不正競争防止法における「営業秘密」とは?裁判例にみる有用性のポイントを弁護士が解説

前回の記事では、不正競争防止法における「営業秘密」とは何か、そしてその要件の一つである「秘密として管理されていること(秘密管理性)」について解説しました。

不正競争防止法における「営業秘密」とは?裁判例にみる秘密管理性のポイントを弁護士が解説

営業秘密として保護されるためには、秘密管理性のほかに「有用性」や「非公知性」といった要件も満たす必要があります。

今回はその中でも「有用性」について、実際の裁判例をもとに、どのような情報が「有用」とされるのかを解説します。

営業秘密に求められる「有用性」とは

営業秘密の「有用性」とは、対象となる情報が事業活動にとって役立つ技術上または営業上の情報であることです。

不正競争防止法第2条6項では、「営業秘密」として保護されるために、情報が「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」であることが求められています。

単に「役立つ情報」であれば良いというわけではなく、「事業活動にとって」有用である必要があることに注意が必要です。

裁判例においては、事業活動の内容や、当該情報の内容及び事業活動における利用方法等に照らして有用性の判断がされています。

では、具体的に、どのような情報が「有用」とされるのか、あるいは「有用ではない」と判断されたのか、裁判例をもとに見ていきましょう。

有用性が肯定された裁判例

平成26年4月17日東京地裁判決)

まず取り上げるのは、秘密管理性が肯定された裁判例としても紹介した平成26年4月17日東京地裁判決です。

この事案は、モデルやタレントのマネジメント業を行う会社が、退職した元従業員に対して、登録モデルの個人情報を使用したとして損害賠償請求をしたケースでした。

争点の一つが、登録モデルの個人情報に、不正競争防止法における営業秘密として保護されるために必要な「有用性」が認められるか、でした。

裁判所は、以下のように述べて、有用性を認めました。

原告は、顧客からモデル募集等の注文があった際に、登録モデル情報を使用すれば、顧客の注文に即した候補モデルを短時間で効率的に選別することができる。したがって、登録モデル情報は、原告の事業活動に有用な営業上の情報である。

平成15年11月13日東京地裁判決

この事案では、人材派遣会社が、元取締役らに対し、営業秘密である派遣スタッフ名簿や派遣先名簿を競業会社に開示したとして、名簿の廃棄や損害賠償等を求めました。

裁判所は、次のような理由で、当該名簿の有用性を認めています。

  1. 人材派遣業において派遣スタッフの管理名簿や派遣先の事業所リストは派遣先企業のニーズに合致した人員を派遣するために必要不可欠なものであること
  2. 人材派遣業者は、これらの名簿やリストを通じて必要な情報を管理することにより派遣先企業の求める資質を有する労働者を派遣することが可能となるものであり、それを通じて、派遣先企業からの社会的な信用を得るとともに、利益を得ることができること
  3. これらの名簿やリストを通じての情報の管理が、人材派遣業者間での競争において有利な地位を占める上で大きな役割を果たすこと

有用性が否定された裁判例

平成11年7月19日東京地裁判決

この事案では、食品や食品原材料の輸入販売を行う会社が、退職後に競業会社へ転職した元取締役らに対して、営業秘密の開示の差止や損害賠償等を求めました。

原告が営業秘密として主張したのは、「油炸スイートポテトについて、原価や利益率は秘密にしながら、取引相手にはより低い利益率を示し、企業内で極秘に利益を獲得する営業システム」でした。

しかし、裁判所は、この営業システムについて以下のように述べ、有用性を否定しました。

・有用性の有無については、社会通念に照らして判断すべきである。

・極秘に二重に帳簿を作成しておいて、営業に活用するという抽象的な営業システムそれ自体は社会通念上営業秘密としての保護に値する有用な情報と認めることはできない

平成14年2月14日東京地裁判決

この事案は、公共土木工事の積算ソフトを販売していた会社が、退職後に同種の会社を立ち上げた元従業員らに対して、不正に取得した営業秘密を利用して営業活動を行っているとして損害賠償等を求めたものです。

会社が営業秘密として主張したのは、

「埼玉県庁土木部が作成した、非公開の土木工事設計単価表の単価等の情報」

でした。

しかし、裁判所は、まず、営業秘密として保護されるために有用性が求められる趣旨は、「保護されることに一定の社会的意義と必要性のあるものに保護の対象を限定する点にある」とした上で、保護すべき情報について、次のように述べました。

犯罪の手口や脱税の方法等を教示し、あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は、法的な保護の対象に値しないものとして、営業秘密としての保護を受けないものと解すべき

そして、本件情報は,企業間の公正な競争と地方財政の適正な運用という公共の利益に反する性質を有するものと認められるから、営業秘密として保護されるべき要件を欠く、と結論づけています。

この裁判例からは、事業活動に関連する情報であっても、その利用目的や社会的な影響によっては営業秘密としての有用性が否定されうることが分かります。

あくまでも社会通念に照らして客観的に保護すべき有用性があることが必要な点に注意が必要です。

まとめ

ここまで見てきたように、有用性の判断においては、単に情報の価値だけでなく、

・実際に事業活動にどう使われているのか
・社会的に見て保護に値するか

という視点も重要となります。

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