこと




残業代請求

会社に対して未払いとなっている残業代の請求をしたいというときには、押さえておくべきいくつかのポイントがあります。

また、残業代の請求に対して、会社がしてくるであろう主張に対してきちんと反論できる心構えを持っておくことも大切です。

そこで、ここでは、残業代請求にあたってのいくつかのポイントとともに、予想される会社の主張について考えてみたいと思います。

残業代と時効

まず最初のポイントは時効期間です。

時効というのは、簡単にいえば、一定期間の経過によって、請求出来るものも請求できなくなってしまう(義務者は支払いを拒める)という制度ですが、給料の場合、時効期間は法律で2年と定められています。

そのため、未払い残業代の請求をする場合も、実際上支払いを期待できるのは直前の2年分に限られます。

各支払い日から2年間が経過すると時効にかかってしまいますので、特に退職後に請求するという場合は、時間が経過すればするほど請求できる金額は減ってしまいます。

したがって、もし退職後に未払い残業代の請求を考えているのであれば、速やかに行動をすることが大切です。

労働時間となる範囲

2番目のポイントは、労働時間になる範囲についてです。

労働時間となるかどうかは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」かどうかで決まります。

したがって、例えば、朝礼や掃除のために、始業時間よりも前に来ることが義務付けられているという場合は、これも労働時間になります。

また、後片付けの時間も、それが義務的なものなのであれば、これも労働時間です。

電話当番をしている時間や客が来るのを待つ手待時間も、休憩時間とは違って自由に過ごせるわけではないのですから、労働時間になります。

残業時間の立証方法

残業代の未払いをめぐる3つ目のそして最大のポイントは、どのようにして残業時間を証明するかです。

裁判では何よりも証拠が大切です。残業代がきちんと払われていないことが分かり、会社に未払い分を請求したいという場合に、一番大きな障壁となるのは、残業時間を証明する方法です。

裁判で未払い残業代を請求する場合などは、残業時間を一日ごとに正確に証明する必要があります。記憶だけで「だいたいこれくらい働いた」といって請求するわけにはいかないのです。

残業時間を証明するときに、真っ先に頼りになるのはタイムカードです。タイムカードがあるのであれば、そのコピーを必ず取っておきましょう。

その他の証明手段の活用

もっとも、会社によってはタイムカードがない、あるいは、タイムカードはあっても、労働時間が正確に記録されていないという場合もあります。

こういう場合は、例えば、労働時間が分かる業務日報や運行記録、パソコンの記録、自分で作成した出勤・退勤時間の記録メモ等によって立証していくことになります。

ただし、自分で作成した記録等によって立証しようとする場合には、これを裁判所に信用してもらうためのハードルは相当高いことは覚悟しておかなければいけません。

したがって、残業代の請求のことも考えて、働いた時間の記録をつけるのであれば、出勤時間、退勤時間、その日の仕事内容、特に残業時の仕事内容、上司の指示内容、その他その日の出来事を日々、出来る限り細かくメモをとることが不可欠です。毎日、細かく正確に書いてあればあるほど信用性が高まります。

なお、残業時間を証明する資料が会社にはあるものの自分の手元にはないという場合もあるかと思います。

こういった場合は、弁護士からの請求でこれらの資料を会社に提示させたり、裁判所を利用して強制的に証拠の保全を図る手続き(証拠保全手続きといいます)を利用することも考えられますので、あきらめずに弁護士にご相談いただければと思います。

残業時間の立証方法について参考となる裁判例

さて、残業時間の立証方法について、もう少しイメージを持っていただく意味も込めて、会社が残業時間を立証する資料を出さない場合における残業時間の推定計算について述べた裁判例(平成23年10月25日東京地裁判決)をとりあげたいと思います。

これは、コマーシャルの企画制作等を行う会社で働いていた従業員2名が退職後に未払いの残業代請求をしたという事案です。

この裁判に先だって、会社の側から従業員に対して、従業員の在職中の行為に関して損害賠償請求をする別の訴訟も起こされており、双方の対立関係が相当深まった中で争われたケースのようです。

裁判の中で、会社からタイムカードは提出されたものの、抜けている月があったり、打刻がされていない日が非常に多いなどの問題がありました。

また、原告が、毎月の作業内容・時間を記載した月間作業報告書の提出を求めたのに対して、会社が「処分済みで存在しない」などとして提出に応じなかったたため、このような状況での残業時間の立証方法について問題となりました。

推定による算定

裁判所は、 時間外手当等請求訴訟において,時間外労働等を行ったことについては、「支払を求める労働者側が主張・立証責任を負う」としながらも、労基法が時間外・深夜・休日労働について厳格な規制を行い、使用者に労働時間を管理する義務を負わせていることからすれば、

「合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算定することが許される場合もある」

と述べました。

もっとも、その場合の推計方法については

「当該労働の実態に即した適切かつ根拠のあるものである必要がある」

とされている点に注意が必要です。

具体的な推定方法

そして、このケースでは、会社において,労働時間管理のための資料を合理的な理由もなく廃棄したなどとして提出しないという状況が認められることから、

「公平の観点から、推計計算の方法により労働時間を算定する余地を認めるのが相当」

とした上で、請求期間のタイムカード自体が存在しない月があったり、存在してもほとんど打刻がない月がある原告については、以下のような推計計算をとることを「合理的」と認めました。

①タイムカードが存在する月については,始業時刻の打刻がない部分は一律に所定始業時刻とし、終業時刻の打刻がない部分については月毎に算出した各平均終業時刻をそれぞれ終業時刻とする。

②タイムカード自体が存在しないか、存在しても打刻がほとんどない月については、始業時刻については所定始業時刻とし、終業時刻については、タイムカードが存在する月の平均終業時刻をもって終業時刻と推計する。

少しややこししいですが、会社が残業時間を立証する資料を出さないために残業時間の立証が困難という場合に、このような形で一定の推定が認められる例があること、ただ、その場合も、それなりの合理的根拠が求められることがおわかりいただけると思います。

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会社の反論別対処法を考える

基本給に含まれているから払わない

未払い残業代の請求に対する会社の主張として、「基本給の中に残業代が含まれているのだから、それ以上は払う必要はない」というものもあります。

たしかに、基本給の中に、毎月一定の残業代分を含ませるということ自体はありうることです。

しかし、その場合も当然のことながら、どれだけ残業をしても基本給の中に含まれていることにする、ということが許されるわけではありません。

どの部分が残業代に相当するのかの区別がされているか

基本給の中に含まれている分の残業時間を超えて残業を行ったのであれば、当然にその分の残業代が支払われなければならないのです。

そのためには、基本給のうち、どの部分が通常の労働時間に対する賃金部分で、どの部分が残業代に相当するのかということが明確に区別されている必要があります。

もし区別されていないと、法律上払われるべき残業代がきちんと払われているかどうかの確認すらできないことになるからです。

したがって、残業代が基本給の中に含まれていると言えるためには、このような明確な区別がされていることが必要となります(高知県観光事件、平成6年6月13日最高裁判決)。

なお、裁判例では、基本給のうちどの部分が通常の労働時間に対する賃金で、どの部分が残業代に相当するのかについて明確に区別されていないケースでも基本給の中に残業代が含まれることを認めた例もあります。

ただし、非常に高額の年棒(基本給年収2200万円)やそれとは別に業績賞与(最高で5000万円)が支払われているなど特殊なケースに限られており、基本的には、上記のとおり残業代とそれ以外の部分についての明確な区別が必要となります。

同意していたから払わない

未払い残業代の支払いを求めた際に、会社が「うちでは残業代は出ないということは入社のときに説明したし、あなたもこれまで一言も文句を言わなかった」などといって反論する場合がときどきあります。

その主張の意味するところはいろいろ考えられるのですが、もし「同意した以上は法律に従って払う必要はないはずだ」と言いたいのであれば、これは残念ながら労働基準についての法律の定めをよく理解していない主張だと言わなければいけません。

最低基準としての法律の定め

会社と労働者との間には、どうしても圧倒的な力・立場の差があります。そのため、労働条件を全て会社と労働者の合意にゆだねていたのでは、労働者にとって酷な労働条件が横行してしまいます。

そこで、労働条件の最低基準を定めたものとして労働基準法が定められ、そこで労働時間の規制や、これを前提にして法定の労働時間を超えて働かせることができる場合の条件、その場合の割増賃金等について定めを置いているのです。

したがって、たとえ合意があっても労働基準法を下回るようなものについては、効力は認められず、その場合、無効となった部分については、労働基準法の定める基準に従うことになります(労働基準法13条)。

つまり、労働基準法に従って、規定の割増賃金を支払わなければいけないのです。

よって、単純に「同意があるんだから法律に従って払う必要はない」ということにはなりません。

もし、残業代の請求に対して、会社がそのようなことを言って応じようとしないのであれば、労働基準法の意味をよく理解してもらう必要があります。

勝手に遅くまで働いていただけだから払わない

未払い残業代の請求に対する会社の主張として

「残業をしろと言ったわけではないのに、勝手に遅くまで働いていただけだから、払う必要などない」

という主張がされる場合があります。

業務量が多くやむを得ずに遅くまで残業をしていた労働者にしてみれば、感情を逆なでされるような主張ですが、よくある主張です。

黙示の指示

しかし、「今日は残業して」と明確に指示が出ていなければ残業代請求権が発生しないというわけではありません。

たとえ残業について明示の指示がされていない場合でも、実態として労働者が残業をして働いている事実あり、それを会社が認識しているのに特段何も言わずにそのままにしていたのであれば、実質的には残業の指示があるのと変わらないということができます。

したがって、このような場合は、残業の「黙示の指示」があったとして残業代請求をすることができます。

例えばタイムカードを押しているのであれば、会社は残業の事実を当然に認識していたことになりますし、日報に残業の記載をして提出していたと言うのであれば、会社は残業の事実を把握していたといえます。

それを後になって、「勝手に働いただけ」と主張することは許されません。

参考となる裁判例

参考となる裁判例として平成13年6月28日大阪高裁判決をとりあげます。

この事案は、銀行の行員が未払い残業代の支払いなどを求めたケースですが、争点の一つとして、始業時間(午前8時35分)前の金庫の開扉等を行う勤務について、労働時間と評価できるのかが争われました。

この点について裁判所は

①勤務する当該支店においては、男子行員のほとんどが8時過ぎころまでに出勤していたこと

②銀行の業務としては金庫を開きキャビネットを運び出し、それを各部署が受け取り、業務の準備がなされるところ、金庫の開扉は、当初の支店長時代には8時15分以前になされ、その後の支店長時代になってもその時刻ころにはなされていたと推認されること

③このような運用は,被告の支店において特殊なものではなかったこと

④始業に行われる融得会議については、男子行員については事実上出席が義務付けられている性質の会議と理解できること

などを指摘して、

①午前8時15分から始業時刻までの間の勤務については、黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると認めるべき

②融得会議など会議が開催された日については、それが8時15分以前に開催された場合には、その開始時間以降の勤務はこれを時間外勤務と認めるべき

としました。

管理職だから払わない

未払い残業代の請求に対して良く出される会社側の主張の一つに「管理職だから残業代は払う必要はない」というものがあります。

「管理監督者」に払わなくても良い理由

確かに、法律上「管理監督者」については、労働時間等に関する規制は及ばず、その結果、残業代も支払う必要はないことになっています。

なぜなら、「管理監督者」については、取り扱う仕事の内容からして、一般の労働者と同じような時間規制をすることはなじまない側面があります。

また、一般の労働者と違って出退社についてある程度自由に決められるため、労働時間に関する規制をしなくても問題はないと考えられるからです。

管理監督者に該当するのかどうか

ただし、問題は、どのような場合にこの「管理監督者」にあたるのかどうかです。

上に書いたような、管理監督者について労働時間等に関する規制が及ばない理由からすると、管理職の肩書さえつけば、あるいは役職手当が支払われてさえいれば、当然に管理監督者として残業代を支払わなくてもいいということにはなりません。

「管理監督者」にあたるかどうかは、

① 実際の職務内容や与えられた権限
② 出退社等についての自由度
③ 賃金面での待遇

などに照らして、労働時間に関する規制をしなくても問題はないと言えるだけの実態があるかどうかという観点から判断されます。

その結果「管理監督者」と言えないのであれば、たとえ管理職の肩書が付いていたとしても、労働時間の規制は及ぶため、残業代も支払われなければいけないのです。

予備校の校長と管理監督者

管理監督者に街頭するかどうかについて判断した近年の裁判例として、横浜地裁平成21年7月23日を見てみたいと思います。

この事案は、小学生、中学生、高校生を対象とする受験予備校を経営する会社で働き、最終的に校長及び校長代理を務めた原告らが未払い残業代の支払いを求めて提訴したケースです。

会社が、原告らは管理監督者の地位にあったため残業代を支払う必要はないと主張したため、原告らが管理監督者の地位にあったかどうかという点が争点の一つになりました。

管理監督者の判断基準

裁判所は、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理につき雇用主と一体的な立場にあるものをいう」とした上で、これに該当するかどうかは

① 雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有するか

② 自己の出退勤について、自ら決定しうる権限を有するか

③ 管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているか

などを実態に即して判断すべきと述べました。

一般論としては特段目新しいものではありませんが、この基準に従って、このケースで具体的にどのような判断がされたかを見てみます。

管理監督者該当性の否定

裁判所は、校長を務めていた原告については

① 校長会議及び責任職会議への出席,時間割作成,配属された職員に対する第一次的査定等を行っていたものの

② 校長としての定事項は,すべて会社代表者が決裁して決定し,校長会議及び責任職会議では,役員会議,経営会議等で決定された経営方針,活動計画を伝達されるだけであり,校長が被告代表者の決裁なしに当該予備校としての方針を決めたり,費用を出捐したり,職員の採用,昇格,昇給,異動を決定することはなかったこと

③ 他の職員と同様,出退勤時間が定められ,勤務記録表により出退勤時間を被告に管理されていたこと

④ 年収が400万円代前半から半ばで残業代の支払いを受けている講師の中には、これに匹敵する年収を得ていたものもいること

から、管理監督者には当たらないとの判断をしました。

また、校長代理を務めいていた原告についても、ほぼ同様の点を指摘して管理監督者の地位に当たらないとの判断をしています。

監理監督者に該当するかどうかについて、ポストの名称や形式的な権限によってではなく「実態に照らして判断する」ということの具体例として参考になる裁判例です。

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