会社が倒産した場合の給料・退職金はどうなるのか?

会社が倒産手続き(法律的に正確な言い方をすると「破産手続き」です)をするのに伴って従業員が解雇される場合があります。

弁護士として破産申立て手続きの代理人になると、申立て前に従業員を解雇する手続きに立ち会うこともしばしばあります。ある日突然、会社の倒産と解雇を告げられるのですから、従業員の方々が受けるショックは相当なものです。

このよう局面での従業員の方々の反応は、それまでの経営者の姿勢が如実に反映されます。

業績が悪い中でも従業員との間で最低限の信頼関係を維持しながら歩んできた経営者であれば何とか理解を得やすいのですが、そうではない場合は大変です。

歩んできた道のりはまさに修羅場でこそ試されるのだと実感します。

そんな破産手続きの中で労働者の給料や退職金がどのように扱われるのかということについて、説明したいと思います。

(会社全体の倒産ではなく、一部事業所や支店の閉鎖に伴う解雇の効力については次の記事を参考にしてください)
事業所・支店閉鎖に伴う解雇の効力はどのように判断されるか

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破産手続きにおける未払い給料・退職金

そもそも破産手続きとは、ごく大雑把にいえば、支払い不能に陥った会社について、その財産を全て金銭に換えた上で、法律に定められた順位と方法に従って債権者に支払い、終わりにしましょうという手続きです。

未払いの給料がある、あるいは退職金があるという場合も、これは「債権」にほかなりませんので、従業員も立派な債権者の一人です。

倒産前の時期に一方的に給料を減額されていたというケースもありますが、同意もしていないのに勝手に給料を下げるということは本来許されませんので、減額分も含めて「未払いの給料」という事になります。

給料の減額について、詳しくはこちらをご覧ください。
給料の減額と労働者の同意~給与を下げられたときに知っておきたいこと

また、解雇予告手当が支払われていないという場合には、これも未払いの債権ということになります。(ただし、後述する財団債権としての優先性は認められませんので注意が必要です)

解雇予告手当について詳しくはこちらをご覧ください。
解雇予告や解雇予告手当が必要な場合とは?

未払い給料・退職金の優先度

さて「法に定められた順位と方法に従って」債権者に支払うと書きましたが、法律には、様々な種類の債権についてその優先度や支払い方法が定められています。

このうち、未払いの給料・退職金については、税金などと同様に優先性が認められています。

具体的には「破産手続開始前3カ月間の給料」は、「財団債権」と呼ばれ、配当手続きによらずに優先的に、随時破産管財人から支払いを受けられるのです。

また、退職金についても、退職前3カ月間の給料相当額については、財団債権として、配当手続きによらずに、優先的に随時支払いを受けられることになっています。

破産手続開始前3か月の意味

ここで注意が必要なのは、「破産手続開始前3カ月間」というのは、裁判所から正式に「破産手続開始決定」が出される前の3カ月間を意味するということです。

つまり、会社が事業を停止して破産をする場合には、会社の事業の停止(従業員の解雇)と同時に破産申立てがされ、ただちに破産開始決定が出る場合もありますが、事業停止から、破産申立てがされ、さらに、正式に破産開始決定が出されるまでに一定のタイムラグが生じる場合も多くあるのです。

現在、破産手続きがどのような状況にあるのか分からない場合は、会社から破産申立代理人を務めるとして説明された弁護士に、破産申立てをすでに行ったのかどうか、破産開始決定が出る時期の見込みなどについて問い合わせれば分かります。

なお、裁判所が破産開始決定を出す際に、同時に破産管財人が指定されることになりますので、破産管財人がすでに決まっているという場合は、すでに破産開始決定が出されていることを意味します。

会社にお金がないと・・・

また、もうひとつ注意が必要なのは、「破産手続開始前3カ月間の給料は配当手続きによらずに優先的に随時破産管財人から支払いを受けられる」と書きましたが、必ず全額の支払いを受けられるとは限らないということです。

「破産手続開始前3カ月間の給料」よりもさらに優先度の高い債権として、例えば破産管財人の報酬など、破産手続きを進めていく上で不可欠な費用があります。

そのため、会社に残っている財産を全てお金に換えても、これらの債権の支払いに充てると残額がない場合、あるいは足らない場合というのが出てくるのです。

残額がないという場合は、いくら財団債権であったとしても受け取ることはできませんし、額が足らないという場合は、滞納租税の一部など優先度の同じ債権と一緒に額に応じて案分して受け取ることになります。

そのため、会社の滞納租税がかさんでいるというような場合は、どうしてもその割を食う形になってしまいます。

財団債権にならない部分について

財団債権となる「破産手続開始前3カ月間の給料」「退職前3カ月間の給料相当額」以外の未払い給料、退職金部分については、優先度が一段下がって、配当手続きの中で受け取ることになります。

ただし、これらも「優先的破産債権」と呼ばれ、一般の破産債権に優先して配当を受けることができます。もっともこの場合も、お金が足らなければ全額の配当を受けられないことになります。

情報提供など

こうして見ていくと分かるように、結局、破産手続きの中で多く支払いを受けられるかどうかは、会社に残った財産をどれだけお金に換えることができるかにかかってきます。

そのため、会社が隠された財産がある、あるいは、これを高くお金に換えることができるというような場合は、そのような情報提供を積極的に破産管財人に提供することが役立つ場合があります。

また、破産開始決定前3カ月間の給料は財団債権となり、それ以外の未払い分は優先順位が落ちるということからすると、破産開始決定が遅れれば遅れるほど、財団債権部分が減るということになります。

したがって、破産申立てが遅れている場合は申立てを急ぐように破産申立代理人を務める弁護士に求めることも有用でしょう。

立替払い制度の利用

以上とは別に別に労働者健康福祉機構が行っている未払い賃金立替払い制度を利用することで、未払賃金の一部を回収することもできます。

この制度は、会社の倒産によって賃金が払われないまま退職した労働者に対して、その一部を立替払いしてくれるという制度です。

法的手続きが取られている場合と事実上の倒産

倒産した場合というのは、正式な法的手続きが取られている場合(破産、民事再生、特別清算等)だけではなく、事実上倒産した場合も含まれます。

破産手続きが取られているという場合は、破産管財人として選任された弁護士からその証明をもらって、手続きを採ります。

また、事実上倒産したと言えかどうかについては、労働基準監督署長が認定をすることになりますので、労働基準監督署で認定を求める手続きを採ります。

労働基準監督署について詳しくはこちらをご覧ください。
相談するなら労働基準監督署か弁護士か

その他の条件

この制度を利用するためには、会社が1年以上事業活動をしていたことが必要となります。

特に近年は、会社分割など会社組織の変更が活発に行われていますので、外部的な働き方は変わっていないくても、倒産時点で勤めていた会社自体は新しいというような場合がありますので、注意が必要です。

また、破産、民事再生等の申立てがされた日、あるいは、労働基準監督署に対する事実上の倒産の認定申請がされた日の「6カ月前の日から2年の間」に退職していることが必要となります。

したがって、特に事実上の倒産の場合は、退職から6カ月が経過する前に事実上の倒産認定の申請をしておかないと立替払を受けられなくなってしまいますので、速やかに申請を行うことが大切です。

立替払いの内容と残部の扱い

立替払をしてもらえるのは、未払賃金の額の8割ですが、退職時の年齢に応じて一定の上限が設けられています。

立替払いを受けられなかった残りの部分については、前半で説明したような形で、破産手続きの中で(可能な場合には)支払われることになります。

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